第13話 取り残された者

 ☆☆


 月島くんが部屋から出て行った。

 これから楠さんのところに行くらしい。


「なんで、止めなかったのかな〜」

 とわたしは自分に問いかける。


 1人しかいないこの空間でわたしは独り言を恥ずかしげもなくもらす。


「まあ、そんなの分かりきってることなんだけどね」


 わたしがなんと言おうと、どれだけ魅力を伝えても、楠さんが一言、「会いに来て」と言えば月島くんは会いに行ってしまう。


 それでも月島くんは優しいから、わたしを傷つけまいと着替えて出ていくまでの間とても辛そうな顔をしていた。


 女の子を1人にして置いて行く人が優しいわけがないという人もいるかもしれないけれど、わたしはそうは思わない。

 わたしだって、彼氏がいたとしても一番好きな人から会いたいと言われれば会いに行く。


 その相手が、月島くんにとって楠さんというだけ。

 だけであるのに、一番という存在があまりにも高くでかい壁であることは変えられない事実だった。


 どうしたら、振り向いてもらえるんだろう。

 どうしたら、一番になれるのだろう。

 どうしたら、月島くんの心の中に居続けることができるんだろう。


 わたしの頭の中は月島くんが9割でできている。


 月島くんに触って欲しい。

 月島くんに甘えてほしい。

 月島くんに甘えたい。



 わたしは周りの人が嫌い。

 周りは私の外見だけしか見ないから。


 終業式の時だって告白してきた相手は必死にわたしを褒めていた。

 顔が可愛い、いつも明るい、守ってあげたくなるとか、そんな軽い内容のみ。


 月島くんだけが、わたしの中身を見てくれる。

 だからわたしは月島くんに固執するのだ。


 楠さんが家族以外の人に触れないと聞いた時、月島くんに触らないのは可哀想だと思った。

 だが、それ以外は触れない楠さんが羨ましいとまで思った。


 だって、最終的にはそれを武器にして他人を近づけさせないことができるから。




 わたしは今日の月島くんを思い出す。

 楠さんとの間に何かしらの出来事はあったにせよ、いつもよりわたしに向ける態度が友達以上の関係に近づいているように感じた。


「全てが無意味ってわけではなかったのかな?」

 とわたしは天井を見ながら呟く。


「可愛いって言ってくれたし、月島くんの意思でわたしと一緒にいることを選んでくれた……」


 最初に比べれば、進歩した方だ。

 少しずつではあるけれどしっかり月島くんとの関係は進んでいる。


 だが、まだ足らない。

 わたしという人物を月島くんの中に刻み込むにはまだ足らない。


 わたしは月島くんの一番になりたい。

 もう既に月島くんの彼女一番枠は取られてしまっている。

 それなら、それ以外の一番をわたしは取るしかない。


「やっぱり、これをしないでやることが一番なんだよな〜」

 とわたしは月島くんの真似をする。


 わたしは手にまだ未開封のあれを、わたしと月島くんの間に薄い壁を作っているあれを、見ながら月島くんの真似をする。


「わたしどんどん悪い子になってるな」

 と思いながらわたしは自分の体を触って行く。


 先程まで間近で感じていた月島くんの温もりを思い出すように、わたしは自分の体を触って行く。


 自分の手を月島くんに見立てて自分の体を触り尽くしたわたしは力尽き、その場で眠った。




 気が付いた時には、外は明るくなっていた。


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