通勤風景

いつものように1日が始まる。


都市部へ向かう急行列車はいつも通りのだだ混み。


なぜだろうか、連休明けは特に混み具合が酷いように思う。


暗い車窓に映るのは、草臥れた中年男性の薄くなった地肌ばかりなり。


途中駅からの乗車では座れないのは当然として、吊り革を持っていたとしても、ブレーキのたびに腕を引き千切られそうになるのはなんとかならないものか。


途中の停車駅で乗降の人波に流されながら、もみくちゃになり、上に上げていた手を下そうものなら制服女子に睨みつけられる始末。


俺だけじゃ無いと心に言い聞かせて辺りを見渡すと、いつもの顔見知りも同じように辺りを見渡していた。


2時間近く我慢して降り立ったホームでヨレヨレになったスーツを叩いて伸ばし、また人波に流されて乗換え改札を抜ける。


更に何本かの電車を乗り継ぎ、ようやく会社に辿り着くのは始業開始10分前。


自宅から最寄りの駅まで歩いて30分。

鶏よりも早く起きている。


急いで自分の席に着いた途端に始業のベルが鳴り響く。


片道4時間半の通勤を経て、今から仕事が始まるのだよ。


……………

………

……

もちろん、行きがあれば帰りもある。

……………

………

……


最寄り駅の改札を出る頃には暗闇が拡がっている。


こんな時間になるとバスも終わっているから、歩いて帰るしかない。


そして一日が終わり、また次の一日が始まるのだ。


巷では異世界物と呼ばれる携帯小説が若者に流行っているらしい。


主人公が異世界に行って、その世界を満喫するというのがストーリーの王道だという。


殺伐とした世の中を対する憧れのようなものだろうか。


駅構内の書店で購入した一冊のラノベを手に電車に乗り込む。


老いからか、緑色が薄くなった角を気にしながら、異世界に思いを馳せるのも良いんじゃないかな。





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徒然なるままに異世界短編集 まーくん @maa-kun

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