第二話 「大変なこと」
わたしがイジメに気付いて、三ヶ月が経った。
今では半数ほどが、そのイジメに気付いている。この半数も大体が女子だ。
しかし、やはり誰も何も行動は起こさない。
蘭のことを虐めているのは、クラスの数人の女子だ。名前をあげるのならば綺花(キカ)、葵(アオイ)、美菜(ミナ)あたり……だろうか。
とは言っても暴力をふるったり、お弁当に虫を入れたりなどという過度なものは無い。
悪口や陰口を言ったり、消しゴムなどの筆記用具を隠したり、無視や仲間外れにしたりとその程度である。まあ、それで蘭を傷付けているというのには変わりないのだが。
しかし他のクラスの女子には愛想も良く、その小さな嫌がらせが無かったら、普通にただの女子生徒だ。
……故に、他の気付いている者達も、余計に指摘しにくい。
正直に言って嫌がらせなど人間なら誰でもしてしまうものだし、やっぱり関わりたくないのだ。
「絵穹ちゃん、どうかしたの?」
「え? あ、瑠梨。……ううん、なんでもないよ」
つい、蘭やいじめっ子達のことを見すぎてしまっていたらしい。
クラスメイトの中でもよく一緒にいる瑠梨(ルリ)に不思議がられてしまった。
そんな彼女もイジメに気付いている者の一人で、わたしの視線の先を追って苦い顔をした。
「あー……。アレね。あんなことしなかったら良いのにね? 怖ーい」
「そうだね……」
「周りの人からの信用も無くしちゃうよ!」
「それなぁ」
わたし達は軽くそんな会話をしたあと、すぐに話題を変えた。
あまりこういう話を長くしていたくない。
「もうすぐ席替えだね、絵穹ちゃん! どこが良いとかある~?」
「んー、そうだなぁ……。やっぱり窓際の一番後ろかな?」
「あ、わかるー! なんか自由って感じする」
「そうそう! 瑠梨は?」
「わたしは先生の前じゃなかったら、どこでも」
「あはは、それもわかる」
わたしと瑠梨はそんな話で盛り上がる。
教室でも、ほとんどの生徒が席替えの話題で持ち切りだった。
しかしどこか、もやっとした嫌な予感はわたしの胸につっかえて離れなかった。
──大変なことが、起きた。
ついに席替えをし、みんなが少しワクワクドキドキとしながらはしゃいでいる中、わたしだけは絶望のどん底に突き落とされていた。
席自体の場所は良かったのだ。後ろの方だし、窓際で空気が気持ちいい。
……しかし、班員が良くなかった。
一つの班につき男女三人ずつの六人班で、男子は大丈夫。少しおちゃらけている男子と、悪ノリが好きだが一応空気の読める男子と、普段は真面目だがボケを投げられると全力でノリに行く男子の三人だ。
そして女子が、わたしと、蘭と、綺花。
わたしはいじめっ子といじめられっ子と同じ班という地獄の席に決まってしまった。
私の班員に気付いた瑠梨が、目を丸くしてから同情めいた視線を送ってくる。
私は、ザザッと音がして目の前が暗くなっていくのを感じた。
これから起こることを案ずるかのように、外で木の葉がザワザワと音を立てて揺れた。
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