第四話 「叫び」
ある金曜日の放課後。
わたしは学校の下足室に向かう途中で、教室に忘れ物をしたことに気付き、面倒だが仕方なく教室へと歩を進めていた。
途中で綺花、葵、美菜の三人とすれ違ったが、「あっ、絵穹ちゃんバイバイ!」「三人共バイバイ〜。また来週ね!」と軽く上辺の笑顔で挨拶をし合い、特に何も無く会話を終えた。
……やっぱり三人共、普段は笑顔で良い子なんだけれど。
人間とは見かけによらないものだ、と呑気にしみじみ実感した。
わたしの教室は三階で、かなり下まで降りていたのでそれなりの距離を歩いた。
……階段の往復はキツい。
わたしはふぅ、と一息をついて歩き出す。
やっと教室に着いて、ドアに手をかけたとき。
──バンッ!!!
とてつもなく大きな音が聞こえた。
思わずビクッとすると同時に、咄嗟に隠れてしまう。
誰もいないと思っていた教室から大きな音が聞こえて、心臓がバクバクしているのを感じながら、そっと中を覗き見た。
わたしは目を見開いた。
ドアの隙間から見えたのは、蘭だったからだ。
蘭は強く握りしめた拳を綺花の机に起きながら、震えていた。
さきほどの大きな音は、どうやら蘭が綺花の机を叩いた音らしい。
わたしはその奇行に困惑しながら、その場から動けずにいた。
「わたしが何したって言うの……! 嫌いなら関わってくんな! わたしのことなんて放っておいてよ!!」
蘭が苦しそうに叫んだ。
そして葵の机を、またバンッ! と叩いた。
「最悪……最低!! 腹立つ!! 本当にいい加減にしろォ!!」
最後に美菜の机を強く叩くと、蘭はゼェハァと息をしながらその場に止まった。
そしてヨロヨロとうずくまる。
「絶対いつか……見返してやる……」
わたしは正直、ヤバい子だ……と引いてしまっていた。
だって誰もいない教室で叫んで、机を叩いて、怒りまくっているのだ。虐められているとは知っていても、その行動は怖い。
しかし、蘭の次の言葉でわたしの心臓は大きく脈打った。
「でも……独りは怖いよ……」
わたしはギュ、と制服のシャツの上から心臓の辺りを握りしめた。
廊下は静まり返り、どこか心を震わすような、それでいて緩やかな風の音だけが響き渡っていた。
──もうすぐ夏が近付いている。
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