09 犯人は自分の中にいる

 原作と同じ高校に通うことになった理由は、新設された学科の存在にある。


 娘の「レベルが高い高校で勉強したい」という発言に対して親馬鹿が発揮されて、学校に『普通科・蛍雪コース』なんて進学に特化した学科を創ってしまったのだ。うちの父親は。

 親バカが権力を持っているとろくなことはないという事例ではあるが、愛情を感じるのは事実であるし――そんなことまでされたのに「別の学校行きたい」なんて言えることもなく、渋々と紅楳高校ゲームの舞台に通うことになった。


 ただし、我が儘は言わせて貰ったが。


 内容は『黄瀬黄土きせ おうど』『翠川碧みどりかわ みどり』『村崎紫龍むらさき しりゅう』『外道院獣けどういん じゅう』という名前の入学生がいれば、面接、筆記が良くても無条件で落として欲しいということ。


「わたしと蒼葉にちょっかいをかけてくれる厄介な子らだから」


 そう簡潔に説明すれば、父は「任しておけ」と答えてくれるのだ。

 持つべきモノは権力を持った両親である。

 

 これで入学してくるようなキャラがいれば原作補正という世界からの強制力なので、わたしの力で排他するしかないだろう。


 ――そんなことを考えながら、青葉と共に校舎前に張り出されているクラス名一覧から自分たちの名前を探す。

 お、青葉と同じクラスだ――と思ったのとほぼ同時、見たくない名前が視界に入りげんなりとする。


 やれることはやったにも関わらず、折れていないフラグがやっぱりあった。

 嫌な予感というのは、総じて当たるものらしい。


「やった! 一緒のクラスだよ深紅ちゃん」

「お、おう……」

「もー、もっと喜んでよ!」

「だって、蛍雪コースは1クラスしかないじゃない。内定している時点でわたしらは一緒だから」

「様式美ていうのがあるんですー!」


 蒼葉の笑顔が眩しい。

 一緒に馬鹿なノリでキャッキャしたいが、素直に喜べない。


 何故ならと原作キャラと同一存在である可能性が高い人間がクラスメイトにいるからだ。


祁答院獣けどういん じゅう


 漢字と濁点に違いはあるが、ほぼ確定的だろう……

 現実で”外道院げどういん”という名前はアレすぎるので、運命力的な何かでそれっぽい祁答院けどういんという名字に修正されてのキャラ実装。


「完全に盲点だった……ネームロンダリングかぁ」


 外道院獣は、その名前の通り外道で獣のような男で、チャラチャラしながらも荒々しい大人の雰囲気をしている。

 そのため、主人公の同年代には見えず、開発スタッフからは淫獣先輩の渾名あだなで親しまれていた。


 キャラクターテーマは『レ○プから始まる恋』と、なんとも最悪。

 ゲーム開始時は一般人だが、妖怪や霊能力者を性的に食べるコトで力をつける能力『房中妖術』を持っている隠しキャラだ。


 淫獣先輩ルートにはいるには、ゲームが二周目以降の状態で青葉と仲良くしている攻略対象の好感度が一定値以上まで上昇すると、その対象のキャラクターを彼女が見ている場所でレ○プする。

 両刀使いなので、男女問わずだ。処女も非処女も美醜も関係ない。

 そんな光景を見て、ゲームの蒼葉は「滅茶苦茶に犯されたい」とトチ狂ったことを思うのだ。


 当然だが、レ○プ対象の中には深紅も含まれる。


「その深紅に輝く髪、実に俺様好みだ――愛してるぜ」


 なんて言いながら押し倒される。勘弁してほしい。


 一部の開発スタッフ的には、内部BL受容を満たす貴重な存在として”私”含む女性スタッフから歓喜された彼。


 乙女ゲーに咲く一輪の薔薇の華としてノンケだって構わず喰ってしまうし、ギャグ要員として硬化したち○こで攻撃を受け止めるーーそんなシナリオを考えた前世の”私”の罪は深い。


 メインライターの蘭ちゃんが文書をブラッシュアップしてくれたけど、他のルートに比べるとかなりトンチキ要素が強いルートだった。


 ――頭が腐っているんだから、仕方ないと思うんです。


 今の”わたし”も腐っているけど、当時はもっと腐っていた。

 惨事に好きな人もいなかったし、虹のやおいの世界こそ私の理想郷エデンだったのだ。


 この結果は、因果応報というべきなのか。


 蒼葉が弟から乗り換える――なんてことは絶対にないと思いたいが……ゲームの青葉にレ○プ願望なんて性癖の芽を埋めた”私”としては、ないとも言い切れないのがもどかしい。


 ――不本意だが、青葉NTRという単語が頭を過った。


 生みの親として、前世ゲームではあれだけ好きだった淫獣先輩。

 今は、ゴキブリやコウロギと同じように――この世界からいなくなって欲しいと心から願ってしまうレベルで大嫌いだよ、会ったことない段階で。


 蒼葉同様に、ゲームとは違う本人の意思があるんだろうが関係ない。

 近寄ってくるなら、社会的に始末しなければならない敵だ。


 ”私”が蒔いた種は、責任もってわたしが刈り奪らねばならない。


 幸い、院獣先輩は妖怪でも、半妖でもない人間だ。

 青葉や他の攻略対象に手を出さない限り、『房中妖術』スキルは発動せず一般人のまま。


 相手は人間、こっちも人間。

 霊能力者だろうが、何だろうが、カネとコネの力を持つ紅楳深紅に勝てると思うなッ……! ククク……!


 日々運動を欠かさず、身体能力の強化にも励んでいる。肉弾戦になっても男女の体力差程度の違いでは簡単には負けてはやらない。

 リスクはあるが、身体の限界を解除して紅蓮の乙女ヴレイズヴァルキリーとしての力を解放するという切り札もある。


 蒼葉の霊術とは違う、科学の力で――わたしは神になるのだ。


「くく、ククククク! 切り札は、常にわたしの手元にあるようだぜ」


 切り札は切った瞬間に殺しきれなければ切り札ではなくなるから、まず威力偵察。

 やられる前にやれが合言葉――でもいいけど、さすがにそれは思考が物理に寄りすぎている。


 まずは、情報戦。

 淫獣先輩から蒼葉に対して好感度が上がらないように、悪い先入観を与えておくとしよう。


「蒼葉……同じクラスの祁答院獣という生徒には注意するように」

「なに? 危ない人?」


「変態よ」

「深紅ちゃん……」


 蒼葉は、急に真面目な顔になってこう言った。


「同族嫌悪って言葉知ってる?」


----SHINKU MEMO----

    (^q^)

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