第6話
目の前に広がるのは、全体が鉄に囲まれた地下室だった。実際に見たことはないが、まるで自衛隊の訓練場を彷彿させる。
そこにいるのは、エクソシストにより姿を変える人々。彼らはそれぞれ違う武器を持ち、議論をしているグループや、模擬演習を行うグループが目に入る。
驚くべきはその人数だろう。ざっと目に入るだけで二十人はいる。
「結構いるんですね、見える人」
「そうだね、周辺の県で支部がここしかないっていうのもあるんだけど、僕も昔はこんなに見える人がいるなんて思わなかったよ」
そんな話をしながら、ヒラヤマさんに案内されたのはロッカー室だ。
「ここがオオトリ君のロッカーだよ」
指さされたロッカーには、すでに僕の名前が書かれたシールが貼ってある。
「実はね、オオトリ君が入団してくれることは、予想できていたんだ」
意味ありげに、ニコリとほほ笑むヒラヤマさんは続ける。
「皆少なからずこの力に苦しめられてきたから、逆にこの能力で誰かの役に立てるのが嬉しいんだよ」
その言葉を聞いて、昨日の出来事を思い出す。カナエさんから言われた「ありがとう」という言葉。それが今も、胸の奥を熱くさせていた。
「それにこの場所は居心地がいい。ここには力のことを笑う人も、虐げる人もいない。まるで自分は普通の人間なんだと錯覚させてくれる」
そこまで言ったヒラヤマさんは、ハッとする。
「ごめん、僕たちも普通の人間だよね」
両手を顔の前で振るヒラヤマさんを、僕は肯定した。
「いえ、ヒラヤマさんの言いたいこと分かる気がします」
そういうと、ヒラヤマさんはいつも通り、また微笑んだ。
「じゃあ気を取り直して、ロッカーを開けてみて」
促すヒラヤマさんの言葉に応え、ロッカーを開けると、そこにはエクソシストとスマートホンが置かれていた。
「それは会社から個人支給されるものだよ」
「携帯なんて高価なものが与えられるんですか!?」
携帯を手に持ち、目を輝かせる僕にヒラヤマさんは言う。
「うん、非常時に連絡できないといけないからね。それに……」
ヒラヤマさんはエクソシストを指さして、「そっちの方が何十倍も価値があるから、無くさないようにね」と、教えてくれた。
オオチさんも言っていたが、
「濡れたりしても問題ないし、僕は普段からつけっぱなしにしてるよ」
そういうヒラヤマさんに促され、僕が左手首にエクソシストを付けたあと、二人とも変身を果たした。
「やっぱりこの姿だと、身体が軽いっていうか、何でもできそうな気がします」
「あはは、でもオオトリ君が見たのはエクソシストの力のほんの一端だよ」
こっち来て、と手を引かれて行くのは一つの大部屋。修練場と書かれた室名札の下を通りすぎると、そこには数人の影があった。
そのうちの一人が振り返りざまに、こちらに手を振ってくる。その女性の目線の先にはヒラヤマさんがいた。
「ヒトシさん、遅かったわね。あれ、隣の子はたしか……」
その眼鏡をかけた女性は、見覚えがある顔だ。
「そうだ、昨日ミドリちゃんと走ってた男の子だよね?」
声はとても落ち着いているが、興味深そうにこちらを、切れ長のまつげが特徴的な目で見つめている。照れた僕は目をそらすと、彼女はフフフと口元に手を当てて微笑んだ。
「なんだ、二人とも面識あるのかい?」
「い、いや、昨日たまたま街中を走っているときに会った程度で……」
首を横に振る僕に、ヒラヤマさんは「そうなんだね」と、相槌を打つ。
「じゃあ改めて紹介するよ、こちらが僕の彼女のウスイ ホノカ」
「ウスイです、よろしくね」
少しヒラヤマさんと似た、優しいオーラを放つウスイさん。夫婦だと言われても驚かないほど、お似合いだと思えた。
「そしてこちらがオオトリ タイヨウ君。少しの間だけど僕が世話をすることになったんだ」
「へえ、大抜擢じゃない!」
ウスイさんは、まるで我が事のように嬉しそうに微笑む。
少し雑談をした後、ヒラヤマさんが言う。
「さて、じゃあさっきの話の続きなんだけど、エクソシストの力は昨日君が見た以上のものなんだ」
そう言うとヒラヤマさんは、どこからともなく剣と盾を出した。
「そもそもエクソシストは、災害を止めるためのものなんだけど、元凶であるソウルをこの武器で消滅させることができるんだ」
その剣は黒く光沢があって、金属でできたものに似ていた。その剣を見ると、
「気になるかい?」と、尋ねるヒラヤマさんに、僕はコクリと頷いた。
「僕たち祈祷師はランク分けをされているんだけど、それは人為的に決められるんじゃなくって、このエクソシストの玉の数で決められているんだ。僕は二つだから、ランク2っていう訳」
得意げに説明するヒラヤマさん。
「ちなみにホノカはランク4なんだ」
フフフと笑うウスイさんは、見た目によらず強者だということだ。
「ははは、恥ずかしいから比べないでもらえると助かるよ」
そういうヒラヤマさんの顔は少し引きつっている。彼女よりランクが低いことにはあまり触れられたくないのだろう。
「オオトリ君は、まだ武器を出せないからランク0。武器を出して初めて祈祷師となるんだ」
「まずは武器を出すところから始めてみましょ」
ウスイさんの言葉を最後に、二人に言われるまま僕は立ち上がる。
「大事なのはイメージだ、自分の体内から剣を創出する感じで勢いよく行くんだ」
「武器は人によって違うから、個性がでるのよねえ」
二人は初々しい僕を、懐かしむように見ている。
「最初は声を出すと出しやすいわよ、とうーって」
フフフと笑うウスイさんのいう通りにしようとすると……
「いや、最初はセイっの方がいいと思うよ」
と、今度はヒラヤマさんがニヤリと笑って言った。
どちらがいいのか分からない僕があたふたしていると、二人の会話はさらにヒートアップする。
「いいえ、最初はアチョーが」
「いや、最初はドリャーの方が……」
「二人とも絶対遊んでますよね!!」
ツッコミを入れる僕に、二人は大きな笑い声をあげた。
「フフフ、ごめんなさい」
「つい、オオトリ君が可愛くてね。僕たちも最初はそんな感じだったんだ」
気を取り直す僕に、好きな掛け声で良いと言う二人。
「体内から創出するイメージ……いきます」
ゴクリと唾を飲み込んで気合を入れる。
「はぁぁぁぁあああああ!」
その瞬間、初めてエクソシストによる変身をした時の感覚がした。体内から熱いマグマがあふれ出てくる感じ。
「出てこいっ!」
辺りは光に包まれ、思わず瞼を閉じる。
右手には何かを掴んでいる感触がある。
(よし、成功だ!)
光が消えて目を開けると、そこには目を疑う光景があった。
「あらー可愛いわねぇ」
「ある意味これも才能かな?」
フフフと笑うウスイさんに、真面目に考えるヒラヤマさん。
僕の右手には、へにゃった棒のような物体が握られている。
その棒には、目と口のようなものがあり、とても不気味なものが完成していた。
「ま、ま、ま」
その棒は、時折口を開き、何かを言おうとしている。
「ま、ま…………まだまだだネ」
「ははは、失敗だね」
「イメージが甘かったのかしら?」
「まだまだだネ」
この世のものとは思えない物体は、もちろん失敗であった。
僕が祈祷師になるまで、まだまだ時間がかかりそうだ……ネ?
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