12 妖怪
妖魔関連のイベントで迂闊な動きは死に繋がる。
でも、大丈夫だ。問題ない。
こっちには強化された
わたしは心の中で深呼吸をし、部長さんに問いかける。
「部長さん、その鞄に付いている髑髏のストラップは……」
「日本萌え妖怪シリーズ”がしゃどくろ”の限定水晶カラー版さ」
萌え妖怪? さすがにこの髑髏に萌え要素を発見できない。
男性の鎖骨は好きだが、筋肉があってこその鎖骨だと思っている。
お互いに似たようなことを考えたようで、鎖骨を触りながら性癖の一致を確認する。
「何が萌えか知りたいって感じ?」
「あー、原作ではこの骸骨が萌えキャラなんだけどーーこの話いる?」
「い「はい!」」
堀田さんが話をクローズさせようとするが、聞いておきたいので被せて返事をして「ごめん」のジェスチャーを彼女に送っておく。
「”がしゃどくろ”ってのは骸骨や怨念が集合した妖怪。オレ、オマエ、マルカジリってな感じに生きている人間を握り潰して食べるような食生活をしてる。で、コイツは……えー……っと」
説明を始めた部長が、気まずそうな態度で目線を這わせる。
妖怪関連だし、女性に聞かせにくいグロ話なのだろうか?
「部長さん、続きが聞きたいです」
そこに、蒼葉が食い付いて続きを促す。
「原作がアレなので女の子に話すネタじゃなかったと今、猛烈に脳内で後悔してるんだけどーーこの話打ち切りでいい?」
「いいえ。ここには、そんなことを気にする様な普通の女性はいませんから続けてください!」
――大丈夫ですよね。
そんな目線を、わたしら三人に向けてくる蒼葉。
情報収集の一環というより、興味本位だな。これは……
伝承、元ネタなどなど、知識があったほうが妖魔と戦いやすいのだろう。
「いや、女性に伝えるには本当にアレなネタだから……」
「私たちは大丈夫です。深紅ちゃんの部屋にあるアレなもので耐性が付いているので」
「おい、蒼葉さん。貴様何を言うだ」
許さん。
わたしの部屋に、妖怪関係の猥談に耐性が付くような禍々しいものは何も置いてないぞ。
あるのは普通の少年少女青年漫画と、少しホモホモしい漫画と、露骨なホモと、全年齢対象のBLゲーだけだ。精神の健康を穏やかにする書籍やゲームしかないではないか。
ーーちなみに、今世では乙女ゲームには手をだしていない。
人生そのものが乙女ゲームなワケだし、やる気が失せるというのもあるんだけど……現実世界のたっくんルートが再推しすぎて創作で誰かを攻略する気になれないというのが最大の理由だ。
「えっと。グロってよりも下品なネタなんだよ」
「あたしと深紅っちは余裕やね」
「え? なんでわたしも余裕判定なの。まあ、確かに余裕だけど……」
「私も大丈夫ですよ。下品なアンデットを解体する作業には馴れているので」
来栖さんのは、ゲームでの話だよね……
「まあ、全員良いなら良いか」
部長は溜息を吐くと「セクハラで訴えるのは勘弁」と予防線を張って、何が”萌え”なのかを説明し始める。
要約してしまえば、この”がしゃどくろ”はアダルトゲームのキャラクターで竿役の一種。レ○プされた女性の骸骨や怨念で構成された性的な妖怪。
生前の恨みから、恋をしている女性を主食として犯して喰べる魑魅魍魎。
原作主人公である霊媒師に祓われて妖力の殆どを失うと、白髪に白肌の美しい全裸の幼女になるのだが、
瞬時に告白をするも「おじさん、こんな子供に欲情するの?」と凍えるような殺気を向けられる。
しかし「ああ、オマエが好きだ。行こう、俺たちのロリコニアへ!」と変態発言をして、幼女(殺気を飛ばすが無抵抗なので同意と判断した)に襲いかかる。
そこから幼女は性の喜びを知り、2人の恋が始まる――。
そんなルートに登場するキャラクターで、ツンデレからデレデレにまで推移する過程が人気爆発、萌えキャラとして一部界隈には認知されているらしい。
「控えめに言っても頭がおかしいじゃん」
「設定考えた人は変態というか、鬼畜ですね……」
ストラップが幼女ではなく髑髏なのは、
オタクグッズを所持して所有欲を満たしたいけど、オタクグッズなのがバレたくないわたし。その
あと、このストラップが部長のものではなく、部員の飯嶋くんの所有物であることを強調された。
なのになぜこんなに詳しいんだい? 部長さん……。
「僕がやったことあるのは兄貴に借りた全年齢版なんだけど……すごい感動の雨嵐で泣いたから覚えてる。ゲームの名前は『妖魔憑きの霊媒師』だから、気になったら検索してみると良いと思うよ。8Kリマスター版が数年前に出てるから。まあ、僕的には”がしゃどくろ”といえば、来栖さんと名字が同じゲームの主人公に回廊で倒されるボスキャラクターなんだけど――」
部長の話を聞いていると、嫌な符合の合致に気付く。
だって、レ○プから始まる恋というのは……
不安になり蒼葉に声をかけようと隣を見ると、臨戦態勢といった雰囲気で、鋭い視線で虚空を睨んでいた。
「ねぇ、蒼葉さんや……」
「霊障が、急速に
どう考えても
とりあえず、この場を離れないと。
なんだか、身体が重くなってきた。
「デモンストレーションというのは、室内でやるんですか?」
「外だよ。もうすぐ他の部員も戻ってくるだろうし、先に体育館裏に行って待っていようか」
「賛成! ここ、空気わるいですからねー。いるだけで
堀田さんが元気に同意してくれたので、全員揃って外に出る。
部室の鍵を閉め、しばらく雑談しながら歩いたところで「部室に忘れ物をしてしまいました」と蒼葉が言う。
”がしゃどくろ”を駆逐するため、一人で部室に戻るつもりだ。
原作と同じ髑髏のストラップが霊媒になった事象だが――そこでは名も無い怨霊が所持者の恨み辛みに引き寄せられたという設定だった。
”がしゃどくろ”というネームド個体ではなく、序盤に登場する名も無い個体。
蒼葉が強化されたことにより、妖怪も強くなっていたら……?
胸中が不安に満ちて身体がブルリと震える。
大丈夫、今更だ。これは武者震い、蒼葉が負けるハズない。
蒼葉はわたしの不安を察してか、頭をポンポンと撫で「任せて」と耳元で囁く。
まったく、いつもとは逆の構図だよ……
「忘れたのは貴重品? 僕と一緒に戻ろうか。来栖さん、悪いけど他の皆と――」
「大丈夫ですよ。
「そうだっけ?」
「はい、そうですよ」
閉めた気がするけど、閉めてないような気もする……
なんだか自分の記憶が怪しい感じだが……
ああ。これ、蒼葉の言霊か!
霊圧を乗せて喋ることにより、ある種の催眠状態にするというヤツ。
ゲームでも、人払いに使っていたから覚えてる。
部長さんは納得がいかない顔をして首を傾げるが「では、カギを貸して貰えますか? 閉まってなかったら閉めてきます」という蒼葉の言葉に、すごすごとカギを渡す。
小走りで、部室へと戻っていく蒼葉。
わたしは彼女の無事を祈った。
そして。
わたしたちがやってきた体育館裏。
そこには、予想外のイベントが待ち受けていた。
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