第五話 「わたしの心の変化」
月曜日。
わたしはモヤモヤとしながら、教室に足を踏み入れた。
同じ班なのだから、もちろん蘭の席は近いし、綺花の席も近い。
わたしは蘭の悲痛な叫びを聞いてから、今までどうやって知らんぷりをしていたのかわからなくなってしまった。
土曜日と日曜日でいろいろ考えた。
今まで通り知らんぷりをして、まるでイジメなんか起こっていないかのように無視をするか。
あからさまに「綺花ちゃん達! イジメなんて辞めなよ!」と告げるか。
正直どちらも良くない気がする。
無視をしてしまったら叫びを聞いたとて何ら変わっていないし、イジメを辞めるよう告げても「じゃあ何故今まで無視をしていた?」となる。こんなのほぼ偽善者だ。わたしは優しい人間ではないけれど、偽善者にはなりたくない。
そこまで考えて気が付いた。
──わたしは、蘭を助けようとしている……?
どうして。
今まで散々、気付かないフリをしていたくせに。
わたしには蘭を助ける資格なんて無いのではないか?
今更、何か行動を移してどうにかなるものなのか?
そもそも、わたしに何ができると言うのだろう?
しかし、わたしの耳には、心には蘭の言葉がこびり付いていた。
「独りは怖い」
トントン、と肩を叩かれてハッとした。
急いで顔を上げると、瑠梨が心配そうな顔をしている。
「絵穹ちゃん、大丈夫? 顔色悪いけど」
「えっ……あ〜、朝ご飯食べすぎたのかな? ちょっとお腹痛くて」
「えーっ大丈夫!? あんまり酷かったらトイレとか、保健室行くんだよ?」
「ありがとう瑠梨。今のとこ大丈夫だよ」
わたしはニコニコとしてしまった。瑠梨が心配してくれたというだけで、心が温かくなっている。
そこでハタ……と思い至った。
蘭の言っていた「独りは怖い」が、少しわかった気がした。
わたしには仲の良い瑠梨がいる。綺花や葵や美菜は、わたしには笑顔を向けてくれている。
──じゃあ蘭は?
「あ、ごめーん蘭ちゃん。足ぶつかっちゃった」
そんな声が聞こえ、そちらに目を向ける。
どうやら葵が蘭の足を蹴って、謝っているらしい。
「あ……大丈夫、です」
蘭が俯きがちにそう言うと、葵は「ホントごめんね〜」と言って綺花と美菜とクスクス笑っていた。
……感じ悪い。
見ると蘭は強く拳を握り、三人を睨みつけていた。
──わたしは決めた。
自分の体が心臓に合わせて、ドク……ドク……と波打っている気がする。
しかし、蘭の叫びを聞いてしまったから。
蘭の苦しむような小さな呟きを聞いてしまったから。
蘭の視線の強さを、見てしまったから。
わたしは震えそうな手を撫で、深呼吸をした。
蘭を助けよう。さりげなく、なるべく平和に……イジメを終わらせよう。
まるでわたしを元気付けるかのように、曇り気味だった空から一筋の陽の光が優しく照らされた。
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