02 前世でも通った道を往く

 わたしが転生を自覚してから一週間が経過した。

 その間に色々と情報を集め、知り得たことがある。


 最大の発見は、この世界はR18同人乙女ゲーム『妖怪憑きと王子様』と、わたしが生きていた地続きの現実が融合ゆうごうした世界ということだ。


 転生前の”私”の時代では連載中だった漫画が完結しているのに気付いたときには、感謝しかなかった。

 思わず、カネの力をフル活用して通販サイトで漫画を大人買いしてしまったよ。


「お金持ち、サイコー!」


 今、わたしが暮らしている病室には100冊程の書籍が積んであり、圧巻だ。

 やはり書籍は電子ではなく紙で買い揃えるに限る。

 コレクター魂が満たされて、眺めているとニヤニヤしている時間が至福でしかない。


 ――ただ、欲望のままに購入したせいで、見事に黒歴史のページを刻むことになったのはご愛敬だが。


「こ、こここの漫画は小学生には早い!」

「えっ、この本は男同士で濃厚な!」


 小学生時代からホモォが両親にモロバレした。

 まさか、お小遣いで購入した本の内容をチェックされるとは思わなかった……

 背表紙しか見えないようコッソリ? 置いておいたのに、本当に運が悪い。


 まあ、問題ない。問題ないさ。

 前世でも経験したイベントだ。問題ない。


 今まで雑誌ぐらいしか書籍を購入しなかった娘が、いきなり漫画を大人買いなんてしたらそりゃぁ気になるよね、両親としては……


 現実の男性には恋愛感情があるし、婚約者様を他の男に掘らせたりしないし、あくまでこれは二次元の趣味であり、三次元的には問題ない。むしろ趣味を抑圧してストレスを溜めることにより鬱病などの精神的な疾患になる可能性が高まり、趣味を抑制することはマイナスにしかならない。そんなことをされたら、現実で犯罪に走るかもしれない。それに、これは全年齢対象で販売しているものであり、連載がコンビニや書店で読めるようなメジャーな雑誌で行われている。今の少女向け漫画は過激な描写が多いので、この程度で驚いていてはいけない。読まないと、学校でクラスメイトの話についていけなくなる。男性向けだと、もっと過激なものが少年誌に連載されていたりもする。


 このあたりを両親に懇切丁寧こんせつていねいに説明したら「お、おう……」という感じになって説得は成功したのである。


 問題ない。問題ないったら、ない。


 おそらくだが、母親は元同類だろうし。

 男同士の絡みを見て濃厚なんて言ってしまう時点でご察しだ。


 それに、子供のことを気にかけてくれる両親なんて、とても良い人間じゃないか。

 さんざん言い訳してしまったが、注意されたこと事態は嬉しく感じてます。


 ――で。


 今の世界だが、”私”が生きてきた時代から完全に地続きというワケでもなさそうだ。

『妖怪憑きと王子様』という同人ゲームは存在していないようで、検索エンジンにワードを走らせてもひっかからないし、過去に”私”が所属していたサークルのホームページも存在を確認することができなかった。

 過去に使っていたSNSなんかもサービス終了しているため、デジタルタトゥーとして残っていないだけかもしれないが……


 前世に住んでいた家の場所周辺を調べると、区画整理された大規模な公園になっており過去を追いきれなかったあたり、なんとも都合が良い世界である。


「問題は、この世界がどこまでパラレルかというより、どうすれば死亡フラグが回避できるか……それに尽きるなぁ」


 『妖怪憑きと王子様』の物語開始は高校1年生。

 部活見学をした日、蒼咲蒼葉あおざき あおばは手芸部の先輩が付けてる髑髏ドクロのストラップに、ドス黒いオーラがまとわり付いていることに気付く。

 彼女は以前から霊感があり、この世の者ならぬ気配を感じることはあったが、ここまで可視化した姿を見るのは初めてだった。


 蒼葉は、先輩の様子が気になり声をかけてみるが至って問題はない。

 むしろ、好意的に接してくれ良い人のように感じる。

 数日様子を見てみるも、体調が悪くなりそうな気配もなく、むしろ元気。

 しかし、先輩以外の部員が寝不足気味な様子で……


 で、ここで選択肢が出現する訳だ。

 わたしの命運はコレで分岐する。どれを選んでも死亡するのは確定だが、過程での悲惨度は雲泥うんでいの差がある。

 確かこんな感じになっていたハズ。


 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


 蒼咲蒼葉「私、これからどうしよう――――」

 1.深紅ちゃんに妖怪のことを相談する

 2.友人を遠ざけ、孤独に妖怪と戦う

 3.秘密は胸に秘め、今まで通りに生活する


 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


 わたしの親友、蒼葉ならおそらく『2』を選ぶ。


 この選択肢はBADEND直行で悲惨だ。

 人間の友人を巻き込まない為に突き放しているのにも関わらず、転校してきた金髪王子(実は妖怪)とだけ仲良く話すもんだから、蒼葉がイジメに遭ってしまう。

 わたしこと紅楳深紅こうばい しんくは、蒼葉をイジメの主犯から庇う役割で、「カマトトぶってんじゃねぇ!」とイジメのターゲットに加えられる。

 そして色々あって拉致監禁レ○プされて、事後で両手を無理矢理ピースさせられた写真をネットに公開され、婚約解消。

 婚約者が好きだったこと、汚されたので生きてはいられないこと、蒼葉を助けてあげられなくて申し訳なかったこと、両親に育ててくれて感謝していることを遺書に残してから自殺する。それを読んだ婚約者も後追い自殺。キレた両親が犯人の家に殴り込んで、ナイフで滅多刺しにして警察に逮捕されて家族も人生終了。

 蒼葉は私の死にショックを受け、暗黒面に墜ちる。で、怨霊となったわたしと一緒にイジメをした人間と、見て見ぬ振りをしていたクラスメイトと、その親族全員を皆殺し。

 無闇に人間を殺しすぎたせいで、他の”妖怪憑き”や”教戒きょうかい”の連中から追われる逃亡生活をすることになる。


 ……うん。なんて酷いシナリオだろうか。

 BADなのにテキストが無闇に充実してGAME OVERになるまですごい長いんだよ。


 名誉の為言っておくと、このシナリオを考えたのは”私”ではなく、餅木くんだ。

 彼は「スイーツ一般人はこういう携帯小説感あるのが好みなんでしょ! スイーツ()」とか言って、嬉々として鬱シナリオを書いていた気がする。

 同好のサークルではあるんだけど、大学のメンバーでの作品だったから……乙女ゲーを軸にする決定をした以上、男性陣に譲らないといけない部分もあったのだ。


 あと彼の犯行といえば、蒼咲蒼葉と紅楳深紅が男性受けをするように百合ルートを作ったり、凌辱系エンドや完全に即死する選択肢なのに無意味に長いグロ描写をねじ込んできたり……


「頭がオカシイ人だったなぁ」


 褒め言葉じゃなく、純粋トチ狂っていた。

 ただ、プログラムの技術やテキスト入力の速度など、他の追随を許さない天才でもあった。


 ”私”がゲームに関わったのは、大まかなプロットへの協力、外道院獣げどういん じゅう村崎紫龍むらさき しりゅうルートのシナリオ、キャラクター周りの衣装設定、グラフィックの彩色。

 それと、紅楳深紅の声優(戦闘ボイスのみの実装)を担当した。

 だから転生したのが深紅だったのかな?


 メインのシナリオと共通ルートは埜上蘭のがみ らんという、”私”の親友が担当していた。

 乙女ゲーなのに、やたらとホモっぽい展開が多いのは彼女の趣味だ。

 まあ、”私”も他の女性メンバーも大好物なので、誰も反対しなかったんだけど。


 男性を交えてゲームを作るという点で、主人公とその友人を”理想的な女性キャラ”として設定できる妥協点からBLゲーを作るのを諦めたんだよなぁ。懐かしい。


「おおっと」


 思考が逸れてきてた。


 とにかく、どのルートを選んでもわたしがレ○プされて死亡するのが問題だ。

 選択肢――決定権が半分ぐらいの割合で蒼葉であることも大問題。

 蒼葉の選んだ選択肢が不透明で、対処が後手にまわってしまうのは死亡フラグでしかない。


 つまりは、アレだ。

 選択肢が出現しない状況を作り出していくのが、生存戦略には必要ってことだ。


 死亡フラグ、パッキリ折らせて貰います。



----SHINKU MEMO----

【蒼咲蒼葉「私、これからどうしよう――――」】

『1』深紅「任せて、私が探りをいれてみる」→先輩にレ○プされる→精気を吸い尽くされて死亡。

『3』下校中に妖怪に襲われる蒼葉。「危ない!」と庇う深紅→触手にレ○プ→蟲を孕まされて発狂、助かるが自殺。

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