07 親ライオン

「お願い、とな? 正当な対価を渡したのだから、わしはこれでお役御免とさせてもらいたいのじゃが」


 ククク。

 何の為にわたしが相場を調査済みなのにも関わらず、言い値で商品を購入したと思っているのか。


「あら、取り合ってすらもらえないのかしら? あんなに高いお買い物をしたのに――この旅行を取り次いでくれたのは誰だったかしら」

「…………」


 青森から出稼ぎにきた職員が、たまたまうちの関連企業で働いているというだけで、首にする権限とかはまったくないのだけど――勝手に誤解をしてくれる分には問題ないということで脅しておく。


「もう一度言うわ。少し、お願いさせて貰って良いかしら?」

「……願いによるがの。言うだけ言ってみい」


 しぶしぶといった感じに、イタコさんはわたしに問いかける。


「3日間、蒼葉――この子を預かってくれないかしら」

「ほう」

「奴隷のように扱って貰って大丈夫よ。性的に危険な目に合わなければ」

「え、深紅ちゃん、何を言って――」


 イタコさんは、蒼葉を値踏みするように見る。

 隣で何かがビクッと震えた気がするが、ここは心を鬼にしなくては。


「蒼葉、頑張ってきなさい。ご両親からの許可は頂いているから」

「う、なんで外堀埋ってるの……私聞いてないよ!」

「言えば反対するでしょう」


 蒼葉は半泣きの上目遣いでわたしを見るが、そこに目潰しをくれてやる。

 両手をチョキにして、グサリ。と。


「目が、目がっ! 痛い、深紅ちゃん……」

「わたしから言うことは何もないわ。何故、どうして、わたしがこんなことをするのか自分で考えなさい」


 フラグを折る一環、自立させる、たっくんと二人になる口実作り。

 色々と理由はあるのだが、蒼葉が持つ異能を覚醒させるというのが最大の理由だ。

 蒼葉の両親には「わたしに依存している旨があるので、精神修行として恐山で巡礼してきます」と言ってある。


 今の蒼葉は、自身が持つ霊感について”人にないものを持っていてお得”ぐらいにしか考えていないので非常に危険だ。

 ゲームの物語だと、他人と違うことで悪意に晒されたり、理解が得られなかったりがあって自分の霊感という能力について悩むことがあるんだけど……


 わたしが甘やかしすぎたせいで、自分の能力に折り合いつけてて肯定的で、悪い意味で精神的に安定してしまっているんだ。


 いや、悪くはないのだよ、人間としては。


 ただ、ゲームのような戦闘が回避不能だった場合を考えると、生存戦略のため意識を改革させ、対妖怪技能の取得が必要なのだ。

 それを実行に移すのに一番良いのが、受験勉強もなく自由が効いて、ある程度肉体が成長している中学二年の夏期休暇というだけの話。


「じんくちゃん……ひっく」


 胃が痛い、泣き落としは卑怯だ。

 助けてやりたくなる。でも、それではダメなのだ。


「じゃあ、わたしは帰るから。イタコさん、あとはよろしくお願いしますわ」

「まだ、この娘を引き取るとはいっておらんが?」

「――では、ごきげんよう」


 イタコさんの言葉を無視し、わたしはクールに撤収する。

 蒼葉が立ち上がり、帰ろうとしたわたしにしがみつこうとする。


 ビンタを頬に打ち込んでやろうと思ったが、その前に早乙女さんが割って入った。

 腕を取り、肘固めの要領で蒼葉を転ばせる。


 ドスっと。

 受け身を取ることができず、蒼葉は顔面から地面にキスをすることになった。

 呻きながら上げた顔には、鼻血。


「えぇ」


 ドン引きするたっくんだが、わたしも同じ気持ちだ。早乙女さん何やってんの……

 これはわたしがビンタした方がマシな結果だったろう。


 慌ててハンカチを差しだそうとしたが、早乙女さんに目配せで退室を促される。


「蒼葉様。下手に動くと腕が折れますよ? ――お嬢様、今のうちにお帰りください」

「ひっぐ、うぇ……なんでぇ……」


 わたしは、何も言葉を発することなく部屋を立ち去った。

 青葉の泣き顔がまぶたの裏にこびりついて、後味が悪い。


 たっくんが背中にぽんとしてくれた手が、温かくて救いだった。


 ――わたしは転生してハイスペックな身体になったけど、心は”私”のときのまま。年齢を重ねただけのオバサン以上のスペックはない。


 だから、青葉の人権を無視した選択をする場所にたっくんを同席させた。

 たっくんと添い遂げるためなら、わたしは他人の人生を切り捨てられると思ったから。


「ははは、我ながらなんてヤンデレ」




 ――20分後、恐山温泉。


 蒼葉の件ではさすがに心が荒んだが、湯船に入るとスッキリした。

 あの子はアレで負けず嫌いなところがあるし、頑張って修行に耐えるでしょう。


「あー、うまい!」


 風呂に浮かべたお盆の上で、お猪口に炭酸水を入れて飲む。

 未成年なので気分だが、これまた気分がでるので最高の気分。


「温泉はいいね」


 我ながら現金なものである。


「温泉は心を潤してくれる。日本人の生み出した文化の極みだよ」


 しかし、まだまだわたしも甘っちょろいなぁ……

 もっとブラックなことを頭の中では思いつくんだけど、実行するのに倫理が邪魔をして手段を選びすぎてしまっている。


 その結果が、蒼葉の霊力覚醒計画という今回の趣向。


 まあ、なんだかんだでフラグを折る作業が地味に楽しいんだよね。

 タスクを完了させて、アチーブメントを開放していっている感があるんだ。


 これもオタクのサガか……罪な女だ。


 この後の予定は、廣田ひろた神社でわたしの厄除けと、蒼葉の修行の無事を祈願。

 青森のメイトに立ち寄ったあと、残りの時間は旅館でまったりだ。

 蒼葉がいなくなったので、旅館の部屋割りがたっくんと同室に変更になる(ならない)のが最高に楽しみである。


 早乙女さんが「くれぐれも不純異性交遊をしないように」とわたしにだけ注意したのは解せぬ。

 そこは、男のたっくんに注意する所でしょう。


----TATATATATA-----

青咲さんがいないから寂しいという理由で、クーちゃんが僕の部屋に侵入してきた。早乙女さんに言われて鍵はかけていたんだけど、それを平然と突破してくる婚約者の愛がこわい。そこまで愛してくれているのは、悪い気分ではないというか、むしろ良い気分なんだけど……クーちゃんが色っぽくなりすぎてて、男としての自分は困っている。クーちゃんは中学二年生。彼女が18歳になるまで手を出さないとお義父さんに誓っているけど……どんどんその自信がなくなっていく。クーちゃんを、自分のものにしたくてしかたがない。彼女には一方的にキスをされたりと、翻弄されるままだけど――本当は自分から唇を重ねたい。そんな、劣情に塗れた僕なのに……今日はクーちゃんと手を繋いで寝ることになってしまった。緊張して眠れず1時間程悶々とする気持ちに耐え忍んでいると、隣から艶っぽい声が聞こえてきた。まさか。そう思い隣を振り向くと、クーちゃんの顔が月明かりに照らされ、紅色に染まっているのが見えてしまった。僕は、思わず生唾を呑み込む。彼女の浴衣ははだけた状態で、右手を股に挟み(自主規制されました。続きを読むにはワッフルワッフr)

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