14 エピローグ

 祁答院獣けどういん じゅうは、気絶した状態で秘密裏に病院へと輸送された。

 学校での不祥事が警察沙汰になり、評判を落とすことにがないようにという理事長父さんの犯行だ。


 蒼葉は白髪白肌の美しい全裸の幼女を学内で保護し、秘密裏に自宅へと連れ帰ったらしい。

 わたしのように霊感がない人間には視認できないので、こっちは問題なし。


 尻穴処女を失うことになった鞭術部の部員と、目撃者には祁答院家への損害賠償とは別口で、学校から口止め料を支払った。

 学生に大金を払い不自然な状況にならないよう、来年度の学費の免除の確約。

 来年卒業である部長さんには、関連大学への推薦――と言う名の裏口入学の案内。

 

 カネの力というのは素晴らしい。

 尻穴の犠牲など安いものばかりと言わんぐらいに「ご配慮いただきありがとうございます」と、どこの家庭からも感謝された。

 来栖さんのトコは金持ちなので渋られたが、友達からの感謝という名目で押しつけた。


 共犯者にしなければならないという魂胆ありきで、ね……謀ったのだよ。

 全員に今回の件は黙っていて貰わなければ困る。裏切りは者には死だ。


「もみ消せることが分っていたら、鞭使いの全力を発揮して一方的な残虐ファイトをしたのに」

「わざ苦戦して、正当防衛に見せかける必要はなかったですね。失敗しました」


 そんな風に言われた時には、少し泣きたくなったが。


 蒼葉程ではないにせよ、この人たちも完全な武闘派なようで――部長さんのほうも、警察に過剰防衛で注意されたことがある人間らしい。こわ。


 あと、どうでも良いことなんだが……

 尻穴を掘られた飯嶋先輩が目覚めた。ナニにとは言わないが。


 祁答院の処遇は、相手の保護者と話して決めることになった。

 ドラム缶にコンクリ詰めにして名古屋港が良いと思っていたが、そうもいかないらしい。


 で、呼ばれたのが祁答院獣の母親。

 何処かで見た覚えがあり、相手の顔を凝視していたのだが、向こうもコッチをガン見している。


紅蓮の乙女ヴレイズヴァルキリー……」


 彼女の口から漏れた言葉に、わたしは心臓が止まるかと思った。

 何故、どうしてその名称をしっているの?


 あなたは何者――――、




 そこで、気付いた。

 見覚えある顔、見覚えのある理由。

 紅楳深紅としては会ったことがなく、前世の”私”が良く顔見知った人物。


「蘭、ちゃん……埜上蘭のがみらんちゃん!」


 ”私”と一緒のサークルで、メインシナリオを手がけた女性だった。

 老けているが、間違いない。眉毛とか、目元とか、若い頃の面影がある。


 わたしは、蘭ちゃんに抱きついて泣いた。

 状況が分らない父さんは困惑していたし、同席していたボディーガードの皆様も、どう対応すれば良いのか分らず放置プレイ状態だった。


 抱きつかれた本人の蘭ちゃんは意外と冷静で「どうしてこうなった。慢心、環境の違い……」と、オタク的な発言をしながら、わたしの頭をナデナデしていた。


 そこからわたしの脳内で蘭ちゃん家庭崩壊劇場が妄想されて罪悪感でいっぱいになり「この人は、子供の頃に個人的にお世話になった人なの。息子は悪くても、この人は悪くない。酷い目に遭う様なことはしないで!」とせいいっぱい懇願こんがんした。

 これにより、祁答院獣の処遇は軽いものとなった……らしい。

 らしいというのは、処遇の内容がわたし秘匿されたからだ。


 少なくとも、生きているうちに会うことはないと父さんは言っていた。

 僻地の高校に転校――あたりの処理だろうと予想をしている。



 で。

 それから数日が経過し、わたしと蘭ちゃんはカラオケボックスで密会をしていた。


「ようやく二人きりで会えたね、紅蓮の乙女ヴレイズヴァルキリーさん」

「そうね。蘭ちゃん――――あ、先に曲入れるわ」

「おいおいまてまて。カラオケよりも先に、状況の説明でしょうが!」


 まったく、せっかちな人間だ。

 すぐに突っ込みをいれる体質が昔から変わっていない。


「転生しました、以上です」

「なるほど、だいたい理解した」


 さすが、蘭ちゃんである。


「で、私たちの深紅ちゃんの中身には、誰が入っているワケよ?」

「わかんないのは、結構ショック。”私”だよ、”私”」

「いや、俺オレ詐欺じゃないんだから……」


 そこから、二人して状況の擦り合わせをした。

 まず、『妖怪憑きと王子様』の名称がネット検索でヒットしない件。


 理由は至極単純。

 新鋭売り出し中の企業”紅楳グループ”から販売をできれば取りやめてほしいと声がかかり、発売が頓挫したからだ。

 ”紅楳”の名字は全国的にも珍しく、そんな名字を持つキャラクターが不当な目――レ○プなどされるのは、グループとして不快であるし、会社の信用失墜に繋がる可能性もあると。


 当時、”私”たちのサークルが出す同人などを良く購入していた母さんによって、交際中の父さんが知ることになったらしい。


 だが、これだけなら”紅楳”の名称だけ差し替えて発売できるのでは?

 テキストの修正と、音声収録のやり直しが必要だが、なんとかなる範囲ではある。


「そうなんだけど……ね。深紅ちゃん、自分の死因って覚えてる?」

「飲み会でお酒を飲んで、家に帰ろうとしていたのは覚えている。つまり、トラック転生だと思っていたんだけど……」

「あー、テンプレだもんね。でも、違う。正直、胸くそ悪い話なんだけど……聞く?」


 蘭ちゃんの目は、聞いたら後悔する……と語っていた。


「覚えてないなら、私は思い出さないことをオススメするけど……」

「知りたい。自分の最期だもの」


「レ○プされた死んだ」

「は?」


 なに、それ……


「レ○プされて死んだのよ」

「”私”が?」

「そうよ」


 ……聞かなければ良かった。

 後悔後に立たず、である。


「顛末を見ていた人は誰も残っていないから、あくまで想像になるんだけど――――」


 大学の飲み会終了後、”私”は電車で家まで帰ろうと、駅に向かって歩いていた。

 そこに「駅まで乗ってく?」と、サークルの車持ちのメンバーに声をかけられ、搭乗。


 駅までという距離なので、当時の”私”には油断があったのだろう。

 車の中で寝てしまい、気付いたときには知らない天井。

 ホテル、複数の男、生娘が一人。


 本当にありがとうございました。

 楽しい人生でしたね。


 ――最も、終わったのは”私”の人生だけでなく、男達も一緒らしいが。


 行為後、油断している男を部屋にあった花瓶で撲殺。

 その乱闘行為の末、”私”も頭に大きな傷を負い……


「まあ、覚えてないから良しとするわ」

「いいの? そんなんで」

「大丈夫だ、問題ない。たぶん、覚えてたら転生後に発狂だったと思うけど……今、蘭ちゃんから話を聞いた限りでは他人事。わたしは、”私”じゃなくて”わたし”だから。それこそ、輪廻転生があるなら前世が人間じゃない――ダニやゴキブリのような人だっていると思うし。それよかマシよ」


 それに、わたしの全てはたっくんに捧げた。

 レ○プされた記憶もないし、肉体も前世とは違う。

 それで良い。そうではくては――、困るのだ。


「ま、そんなこんなでサークル崩壊よ。全部消滅」

「通りで、サークル名をネットで検索しても出てこないワケだ」

「垢拓なんかは残ってるかもしれないけどね。弱小だったし、今でも覚えている人なんて数人よ。あなたの名前に、深紅なんて名付けてしまう重度なファンとか」

「ははは……母さんもサークルの物販に並んだりしてたのかな。今は脱オタしてるけど……」


「でも、あなた本当に紅蓮の乙女ヴレイズヴァルキリー――ゲームでの紅楳深紅にソックリ」

「自分でもそう思うわ。きっと、神様の仕業」

「神様とか、いや、転生もあるんだし……存在する可能性が高いのか」


 レ○プされた死んだ”私”を、レ○プされて死ぬ運命にあるキャラクターに転生させるとは、神様も中々性格が悪い。

 しかも、乙女ゲームの世界に転生したんじゃなく、乙女ゲームのキャラになって現実に転生するという斜め下な仕様……


「絶対に存在してると思うよ。この世界、紅楳深紅だけでなく蒼咲蒼葉までいるし」

「……なに、その冗談」

「本当よ。わたしの子供の頃からの親友。しかも、霊感持ち……」

「マジかよ! 今度、蒼葉ちゃんにも会わせてよ。なんたって、私たちの創った可愛い娘だし……」

「ええ。知り合いの叔母さんってことで紹介しておく。というか、蒼葉にはお腹を痛めて生んでくれた両親がいるわ。本人の前で、変なコトは言わない様に注意してよね。わたしも、前世の記憶があることは黙ってるし……」


 で、この話は取りあえず横に置いておいて。

 蘭ちゃんには、聞かなくてはいけないことがある。


「でさ。子供と言えば、蘭ちゃんの息子。祁答院獣。なんなのあれ?」

「アレは必然。外道院げどういんと、嫁いだ先の祁答院けどういん の響きが似ているので、カッとなって獣と名付けた」


 獣と名付けられた少年は、すくすくと育つ。

 ただ、他の子供とは少し違う点があった。


 それは――性欲。

 普段は自分が相手をして満足させていたが、中学になって暴走したらしい。


「風呂上がりに無警戒な姿でいたら、息子が狼さんになちゃってね……」

「つまりは、近親相姦と……」

Exactly!その通りでございます)」


「うわー……引く。冗談だと思いたいレベル」

「言うな。自覚はある。マズイと思ってたんだけど、私も拒絶できずに関係が続いてね。旦那は相手してくれないし……若い身体って良いじゃん。まあ、上手くはいってたんだ。それなりに気持ちよかったし。狂ってきたのは、獣に『妖怪憑きと王子様』をプレイさせた後からで……」

「何故乙女ゲーをプレイさせた」

「いや、三次元の女体にばかり目を向けていたから、二次元の良さ+男の魅力に気付かせようと思って……」


「この、変態が!」

「はは。よせやい」


 イラッとした。

 まあ、話を続ける。


 『妖怪憑きと王子様』をプレイした獣少年は、蘭ちゃんの狙い通り男の魅力に気付いた。

 数日後には公園のベンチに座り男性をハンティングホイホイする作業を始め、母のためにホームビデオも撮影してくれたそうな。


「で、それは双方合意だから別に問題なくて……」

「倫理的にあるからね。問題」

「それはわかってる」


 絶対分ってないぞ、コイツ……


 性欲に折り合いを付けて暮らしていた獣少年のバランスを崩したのは、”紅楳深紅”と”蒼咲蒼葉”の存在。

 進学した高校には、ゲームに登場したキャラクターと同姓同名の、容姿までソックリなキャラがいるのだ。


 思春期の少年が、自分のことを特別だと思うのには時間がかからなかった。


 ――俺は”外道院獣”が現実世界に転生した姿なんだ。


 少し遅れてやってきた中二病である。

 それから、あとはわたしの知っての通りだ。


 蒼葉に彼氏がいたので、ゲームのフラグが折れている原因を探りながら、別に目を付けていた来栖さんを狙って……という流れ。


「ここまでの話――というか、態度に疑問があるんだけど」

「なあに?」


「蘭ちゃんさ。息子が犯罪犯したのに平然としてるよね」

「まあねー。処遇的にはかなり温情を貰えたし。一生会えないわけじゃないから別に良い。犯罪者の両親のレッテルも貼られず隠蔽されるみたいだし。それに――だらだら続いていた肉体関係が解消されたという安心感が、非常に大きい」

「まさに利己的、まさに外道……本日二度目のドン引きだよ」

「大人になるっているのはそういうことさ」

「嫌な大人だねぇ……本当に」


 その後も、わたしと蘭ちゃんはお喋りをした。

 蒼葉のことだったり、前世の両親に関することだったり、色々。いろいろと。


 カラオケができたのは「残り10分でーす。しゃーっす」という店員さんからの電話の後、1曲だけだ。

 残酷な天使をテーゼした。


「じゃあ、今日は楽しかったわ。ちゃ

「わたしもですよ。。今度は、蒼葉も誘って三人でカラオケにいきましょう」

「フフ。おばさん、楽しみにしてるから」


 最期に、ハグをして別れようとしたとき――――


 見知った外見の男が、わたし達――いや、わたしのことを見ていることに気付いた。


「ね、ねえ、蘭ちゃん。アレって……」

「どう見ても村崎紫龍むらさき しりゅうなんだけど」


 彼は『妖怪憑きと王子様』に登場する攻略対象で、ヤンデレ属性。忍術で妖怪と戦うというニッチなキャラだ。

 ……どうやら、まだまだ折れていないフラグがあるらしい。



 FIN.

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紅蓮の乙女は腐ってる @hucyou

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