教室の叫び
はっぱ
第一話 「関わりたくない」
虐められている。
わたしが、ではなくクラスメイトが。
始まり、というかイジメに気付いたのは新学期が始まってから一ヶ月経った頃のことだ。
今は三ヶ月ほど経っているので、それなりに長く続いていると思う。
虐められているのは石泉蘭という、少し小柄の内気そうな子。まだ話したことはない。
イジメに気付いたきっかけは、春から夏に季節が変わっており、天気が不安定で冷たい風の吹く雨の日の放課後のことだった。空気がジメジメとしており、下足室で傘をさそうとしたとき。
自分の傘を手に持ち固まっている蘭を見つけた。
不思議に思い目を凝らしたとき、その傘の違和感に気が付いた。
傘のワイヤーの一つが、ボッキリと外側に折られていたのだ。
最初は不慮の事故でそうなってしまったのかと思ったが、蘭の表情を見てその考えは一瞬に消え去ってしまった。
──泣いている。
必死に涙が溢れるのを堪えるかのように唇を噛みながら、静かに泣いていたのだ。
それは一つの真実を、わたしの頭に浮かび上がらせる。
『誰かに傘を折られたのか』と。
そのとき、わたしの視線に気付いたのか、蘭はサッとこちらを見た。わたしは咄嗟に目を逸らし、傘を開いて歩き出す。
驚いた。
よく道徳の授業で「イジメはやめましょう」とあるけれど、本当に身近でイジメが起こるとは思わなかったのだ。
……わたしは今、何故、逃げている?
何故「どうしたの?」と声をかけなかったのか。
何故、何も言わずに傘をさして歩き出したのか。
わたしは足を止めた。傘を持つ手が震えていた。
──関わりたくない。
頭の中がそれでいっぱいだった。
最初は、自分はこんなに冷徹な人間だっただろうかと思ったが、すぐにストンと気持ちは落ち着いた。
……誰だってそうだろう。関わりたくないと、考えるだろう。
「どうしたの?」と訊いて、蘭は正直に答えてくれるのだろうか。
「それは酷いね!」と言ってわたしが怒ったところで、何か変わるものだろうか。
イジメを先生に言って、無くして……本当に平和に終わるのだろうか。
考えなければいけないことが山ほどある。正直に言ってしまうと面倒くさい。
「……わたしは良くできた、優しい人間なんかじゃないから……」
傘の下ポツリと呟いた声は、サーサーと降る雨の中に溶けて消えてしまった。
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