11 見覚えのあるイベント

 ――翌日。


「答えはπの2乗か……」


 つまりは、ぱいぱい。っと……


「響きがエロイ」


 わたしは、自分の机で1限目の授業に備え予習を行っていた。

 高校の数学は受験勉強の時に必死にやったけど、今世のほうが進学校ということで高難易度のため無勉強でミニテストと洒落込むのはちょっとこわい。


 転生した肉体の頭脳はハイスペックだが、ハイスペックだからこそ余暇時間を趣味とたっくんにすべて注いでいるので学校で必死こいて勉強する必要があるのだ。



 教室前の扉を開け、淫獣先輩が入って来た。

 金髪をワックスで整えたヤンチャなイケメン――コイツまじで顔がいいな。


「おーっす」

「はよ」

「おはよー」


 近くの席にいる連中が適当に挨拶をするのに混ざり、わたしも社交辞令で「おはようございます」と適当に言っておく。


 その流れでなんとなく淫獣先輩を目で追うと、彼は自分の席に荷物を置いたらまっすぐに来栖さんの机まで歩いて行くではないですか。


 朝から突撃とか、好意が全面にラブハートしすぎていてこわい。


 陰獣先輩はスタスタと歩き、来栖さんの背後にまわる。

 すぐに、ゲームで蒼葉にやってた「だーれだ」をやるのだと分かった。


 分かったけど、会って二日目のクラスメイトにそれはまずくない?


「だーれだ!」


 そう思った瞬間、ミシリ。という嫌な音と同時に来栖さんの肘打が淫獣先輩の顔面に打ち込まれた。


 淫獣先輩は衝撃で後ろのめりになって転び、机の角に頭をぶつける。


「ッ――――!」


 うめく声。出る鼻血。

 静寂に包まれるクラス。


 そんな中で、わたしは「淫獣先輩撃沈ワロタ」と漏らしてしまった。

 教室中に声が響いてしまい、わたしは祁答院けどういんくんに睨まれた。


 すまぬ……


 来栖さんは慌てて淫――祁答院くんを介抱し、


「ご、ごめんなさい! 強そうな外見だけど弱いんですね……手加減すれば良かった」

「う、うう……」


「私の大好きな――大切なお友達なんですけど。その人に祁答院さんのことを相談したら”不埒な相手にはガツンとやっといた方が良いよ”とアドバイスを貰いまして」

「あ、ああ……」


「だから、私に関わらないでくださいね。性的な意味で」

「く……」


 精神的な追い打ちをかけていた。


 余談ではあるが……

 わたしの「淫獣先輩撃沈ワロタ」発言は教室中の全員に聞こており、その日から祁答院くんの渾名は『淫獣先輩』になった。


 正直、反省している。

 わたしだけはシッカリ、祁答院くんと呼んであげよう。



 で、数日後。


 来栖さんが暴力沙汰でクラス内で孤立しないようにと、積極的に関わりにいった結果――ものすごい仲良くなった。

 彼女の趣味であるオンラインゲームの話題をしたら意気投合したのだ。


「淫魔城攻略、私も一緒に行きたかったのに置いていったんですよ!」

「わかるわかる。たっくんもわたし置いて野良パーティ組んで行ったし!」


 そうなってくると、来栖さんを犠牲に――なんて考えは却下でしかない。

 祁答院くんから、来栖さんの彼氏候補の尻穴を守るのはわたしの仕事だ。


 もちろん、本人もレ○プさせるわけにはいかないし。


「へぇ、部員募集中なんだ」

「はい。なかなか新入生が来ないみたいで、真紅さんたちが良ければ、ですけど……」


 来栖さんに男のあしらい方法をアドバイスした彼氏候補は、同じ学校の先輩で『鞭術部』の部長をしているという話。

 そして、絶賛部員募集中――これは、部活見学にかこつけて彼氏見学に行くしかないだろう。


「鞭術部って、如何にも鬼畜系じゃん。マジあたしのジャンルやし」

「私も行こうかな。弓道部の練習は来週からだし」

「掘田さんも、蒼咲さんも大歓迎です!」


 そんなこんなで、堀田さんと蒼葉も一緒に行くことになった。


 「鞭術部の部室は旧部室棟最奥にあって――」


 来栖さんから話を聞きながら歩く。


 が、そこで嫌な事実に気付いてしまった。

 便術部の顧問は理事長――つまり、わたしの父親が受け持っているという現実だ。


 家ではそっちSMの界隈にいる素振りはないし、来栖さんも競技としての鞭術を強調していたけど――両親のぁゃしぃ営みが脳内で映像化されてつらい。


 紅蓮の乙女ヴレイズヴァルキリーの紅楳深紅は炎の鞭を使うので、その設定に関連した整合性保持の人員配置の可能性はなくもない。


 しかし、一度駄目な方向に考えてしまうともう駄目だ。両親の性癖への疑いが積もってどうしようもないので、今度両親がいないタイミングがあったら家宅捜索することに決めた。


「ここです」

「へぇー、本当に部室棟の奥地じゃん」

「はい。昼休みに来るには、ちょっと移動距離があるの難点なんです」


 そう言いながら、来栖さんはノックをして部室の扉をあける。


「部長、お昼にメールをした通り、部活見学の希望者を連れてきました」

「おおおお! ようこそバーボンハウs――じゃなくて、ようこそ鞭術部へ! ささ、入ってください!」


「失礼します」

「しまーす」

「しっす」


 部室に入ると、そこには信じ難い光景がひろがっていた。

 年季が入ったロッカーに、ボロボロのパイプイスが4脚。払い下げたであろうキズだらけの机が2個。剥がれかけた壁紙に、なんとなく薄暗いLED照明。


 どうみても、お化け屋敷じゃないのかという内装である。

 一緒に来た堀田さんの顔面が引き攣ったのが分った。


「な、なんだか幽霊でも出そうな雰囲気じゃん……」

「今年度から新装開店した零細だから、資本という名の活動資金がなくてね」


 ポロっと漏れてしまったであろう堀田さんの言葉に、部長さんは苦笑しながら答える。


「あの、他の部員の方は?」

「デモンストレーション用に、体育倉庫から縄跳びを借りに行ってもらったんだ」


 なぜデモンストレーションに縄跳びが必要なのか。

 もしや、鞭を買う部費がないから同じ紐状の……縄跳び?


 疑問が頭に過ぎった時、蒼葉がわたしの服を引っ張り耳元で言った。


「ここ、いるよ」


 何が、とは聞かない。蒼葉が言うなら、アレがいるのだろう。

 ゲームでは手芸部で起きるハズだったイベントが、ここで起こるのかぁ……


 そう思い室内を見渡すと――発見してしまった。

 ゲームで見覚えのある、禍々しい髑髏ドクロのストラップが取り付けられたスクールバッグを。



----SNS Took TXT----

部長「部員が増えるよ!!」

来栖「やったね、部長!」

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