第24話 変化する関係

 ※修正報告

 前川さんに対して、月島くんの呼び方を「鈴菜」→「鈴菜ちゃん」に変更させて頂きます。


 前の話以降に出ている鈴菜呼びも順次鈴菜ちゃん呼びに変えていくので理解の程、よろしくお願い致します。


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 昼休みが終わり5限目が始まる。

 午後になっても、鈴菜ちゃんの勢いは止まらない。


「ねぇねぇ咲人くん、昼休みどこに行ってたの?」

「部室だよ」

「部室だったのか〜」

 トイレでご飯食べてるのかと心配してたんだよ〜と鈴菜ちゃんいう。


「鈴菜ちゃんの中の俺、だいぶ酷い目にあってるんだよなぁ〜」

「えへへ、冗談だよ〜冗談〜」

 あ!先生来たから戻るね、といって鈴菜ちゃんは席へと戻っていった。


 クラスメイトからの視線が痛い。

 そろそろ慣れるかなと思っていたが俺もクラスメイトもこの現状に慣れることはなさそう。


 といっても、俺が慣れるのは時間の問題だと思っている。

 他の人に知られてしまうことは少しだけモヤっとするが、今日の鈴菜ちゃんの姿は俺にとっていつもの鈴菜ちゃんの姿であるから。


 逆にクラスメイトにおいてはかなりの時間を必要とするだろう。

 2年間積み上がってきた、前川鈴菜という誰にでも平等な良い子が今日から誰にでも平等ではない良い子になってしまうから。

 ある人から見ると、良い子とすら思わないかもしれない。

 見方によっては男子に言い寄ってる女子と見られなくもないから。



 少し心配のところもあり、何を考えているのか知りたいというところもある。

 どっちみち、鈴菜ちゃんが今後こういう形で俺と接するとしても突き放したりはしないということだ。

 だから、心配なところはゆっくり潰していけばいいし、何を考えているのかについてはこれまで以上にコミュニケーションを取っていくことにしよう。


 鈴菜ちゃんのことに関してはこれでいい。

 鈴菜ちゃんのことに関しては……。


「はぁ〜」

 と俺はため息をつく。


 渚ちゃんはどうしようか――それだけは俺のこの頭をもってしてもわからない。

 渚ちゃんのことだから、「私と言うものがありながら、女の友達を咲人くんは作るわけ?」とか言いそう。


 実際俺も渚ちゃんに男友達がいるとしたら、嫌だと思うだろうからお互い様だし、至極当然の考えなのだと思う。


 火がないところに煙はたたないのと一緒で、恋人としてうまくやっていきたいなら、恋人としての関係を危うくさせる事、ものは省くのが1番いいのだ。


 そんなこと思っていながら、鈴菜ちゃんと関係を持ってしまっている俺はただの気狂いクソ野郎以外何者でもないのだろうな。


 そんなことを思っていると、後ろから肩を掴まれた。


 ……あれ?俺の席って1番後ろじゃなかったっけ?


「おい、俺の授業でよく大きなため息がつけるな」

 と今日一番太くて低い男らしい声が耳元で聞こえた。


 ……今日後ろから手を置かれること多くね?


 体中至る所からいや〜な汗が噴き出ているように感じる。


「そんなに俺の授業はつまらないか?まだ点呼が終わって5分も経ってないんだが?」

 と肩に置かれた力が先程よりも強くなる。


 ……あ、これやばいやつだ。なんか肩あたりからミシミシと音がしている。


「おい、いつまで俺の話を無視してる。そんなにつまらないか?」

「いえ……面白過ぎた為、ため息が出ました」

「そっか、そんなに俺の授業は面白いか!なら今日はこれから授業でやる10ページ分を全部お前に読んで貰おうか」

「あ……いや……それは……」

「ん?もちろんやってくれるよな?」

「イエッサ」


 もう、授業中ため息をつくのはやめよう。

 俺は心に誓いをたてた。




 俺しか参加してないのかと思えるほど俺しか声を出さない授業が終わり、6限目の準備をしていると、当たり前のように俺の前席の椅子に鈴菜ちゃんが座り話しかけてきた。


 鈴菜ちゃんが座った席の男子は遠くから、「俺の席に前川さんのお尻が……」とか言っているので、勝手に座るのは良くないぞとは言えなくなったしまった。


「今度はなんだ?」

 といつまでも話そうとしない鈴菜ちゃんに俺は質問をする。


「いや〜もしかしたら咲人くん、迷惑してるんじゃないかなって思って」

 と鈴菜ちゃんはいう。


 迷惑はしていない。

 少し飛ばしすぎなのではないかと思っているだけ。


「思ってないぞ」

「本当?」

「あぁ。逆になんでそう思ったんだよ」


 こんなことでと言ったら、目の前で悩んでいる鈴菜ちゃんに申し訳ないと思うが、こんなことで悩むならとっくの昔にもう悩んでいることだろう。


 今日はクラスメイトの前で話しただけ。

 人には言えないことをしている時の方が余程悩む要素としては強い。


「いや、結奈ちゃんが……」

「結奈ちゃん?」

「あ、柿沼さんのこと」

「柿沼さんの名前って結奈っていうんだ。それで柿沼さんがどうしたの?」

「そんなにいっぱい話しかけたら嫌われちゃうよって言われて……」

 と鈴菜ちゃんはとても心配そうな顔をしながらいう。


 鈴菜ちゃんは自分のことをいい子ではないと言うけれど、こう言った純粋なところはいい子そのものなんだよな、と俺は思う。

 どうせ、柿沼さんは鈴菜ちゃんのことをおちょくっているだけなのだ。


「まぁ、それは気にしなくていいんじゃないか?実際俺は嫌いになっていないわけだし」

「ほんと?本当に嫌いにならない?」

「うん、嫌いにはならない。けど、少しは周りのことも気にしてあげような。前の日まで全く話さなかった俺たちが次の日になってものすごく話すようになったら流石に注目の的になってしまうから」


 そんなこと気にしなくてもいいとは思う。

 俺と鈴菜ちゃんの関係に対して注目されようがなんと思われようが結局は俺たちのこと――周りにとやかく言われる筋合いなんてない。

 だが、俺たちの行動のせいで質問にあったり、よからぬ噂を流されたりなどの俺たちの生活に支障をきたすことは許容できない。

 俺だけならまだしも、鈴菜ちゃんには支障をきたしてほしくない。


「それなら……やっぱり」

「いや、もう今更だろ。今日これでこんな感じなら別にこれからも今日みたいでいいと思うよ」

「そっか……ありがとう!咲人くん!」

 えへへといつも俺に向ける可愛らしい笑顔で鈴菜ちゃんは笑う。


 その笑顔を見て、周りの男子は体をくの字に曲げる。

 やっぱりこの笑顔は俺だけに見せてほしいと思った。

 決して口には出さない……。


「じゃあさ咲人くん!今週の土曜日一緒に出かけようよ」

 と鈴菜ちゃんはいう。


 鈴菜ちゃんの一言で、クラスのみんながこっちらを凝視していることを、鈴菜ちゃんは気が付かない。

 男子は、目から血を流し俺を睨みつける。

 女子は、興味ありげに俺と鈴菜ちゃんのことを見ている。


 若干俺を睨んでいる女子もいるが……鈴菜ちゃんが爆弾発言をしたことは確実で、柿沼さんだけが大笑いでスマホに何かメモをしている。


「鈴菜さん……」

「うん?」

「やっぱり、少しぐらいは自重をしなさい!」

 と俺は鈴菜ちゃんの頭にチョップをお見舞いした。






 とりあえずあの場は鈴菜ちゃんが俺をおちょくっただけという事で話は終わせ、鈴菜ちゃんには渚ちゃん次第とLINEを送り納得してもらった。


 6限目が終わり、部活が始まる。

 もしかしたら鈴菜ちゃんがついて来るくるかもしれないと思ってはいたがついて来ることはなく、渚ちゃんが来るとしてももう少し後になるだろうから家を出てから初めて1人になった……いや、なれた。


 ソファーに体を預ける。

 何度目かわからないため息が漏れた。

 渚ちゃんと一緒に登校するのも、鈴菜ちゃんと教室で話すのも嫌ではなかった。

 単純に慣れてないから疲れた。


 久しぶりの部活で1人。

 やらなきゃいけないことを早く終わらせようと詩織が挟んである分厚い本を開く。

 内容は[宇宙はどこまで広がっているのか]という地球・宇宙科学の本。


 これを手に取る前は、こんな本を図書室に置いたところで誰が読むのだろうと思っていた。

 だが実際読んで見ると、宇宙の不思議や現代がどれだけ宇宙のことを調べられているのかなど俺の日常では知ることができない内容が細かく、わかりやすく書かれていて半分のところで詩織が挟まれているのにも関わらず、この本は図書室に置くべきだと思っている。


 それは渚ちゃんとの関係でも同じで、直ぐに拒絶反応は治らないのだからそんなに努力しなくてもいいと思っていた。

 その期間、2人の間に進歩はもちろんない。

 だが少し思考や行動を変え努力してみると、今までの期間が嘘だったかのように1ヶ月もしないで俺たちは進歩した。


 鈴菜ちゃんとの関係だってそうだ。

 最初は渚ちゃんとの関係が進まないからという理由で鈴菜ちゃんに甘える形で俺は一緒にいた。

 もっと悪い言い方をすれば、渚ちゃんとできないことを鈴菜ちゃんでしていた。

 だが、一緒にいることが多くなっていくなかで鈴菜ちゃんのことを知っていき、鈴菜ちゃんの好意を受け、いつの間にか渚ちゃんのことは関係なしに俺は一緒に居たいと思ってしまっていた――これに関して言えば、今手に持っている本と同じにしてしまっていいのかと思うが、俺の考えの範疇であるならばいいだろうと考えることを放棄。


 まぁ、結局何が言いたいのかというと、決めつけることは良くないということだ。


 この本の面白さ然り、渚ちゃんとの関係や体質然り、鈴菜ちゃんの在り方や価値観然り、全てにおいて俺は決めつけから入っている。


 今日だって決めつけてばかりだ。


 恋人なのに、渚ちゃんだから登校する時は別々だろうという決めつけ。

 友達になったのに、今まで2人の時以外ほとんど話さなかったから話しかけられないだろうという鈴菜ちゃんに対しての決めつけ。


 少なくとも思い当たるところで2度やっている。


 だからこそ思う。

 俺はどちらかが必ず傷つくという結果にならない答えもあるのではないかと。

 甘い考えであるのはわかるが、少なからず足掻く事ぐらいはできるだろう。


 少しは考えてみよう――そう結論付けた時、部室の扉が開く。


 隣の部屋からは渚ちゃんのセリフが聞こえている。

 今日のセリフは『これまで頑張ってきてよかった……この努力が報われて私は本当に幸せ』らしい。


 まぁ、だから扉を開けたのは渚ちゃんではない。

 俺はここでも決めつけてしまっていたみたいだ。


 今日は来ないであろう――と。


「えへへ!来ちゃった!」

 ごめんね!と少し開いたドアの隙間から鈴菜ちゃんは笑顔で顔を覗かせる。


「まったく悪いと思ってないんだよなぁ〜」


 俺の言葉など聞きもせず、鈴菜ちゃんは部室へと入ってくる。


 いつものように俺の隣に座ると思った。

 そしていつものように抱きしめて来るとも……。

 だが、今日は俺の反対側へと鈴菜ちゃんは座った。

 何を話すわけでもなく、するわけでもなく、ただ静かに座った。


 なぜだろうか……そう思ったのも束の間。

 見計らったかのように、部室のドアが開く。


「やっぱり来てた……」

 と呟きながら渚ちゃんが部室に入って来た。


 デジャブなんだよなぁ〜とか思いながら渚ちゃんのことを見ていると、部長席と呼ばれる場所に置いてあるちょっといい椅子を持って来て、俺と鈴菜ちゃんのちょうど間に座った。

 なんと言えばいいだろう――お誕生日席的な?


 なぜ俺の横ではないのだろうか……という2度目の疑問を胸に押しやり、俺は質問をする。


「それでどういう状況?」

 どちらかと言えば俺がその席だと思うのだけど?と渚ちゃんに対して質問を投げかける。


「どうもこうもないでしょ。咲人くんの周りにたかる虫を駆除するため逃げ道を塞いでいるの」

 と何食わぬ顔顔で渚ちゃんは答えた。


「虫って……楠さんの言い方ひどいと思うな〜わたし」

 と言いながら若干顔が引き攣っている鈴菜ちゃん。


「そう思うなら咲人くんから離れなさいよ」

「ふん!よくいうよ。たまたまわたしが居なくなったから勝ち取れた癖に!」

「な……そんなことないわ。咲人くんは……私のことずっと好きだから。そもそもあなたの方から逃げておいてよく言うわね」

「逃げって……逃げてなんかないもん。親の都合だったんだから仕方がないじゃん」

「それだとしてもよ。遠くからだって通っていればよかったのだから」

「よくいうよ。咲人くんから来なかったら何もできないくせに」

「「ふん!!」」


 いや、なんだよこの空気……。

 2人が話している内容がまったく理解できないことに少しだけ俺は疎外感を感じる。

 仲間外れは悲しい。


「まぁ、私も少し納得言ってなかったのよ。咲人くんのことを一番に思っていると自信はあるけど一番になってる自信は9割しかないから」

 と渚ちゃんはいう。


 今の言葉の中でどこに納得いかないのか不思議だ。


「結局自慢しかしてないけど……まぁ、わたしもは一番取れてないと思うし、思うところはある」

 と鈴菜ちゃんはいう。


 俺、汗止まらないんだけど。

 なんでとは言わない。


「よく言わね。体も何もあなたは一番取れてないわよ」

「フッ!そうやって言えるのは今だけだよ」

「「ふん!!」」


 もうどうにかしてくれよ……。


「ねぇ、前川鈴菜」


「呼び捨て……何かな?楠渚」


「咲人くんのこと好き?」


「うんん――大好き」


「あそう……ならいいわよ」


「何が?」


「部活入りたがってたでしょ。部活入っていいわよ。私だってこんなんで咲人くんの一番になりたくない。鈴菜という相手を倒してからじゃなきゃ満足いかないの」


「知らないからね?わたし本気で咲人くんのこと奪いに行くよ?何をしてでも」


「望むところよ。ただ、私が彼女ということだけは忘れないでよ。現状では私が咲人くんの一番なんだから」


 俺は蚊帳の外でどんどん話が進んでいく。

 この部活の部長は俺で部員も俺。

 渚ちゃんが決められる筈がないのに。


「ってことだから、咲人くん鈴菜の入部許してあげて」「あ……うん」

「やった〜これからもっと一緒にいられるね咲人くん!」

「そ、そうだな」


 何が何だかわからない。

 そんな様子の俺に……


「咲人くん、私はこの状況で私を選んで欲しいの」

「わたしも、これを期にわたしを選んで欲しいの」


 2人は口を合わせていう。


「私を」

「わたしを」


「「一番にしてよ」」




 2人の視線を受けながら、俺は頭を抱えたくなる衝動を必死に堪える。

 これで、どちらかは必ず傷ついてしまうの決まった。

 これはもう決めつけるでもなく、確定した答え。

 俺はそれをしっかりと考えていかなければいけない。

 それが俺の選んできた結果なのだから。


 だが、今だけは言わせて欲しい。


 俺はこの2人の一番でいたい。

 どうしようもなく美しくて、可愛い2人の一番でいたい。


 一時の甘い時間となってもいいから。

 今だけは、2人にとっての一番にして欲しい――



 ――いや、一番にしてよ。



 と俺は心の中で呟いた。

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