遅く帰った日の贈り物
「小山!明後日の営業部長会議資料、明日の午前中が提出期限だからな。
頼んであったよな、間違いなく作ってあるだろうな」
「はあー?」
「はあーじゃねえよ、忘れてたんじゃねえよな。
じゃあ、わたしはこれで失礼するよ。フフフ」
けっ、聞いてねえぜ。
忘れてたのはてめぇだろうが。
口に出せないのは社畜の辛さよな。
定時の鐘が鳴ってから、残業確定になる。
一斉定時退社の水曜日、同僚達は哀れみの視線を送ってそそくさと帰って行きやがるよ。
とっとと作って帰ろう。
カッカッカッ………
時計の音だけがやけにうるさく聞こえてくる。
やっと終わったぜ。
山田のやつ、数字が間違ってやがった。
おかけで、集計が合わずにこんな時間になっちまったじゃねえかよ。
「やべぇ、終電がなくなっちまう。」
急いでコートを着込み、事務所に鍵を掛けて、駅へと急ぐ。
ふうー、何とか間に合った。
乗り換え駅までは40分。
途中の新興住宅地最寄り駅でほとんどの客が降りたから、この駅で降りる客はまばらだ。
「さすがにここからは電車が終わってるか。
仕方ない、歩くか。」
人気のない駅構内を歩いて、ロータリーに出る。
やっぱりタクシーの1台も無い。
ここからローカル線で2駅くらい歩けば自宅アパートに着く。
駅前商店街の切れかけた街灯の下をとぼとぼと歩き出す。
商店街を抜けると灯りもまばらに。
「ふうーさぶっ」
3月とはいえ、まだまだ朝晩の冷え込みが辛い。
「おっ、こんなところに公園があるのか。
少し遠回りになるけど、まっ良いか。寄ってみるかな。」
小さな児童公園。1つしか無い街灯の灯りが全体を照らしている。
ベンチに腰掛ける。
にゃあ~
どこからか猫の鳴き声がする。
辺りを見回せど何も無い。
にゃあ~
近いな。
ベンチの下を見ると、箱が見える。
引き出すと、そこには…
猫の女の子がいた。
「寒いにゃ」
頭に猫耳をつけて、体毛は少し。
半袖短パンじゃ寒かろうて。
コートを脱いで掛けてやる。
身長は30センチくらいか。
すっぽりとコートに包まれて、俺の膝の上にちょこんと乗っている。
「あったか~い。ありがとう。」
あんまり暖かそうじゃないけど、幸せそうな顔をしてるから良しとしよう。
「君の名前は?」
「ミケって言うの。よろしく…にゃ」
にゃのところだけ頭をコツンと倒して話す。
………可愛い
「ここに居るの、それともウチに来る?」
決して邪な考えは無いぞ。
いくらなんでもこんなファンタジーな体験、夢に決まってるよ。
「行くっ!」
即答されたので、連れて帰ることに。
アパートまでの道のり、いろんな話しをした。
会社のこと、上司のこと、それから昔飼ってた猫のこと。
ぼんやりとした月明かりの下、コートに包まったままのミケは、俺の話しを聞いているのかいないのか、分からないけど、そんなことはどっちでも良かった。
楽しい時間は早く過ぎる。
アパートに到着した。
蛍光灯の明かりと、生ゴミの匂いが、現実に引き戻す。
「さぁ、着いたよ。」
そっとコートを廊下に降ろして開くと、そこには普通の子猫がいた。
使ってないお皿に飲みかけの牛乳を注いでやると、美味しそうに舐め始める。
「明日、生ゴミを捨てよう。それと掃除もだな。
それから、これからは理不尽な残業は断ろう。
だって、ミケが腹を空かせて待ってるしな。」
なんだか、スッキリして、いつまでも皿を舐めているミケをずっと見ていた。
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