13 体育館裏のできごと



 体育館裏にいたのは、祁答院獣けどういん じゅうと――


「飯嶋! 佐伯!」


 尻をむき出しにして、倒れている人間が二人。

 露出している臀部でんぶには白濁色の液体と血痕が付着している。

 部長と来栖さんが駆け寄り、介抱をする。

 恐らく、残りの鞭術部員なのだろう。


「おいおい、部長さんと八重ちゃんだけだと思ったら、紅楳と堀田もいるのか」

「まさか……祁答院くんが、ったの……?」


 堀田さんが、震えるような声をだして聞く。


「見て分らないか? なかなか良かったぜ。こいつらの具合はよォ」

「そんな、三次元のガチホモレ○プなんて……許せない、同意なしでの尻穴は二次元に限るのに、あんたッ……!」


 怒りが頂点に達した堀田さんは、祁答院に向かって走り出す。

 無理だ。そう思い彼女を止めようと手を伸ばすが、届かない。


 堀田さんは大きく拳を振り「アッーああああああ!」と叫びながら突撃する。

 だが、その拳は、祁答院に当たることがない。


 むしろ、逆に――


「う……あ…………」

「紅楳と八重ちゃん犯して弾が残ってたら相手をしてやる」


 祁答院に鳩尾を殴られ、堀田さんは地面に倒れた。


「それと、だ。俺はホモじゃねぇ。両刀だ。覚えとけ」


 地に伏し痙攣している堀田さんを、祁答院は蹴る。蹴る。蹴る。

 どうする? ここでタイマンを挑んでも勝算は薄いとわたしの勘はいっている。


 ――普通にチャラい感じ。


 昨日まで2週間で、わたしは祁答院の評価をそう固定した。

 だが、人間性を判断するのが早すぎたようだ……


 あと1日、あと1日早ければポケットにスタンガンがあった。

 カッターナイフもあった。

 五寸釘もあった。


 今は、武器になりそうなものはボールペンが一本だけ。

 これを振り回したところで、威嚇にもなりはしないだろう。


「よぉ、紅楳。そんなに睨んだって事態は解決しないぜ?」

「……」


 祁答院の、余裕な態度――何か理由がある?

 人数的には三対一、こっちが有利なのに対処できる気でいるのか?

 部長さんは一般人っぽいけど、来栖さんは古武術経験者。彼女に肘鉄くらってる祁答院ならそのことは理解しているはずだが……


 もしかしたら、伏兵が隠れているのかも。


 そう考えたと同時に、茂みから屈強な男ガチムチが二人現れ、来栖さんに殴りかかった。

 来栖さんはバックステップで攻撃を避けると、拳を握って応戦を開始する。

 状況は均衡しているようにみえるが、短期決戦できなければ体力面で不利になる。


 部長さんはどう動くのだろうと視線をやれば、彼は倒れている部員の尻穴に付着した汚れをティッシュで拭き取ってズボンを履かせるという作業をしている。


 立ち尽くすわたしを、ニタニタとした下品な顔で見下してくる祁答院。


 こんなに堂々と学内でレ○プなんて……

 教師が買収されている? どう動くのが最善だ?


 ゲームとは、全く違う展開だ。

 だけど、選択肢を間違えれば、間違いなくレ○プ。そして、死――。


 恐怖に、身体が震える。


「電波が繋がらないんだけど。そっちはどう?」


 部長さんの言葉で我に返り、緊急コールをするがノイズが走るだけだ。

 学内の回線にも繋がらない。


「大規模なジャミング……なワケはないよなぁ」


 おそらく、電波が繋がらない不可解な現象は霊障の影響だ。

 ゲームの設定通りなら、祁答院も仲間のガチムチも狂気に感染しているハズ。


 蒼葉が”がしゃどくろ”を倒しても、狂気の残滓はすぐには抜けない。

 なんとか、わたしたちだけで対処しないと……


「ここは僕らに任せて、キミは走って先生を呼んできてくれ」

「でも……」


 わたしたちが会話するのを、祁答院は堀田さんを足蹴にしながら観察している。

 くそ、余裕だな……


「でも、じゃない。行って」


 部長さんはわたしと祁答院の間に入り、ファイティングポーズを決める。

 喧嘩慣れしている様には見えない先輩が、なんの気負いもなく自然にそう言える姿に尊敬を覚える。


「僕は、この程度の相手には負けないよ。無論、来栖さんもね……」

「はッ! 格好を付けやがって。犯してやるよ――女共の前でな!」

「やれるもんなら、な。貴様に見せてやる、鞭使いの恐ろしさというものをな!」


 部長が、祁答院に襲いかかる。

 同時に――――


 わたしは、部長さんの肩を掴んで、無理矢理制止させた。


 何故?

 そんな顔をする部長さんを無視し、前に出る。


「部長じゃなく、わたしがお相手するわ」


 胸元のホックを外し、胸の谷間を全開にした。

 カーディガンも脱ぎ捨てる。


 たっくん以外に、ここまで見せるのは屈辱だ……


「おお、身体を差し出すから優しくして、ってか!」

「ええ。レ○プより和姦のほうが良いでしょう」


「紅楳さん! 早まらないで」


 来栖さんが、男と殴り合いながら叫ぶ。

 なんとも、勇ましい。


「馬鹿なことをするな! 僕に任せて後ろに下がれ!」

「最適な生存戦略です。部長は、わたしが相手をしている間に、来栖さんに加勢してあげてください」


 声をあげるが無理に静止してこないあたり、部長さんは童貞だなぁと、どうでも良い思考が頭を過った。


「おう! おうおうおう。そういうシチュエーションか! 嫌いじゃねえな!」

「じゃあ、キスからよろしくお願いしますわ。淫獣先輩……」


 わたしは、身体を震わせながら一歩、また一歩と祁答院に近づく。

 背伸びをして、祁答院の首に手を回し――お互いの視線が交差した。


 顔近づく、息がかかる。

 気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い持ち悪い気持ち悪いッ……!


 だが、目は閉じない。

 ギリギリまでタイミングを見極めて――――


 祁答院が、キスをせがむように目を閉じる。

 馬鹿だな、淫獣先輩は。


「かかったな、ダボがァ!」


 わたしは、祁答院の股間を再起不能リタイアさせるつもりで膝蹴りを放つ。


「くぁwせdrftgyふじk!!」


 奇声をあげてよろめく祁答院。


「URYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」


 わたしも、負けじと奇声をあげて、突き刺す。

 ポケットに入っていたシャーペンを、祁答院の顔面――右の眼球に。


「貴様が、レ○プであろうと和姦であろうとォ! キスする時に目を閉じる性癖を設定したのは、この”私”だァー!!」


 祁答院に思い切り体当たりをし、マウントポジションを取る。

 そして、殴る、殴る、なぐっ――――た所で払い飛ばされた。


 祁答院は眼球に刺さったシャーペンを抜き、投げ捨てる。

 右目は真っ赤に充血し、顔は憤怒の形相でまさに――――鬼。


「テメェ! 犯してから殺して犯してや――ガッ……!」


 祁答院は、最後まで言葉を喋ることができなかった。

 何故なら――――


「鞭にはこういう使い方もある!」


 部長が鞭を首に巻き付け妨害し、来栖さんが回し蹴りで昏倒させたからだ。

 倒れた祁答院に、部長が続けて鞭を打つが、ビクンビクンと痙攣するばかりで反応がない。

 意識が、完全に刈り取られたのだろう。


「ふ、フフ腐……」


 そこに、顔面が腫れ、ボロボロな装いの堀田さんがやってきて……

 祁答院のベルトを外し、ズボンを降ろすと――尻穴にシャーペンを差し込んだ。


 何度も、何度も何度も。狂った様に、何度も何度も。

 わたしたちは、ただその様子を無言で見守っていた。



----KURUSU MEMO----

 部長の尻穴「*」←キレイ(きたない)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る