第六話 「作戦の熟考」

数日が経った。

蘭を助けよう! と決めたとはいえ、しっかりと平和的に解決するには作戦が必要である。


まず一つとして、わたしは教師にイジメのことを告げる気は全くない。

教師に言っても大ごとになるだけだし、蘭がまだ教師に助けを求めていないのなら、もしかして本人は言ってほしくないのではなかろうか。

更に、教師に言ってしまえば平和的解決にはならない気がする。


次に、わたしは綺花、葵、美菜の意識を蘭から逸らすことによって、イジメを無くすのが最善だと思った。

イジメをやめさせる、と言っても、わたしはやっぱりできるだけ関わりたくない。

しかし意識を逸らすだけならば、さりげなくできるのではないかと思ったのだ。

わたしは一度呼吸を整えると、四人のことをよく観察することにした。


***


また放課後。

今日は専門委員会の活動日で、わたしは図書委員なので図書室に来ていた。

今は担当場所を決め、それぞれに本棚の整理をしている。

ふと手に持っている本を見ると、題名は「何故イジメは起きるのか」。あまりにタイムリーで嫌気がさし、わたしは顔をしかめながらその本を棚に入れた。


今日一日観察をして、随分とイジメが酷くなっていることに気付いた。

一日の内に三人が蘭にぶつかった回数は両手を超えるほどだし、蘭はよく何かを探すようにキョロキョロとしていて、それを見て三人はクスクスと笑っていた。

体育の授業でも(隣のクラスと合同で体育をする)、今日は三人から四人ほどでペアになりキャッチボールをしたのだが、蘭は一人余っていた。これは三人が悪いだけではないのだが、みんな周りからの視線を気にして蘭に声をかけることはしなかった。

──わたしも動けなかった。

誘おうか、と考えては勇気が出なくて、でも何もしない訳には行かなくて。悩んでいると瑠梨に呼ばれ、キャッチボールは始まってしまった。

蘭は先生に何かを言うと、体育館の端に座り見学をしだした。三人は「うっわ」と引くような目を分かりやすくすると、すぐに楽しそうにボールを投げ合った。

わたしは自分の無力さと、意気地無しさに唇を噛み締めた。


「どうすれば良いんだろう……。わたしヘッタクソだなぁ」

そう呟いて、自虐的に苦笑する。

しかし、わたしはまだ何もできていない。諦めるには早すぎる。

蘭とは話したことがないが、あんなに悪質なイジメが自分の教室で起こっていると思うとかなり胸糞悪い。

わたしは本棚の整理という仕事を終え、先生に確認してからリュックを背負った。図書委員はルールが甘く、仕事さえ終えればいつ帰ってもいい。


そして図書室を出て、大きく長い階段を降りようとしたとき。

「あれ、絵穹ちゃんだ〜」

「委員会終わり?」

「お疲れ様ー!」

──綺花、葵、美菜に出くわした。


わたしはタイミングのせいで固まり、周りの音が聞こえなくなった。

涼しい風の音も、夏を告げるセミの鳴き声も、外の道を通る自転車の音さえも。

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