マドー書店へようこそ

草原を走りたい、草原を....





ここは千葉県木更津市の某所、颯太は学校帰りに通学路から少しそれた路地を歩いていた。




「あれっ?こんなところに本屋があったっけ?」




古びた洋館のような建物。とても本屋には見えないが、店に掛かっている看板には「マドー書店」と書かれている。




その前まで来た時、何故かそこに入らなきゃと感じた。




重厚な扉を押し開け、恐る恐る入ると確かにそこにはたくさんの本が並んでいた。




目についた1冊を手に取る。『闇魔法取扱書』




少し埃臭いそれを開くと、霧のようなものが出てきて颯太に入り込む。




薄気味悪くなった颯太はすぐにそこを後にした。






その日の深夜、颯太はベッドで目を覚ます。





草原を走りたい、草原を...




少女の声が聞こえたような気がしたのだ。




「影移動」




なんとなく呟いた彼を薄い霧が包むと、次の瞬間、病室に移動していた。




ベッドの上には10歳くらいの無表情な少女、そして寄り添うように眠る母親。




少女を見つめる颯太の頭にふっと情景が浮かぶ。




何処かの草原に座る若い男女、そして女性の腕の中には2歳くらいの赤ちゃん。




楽しそうに草原に走り回る子供達。




仲睦まじい両親はその子供達を見て、娘の成長を願っていたのだろう。




「夢干渉」




颯太が言葉を発すると、その赤ちゃんは10歳くらいの少女へと変わり、父母の手を引いて草原を走り出す。




その顔には溢れんばかりの笑みがこぼれ、親達の目にも嬉し涙が溢れていたのだった。






翌朝、目覚ましの音で颯太は目を覚ます。




あれは何だったんだろう?




中学校からの帰り道、颯太は病院から霊柩車が出ていくのを見た。


よくある光景なのだが、彼は自然と手を合わせていたのだった。




数日後、「マドー書店」に向かった颯太は、そこにあるはずの店が無いことに気付く。




そこは、彼が見慣れた空き地のままだったのだ。




「夢でも見てたのかなあ」




不思議な心地でその場を後にする颯太だった。





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