動画投稿サイト

動画投稿サイトが流行りだ。


昨今は少し落ち着きを見せているらしいが、一時は莫大な収益を稼ぐ猛者もいたらしい。


かくいうわたしも遅ればせながら、投稿を開始しようとしているアーリーマジョリティである。


稼いでいたのは、イノベータの一部やアーリーアダプタであって、彼等の多くは既に興味が別のところに移っているらしいのだが。


わたし達アーリーマジョリティは、彼等のノウハウを使いながら成功事例を辿っていく。


失敗が少なくまあまあ稼げるのだが、しいて難を言えば稼げる期間が短いくらいか。


ちなみにわたし達の後に続くレイトマジョリティというタイプもいる。


失敗を恐れて、完全に市場が落ち着いてから参入する人達のことだ。


彼等は既に低迷した市場に入ってくるので旨味は無いはずなのだが、それでも全体の4割くらいはそうなのだから、人とはそういった生き物なんだろうな。


まあ、わたしもアーリーアダプタあたりから見たら、同類かもしれないが。




唐突だが、土地を買った。


土地を買って、そこを自力で開拓する動画が増えてきたからだ。


それほど安い買い物でも無いので、この波に乗るかどうか慎重に考えたのだが、どうせなら、このブームが終わっても使えるところにしようと、古い別荘地を選ぶ。


今居る場所からは結構離れているが、さすがは別荘地だったこともあり、便数は少ないが近くまで公共交通機関もある。比較的過ごし易い気候も気に入った。


何より、破格の価格で購入できたことが大きかった。


カメラとドローンを持って現地に赴く。開拓に必要な道具は通販でも購入できるし、向こうにある資源を資材として使うことにした。


「結構残置物が転がっているな」


前の住人はイノベータだったようだ。中途半端にいろいろなことに手を付けていたようだな。


わたしの知らないものもあれば、一瞬だけ流行ったもの、今もそれなりに人気のあるものも残されていた。


とりあえず残置物は放置し、手付かずの所に手を入れていこうと思う。


AI搭載の自立型ドローンを空に飛ばして空撮を始める。


3台も飛ばしておけばいいかな。内2台はわたしの作業をしっかりと撮影してくれている。


まずは落ち着ける平地を作ろう。イノベータって奴は本能のままに動くタイプが多いから、興味対象以外は全く手つかずになっていることが多い。


前住人もそうだったのだろう。虫食いのように残置物が放置されているが、広い土地なので特に問題はない。


昔の別荘地の面影は既に無く、荒れ地と化した大部分の場所の中から比較的日当たりの良い場所を選んで、平地を作る。


木や草を刈って、家を建てる。これは動画用というよりは、キャンプ用だな。


動画としては穴を掘って粘土で住居を作るなど、比較的原始的な行動の方が再生数は多いようだから、当面はそちらを撮影用メインとする。


イノベータの前住人が作った半地下洞窟や竪穴式住居みたいなものも残っているが、それはそれで趣があるので残しておこう。


俺は今はやりの形を採用する。どうせすぐに壊すのだから、出来るだけ早く流行りのものを作ったほうが再生数的にも伸びるだろう。




こうして、自分のベースキャンプを作りながら、動画用の穴や小屋を建てては壊してを続けている。


客観的に見れば生産性の無い作業だが、再生してくれる視聴者がいて、それなりの小遣い稼ぎが出来ているのだから、こんなものなんだろう。


そんなことをしばらくしていたら、運営から何やら『金の盾』が送られてきた。


それなりに評価されているということに気分が高揚する。


固定視聴者も増えてきたということで、そろそろ次のテーマに移ろうと思う。


アーリーアダプタ諸氏の最近の流行は自動人形(アクター)だそうだ。


小さな人形を地面の上に並べて、それを俯瞰的に動画で取るだけ。


それだけなら、かなり以前からジオラマみたいなものや、ちょっとづつ人形を動かしてアニメみたいにしたものなんかがあったが、今のはちょっと違う。


勝手に動くのだ。もちろん指示は必要だ。


人形達に指示を与えれば、その通り動いてくれるので、まるで映画監督にでもなったような気分になれるらしい。


それも最近の自動人形はAI搭載で、曖昧な指示にもある程度の精度で判断し、自立運動するみたいだ。


ちょっと値段は張るが、面白そうである。


気分が高揚していることもあって、大量購入してしまった。


いつもなら、こんな無駄遣いは絶対しないのだが、金の盾の効果は大きかった。


それなりに収益が上がったことも判断を狂わせた要因のひとつだろう。


結果から言うと、自動人形は、更なる大きな収益を齎してくれた。


自動人形を使った動画の中では比較的大きな規模で作れているので、このタイプの動画ではそれなりの知名度が上がったためだ。


並行して作業していた池や丘が完成したことで、それらを自動人形に与えたりと動きにバリエーションが出たことも一因だろう。


こうして自動人形の動画では、それなりの人気者になってしまった。


既に自動人形ブームはレイトマジョリティの段階に入っていたが、そこそこお金を掛けたし、自動人形で繋いだ知名度が別の分野で引き継がれるとも思えなかった。


結局、小心者のわたしは、現状を打破することが出来ず、更に自動人形を買い足すことになるのだ。


今度の人形はさらに進化しており、2体をあれば勝手に分裂して増えるように出来ている。


結構値が張ったので、最初に4体いれてみた。


しばらくすると5体に増えている。どうやら4÷2にはならないようだ。


時間的な問題なのか、それとも個体差があるのか、それは判断が付かないが、しばらくすると最初の4体が死んでしまった。


慌てて買い足す。今度は20体、合わせて21体だ。それなりの需要が出てきたため、価格が安定してきたので思い切って増やした。


すると今度は40体に増えた。


うーーーん、規則性が分からん。


だけど増えるのは良いことだ。


そのままドローンを増やして人形の動画を配信し続けた。


放っておくだけで、それなりの収益があったので、わたしの興味は他へと移る。


今度は車の改造を行うのだ。


最初は装飾に凝るところから始めたが、これがなかなかわたしに向いているらしい。


夢中になってしまって、配信の中心はそちらになってしまった。


自動人形の方は、サブチャネルとしてしばらく運用していたが、少し経つとほとんど再生されなくなってしまったので、そのまま放置だ。


まあ、元手は十分取れているので、良しとする。


あの土地に関しては売りに出しているが、買い手が付きそうもない。


わたしが、あの土地に行かなくなってしばらくしてから、最寄りの駅が廃止になったからだと思う。


当然わたしも訪れることは無くなった。


ドローンによる自動撮影と自動配信は今も行われている。


時折思い出したようにその動画を見るのだが、思った以上に自動人形の性能は良かったようだ。


既に個体数は80億体を超え、いつの間に発生したのか、4本足や6本足の知らない形の人形も多くいる。


何よりも驚いたのが文明を持っているのである。


それは、家を建てるとかのレベルでは無く、池を勝手に埋めて自分達の住む領域を増やしたり、わたしの指示も無く戦ったりと、こちらの制御の及ぶ範囲ではなくなったようだ。


更に危険なのは、隣の敷地まで空飛ぶ乗り物を使って飛んでいくのだ。


あの辺りは既に無人のエリアなので問題無いが、あの調子だと、いずれ他者の住んでいる地域まで飛んで行ってしまうかもしれない。


そんなところで、迷惑を掛けてしまったら....


わたしは恐ろしくなって、動画のアカウントを削除し、それ以上動画が上がることが無いようにした。



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