第三話 「不穏な空気」
休み時間に入り、わたしは授業中のことを思い出してため息を吐いた。
席替えをすると、班の中で掃除当番だったり日直日誌だったりと決めなければいけないことが多々ある。
そこで今回も、もちろん話し合いをしたのだが……。
綺花は蘭の存在を無視するかのように、蘭を見ないし話を振らない。
蘭は俯いて固まったまま、喋らないし動かない。
男子達は最初こそ遊んではしゃいでいたが、綺花と蘭の様子に気付き、戸惑い気味に少しだけ声が小さくなった。
わたしは自分の声が震えそうなのを感じながら、なんとか口を開く。
「綺花ちゃんは何かやりたいとかある? 掃除当番」
「んー、言っちゃっていいなら黒板やりたい! 絵穹ちゃんは?」
「わたしは……机運び、とか?」
「おっけー! 男子共はー?」
「男子共言うなー」
綺花と男子達は気軽に冗談を言い合いながら、話を進める。
わたしは一応、蘭の方を向いた。
「えっと……蘭ちゃん?」
「えっ、あ、何……?」
「蘭ちゃんは何かやりたいのある?」
「わ、わたしは……何でも……」
わたしが声をかけると、蘭は驚いたようにこちらを見て、途切れ途切れに呟いた。
すると綺花が、かなりイラついたようにボソッと言葉を口にする。
「どもりながらとか気持ち悪……。それに何でもが一番困るし」
その言葉にわたしと蘭はギクッと固まる。男子達は気付いていないようで、バカなことを言って笑い合っていた。
女子同士はピリッとした空気が漂っていて、わたしはどうしたらいいのだろうと動けなくなっていたとき。
「みんな、そろそろ書けたー? 書けた班から回収するよー」
先生が大きな声でそう言って、他の班の班長が担当の書かれた紙を前に持って行っていた。
それを見て、わたし達の班の班長も「いいよね?」と確認してから先生に渡しに行く。
そのクラスのガヤガヤとした雰囲気で、さきほどのピリッとした空気が無くなっているのに気付き、心の底から安堵した。
わたしはもう一度ため息を吐いた。
これから、この不穏な班のメンバーで約一ヶ月の間過ごさなければいけないと考えると、先が思いやられる。
瑠梨がわたしの席に近寄ってきた。
「絵穹ちゃん、えっと……大変だね」
「本当だよ……。わたし、この班で生きていける気がしないんだけど」
「わたしもあんまり関わりたくないからなぁ」
その言葉に少しだけ反応してから、私は笑顔を作った。
「やっぱり、そうだよね」
「え?」
「いや、ごめん。こっちの話」
「そっか」
瑠梨はニコッと笑い、また違う話に変わっていった。
瑠梨がいつ、蘭達のイジメに気が付いたのかは知らないけれど、やはり〝関わりたくない〟と考えるものだ。
わたしは最低ながら、自分と同じ考え方をしている人を見つけて安心していた。
空は曇り、ほんの少し冷たい風がわたしの頬を撫でた。
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