3.破壊神 立つ
(できた。できたぞ!)
なにも支えを使わず、おのれの足のみで立っている。
ハイハイをマスターしてすぐだ。
(だが、ここからが問題だ)
慎重にかた足を前に進ませようとする。まだ完全に持ち上げるのは危険だ。すり足気味に少しずつ動かす。数歩進んだところでバランスをくずして、あわててしゃがみ込む。
「確実に、進んだぞ!」
まだまだ満足に歩くことはできないが、この小さな歩みは、未来につながる大いなる躍進である。
大きく手を上げ、ガッツポーズをする。
「おめでとう!」
パチパチパチ。手をたたく音が聞こえる。愛の神ラヴである。天使の姿で盛大に拍手をしている。
また来たな。
「らヴ。かえれ」
我は簡単な単語なら口に出せるようになった。あえて心で伝えず、声できっぱりと言い放った。
「つれないわね。せっかく名前を呼んでもらっても悲しくなるわ」
(帰れと言っている。我はいそがしいのだ。お前にかまっている時間はない)
メイドが来るまでにもう少し練習したい。
「あらあら。お母さまが新しい命を宿したので、ディスちゃんが寂しいと思ってわざわざ来てあげたのに」
(そうか。子ができたのか。それでなぜ我が寂しくなるのだ?)
「ここの領地は過酷な環境のわりに人手が足りないから、皆いそがしいでしょう。お母さまも、なかなかアナタに会いにこれないくらい。それなのに、新しい子ができたらもっとアナタとの時間が少なくなるわ」
それがなんだというのか。今の様に一人にしてくれたほうがいろいろとやりやすい。
(それよりも、ラヴよ。魔物とはなんだ?なぜ、人は戦っている?)
ラヴのいう過酷な環境というのは魔物のことだろう。あまりに頻繁に出現しているので父はほとんど家にいない。
「それは、あなたが大きくなったらわかるから。お父さまも、おいそがしくて寂しいわね」
答える気はないようだ。
「かえれ」
ラヴの相手をやめ、歩行練習を再開する。
まずは、人の体を理解し、自由に動けるようになるのだ。
その後、知識を得る方法をさがす。
壁に手をついて、足を上げながら歩く練習をする。少しずつ、少しずつ慎重に進む。
怪我でもしたら、練習ができなくなるばかりか、メイドの監視が厳しくなるだろう。慌ててはいけない。
メイドが来るまでの短い時間であったが、有意義に過ごすことができた。
ベットのなかで、今回の問題点と、今後の課題をかんがえる。すると、疲れからか意識が薄れ、眠ってしまった。
その間、ラヴはニコニコと我を見ていた。
破壊神は、壊せない。 YA-かん @yakan9696
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