第八話 「体育祭練習」

体育祭練習が始まった。

あれから綺花、葵、美菜の三人は体育祭の方に意識が向き、イジメは少なくなった。

とは言え、無くなったわけでは無いのだが……。


体育祭は運動部によるリレーと、クラスごとのレクリエーションと、学年ごとのレクリエーションに分かれる。

今は授業で、レクリエーションについて体育委員から発表が行われていた。

どうやら学年ごとでは台風の目を、クラスごとではパン食い競走をするらしい。

運動神経力でグループに分かれ、今は立ち位置や順番を決めていた。


「ねえ、どっちも子供っぽくない?」

「やだーっ、綺花やめなって。思ったけど」

「思ってるじゃん」

運動神経が良い三人は同じグループになり、お互いに顔を寄せ合ってキャーキャーと笑っている。

わたしは良くも悪くもと平均的で、瑠梨や他のクラスメイトと同じグループになった。

「絵穹ちゃん、頑張ろうね!」

「うん。よろしくね、瑠梨」

わたし達は顔を見合わせて微笑んだ。

ふと蘭の方を見ると、同じグループの子達とは話しておらず、余ったところに入れられている。

蘭は三人が言っていた通り、あまり運動も得意ではないらしい。そのグループに入っていた。

わたしは眉尻を下げて、その様子を見つめていた。


「最近、絵穹ちゃんよく蘭ちゃんの方見てるよね。何かあるの?」

「えっ? ……そうかなぁ、あんまり意識してなかった」

「……そっか! ごめんね、急に」

「ううん、大丈夫……」

わたしは瑠梨の様子に違和感を感じながら、自分のグループとの話し合いに加わった。

……また、なんとなく嫌な予感がする。


そんなある日のこと。

男女共に体育の授業で体育祭練習をしていたときだった。

パン食い競走の最中で、わたしとの対戦相手の中に蘭もいた。

少し気になりながらも特にすることなどないので、競技に集中する。

バトンを渡されて、二番目でわたしは走り出した。少しもたついたあと、すぐにパンを咥えることができて走り出す。


──そのとき、後ろでズシャアッと土の擦れる音がした。

驚いて振り返ると、蘭が派手に転けている。

クラスメイトは驚いていたり、心配そうな顔をしていたり、順位が遅くなることに顔をしかめていたり、爆笑していたりと様々だった。

わたしは数秒悩んだあと、とりあえず走り出して次の人にバトンを渡し、来た道を戻って行った。


蘭は、痛そうに悔しそうにしながら立ち上がろうとして、目の前にいるわたしに気付く。

わたしはおずおずとしゃがみ、蘭の肩に手をかけた。

「えっと……大丈夫?」

口下手にそれだけ呟いて様子を見ると、蘭は驚いたように目を丸くしてから──ポロリ、と涙を零した。

「えっ!? 泣いて……せ、先生! 石泉さんを保健室に連れて行ってもいいですか!?」

「おー、よろしく! 立花」

教師に許可をとり、わたしは蘭の手を握る。

よく見ると、蘭は膝から多めに血を流していた。

痛そう……これは泣くわ、と呑気に考えながらわたしは蘭の手を引く。

蘭はずっと泣き続けていた。


そんなわたし達に寄り添うかのように、陽は優しくわたしと蘭を照らし、そよ風が二人の間を横切った。

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