2章

第8話 訪問者1

 次の日――俺は学校を休んだ。

 風邪を引き、熱が出たのだ。

 多分、昨日帰る時に降った雨が原因だろう。


 今日はせっかく楠さんと会える日だったというのに、残念に思う。

 俺は、楠さんにLINEを入れる。


『ごめん今日熱が出て学校休むから会えない……』

 とごめんスタンプと一緒に俺は送る。


 返信はすぐにきた。


『あら、私に会えなくて熱が出てしまったのね』


『でも、それで熱を出したら元の子もないわよ』


『しっかり寝て休みなさいね』


 と連続で返信がきた。


 その後は俺が「ありがとう」と送っても既読すら付かなかった。



 ちなみに、前川さんと菅原にもLINEは送っといた。


 菅原からは、『どれだけ俺に隠し事していたこと、辛かったんだよ』と相変わらず俺を揶揄う。


『全く関係ないから!』とだけ俺は送り返した。


 前川さんからは返信が来なかった。

 送った時間がもう8時を過ぎてるし、今頃学校でクラスメイトから絡まれたりしてるんだろうなと俺は思う。


「はぁ〜結構だるいな。1人なのも案外辛い」

 と俺は呟く。


 俺の父親は単身赴任が多い仕事のためいない事はよくある話だが、母親に関してはリモートワークで仕事をしているためいつもは家にいる。

 なのに、今日に限って会社でやることがあると朝早くに出て行った。


 タイミングの悪い母親だ――いや、違うな。タイミングが悪いのは俺か、と心の中で呟き、俺はベットに入った。




 どれくらい寝ていたのだろうか……。

 遠くから聞こえる音に目が覚めた。

 近くに置いておいたスマホを見るとベットに入ってから30分も経っていない。


 徐々に覚醒して行く中、段々と音の正体がわかって行く。


 ……これインターホンじゃないか?


 実際その通りであった。

 宅急便か何かだろうか……と思いながら、重い体を起こし、ゆっくりと俺は階段を降りて行く。


 そして、玄関を開けた先に待っていたのは、宅急便ではなく、私服姿の前川さんだった。


「えへへ、来ちゃった!!」

 もう少し早くにくる予定だったんだけど、と前川さんはいう。


「はぁ〜風邪が移っても知らないからね」

 と俺は指摘することも諦めて前川さんを中に入れた。




 部屋へと入った前川さんは、買ってきたポカリやゼリーなどの軽食を俺に渡してくれる。


「昼は、材料買ってきたしわたしがお粥作ってあげるからね」

 と昼までは確実にいるつもりの前川さん。


「学校はどうしたの?」

 と俺が聞くと、

「ずる休みしちゃった」

 てへっ!と前川さんは笑う。


 俺は、前川さんが学校を休むところを見たことがない。

 前川さんにとって、この休みというのは高校生活初めての休みということだ。

 こんな俺のために申し訳ないなと思う反面、そこまでして俺に会いにきてくれたのかと嬉しく思う自分がいる。


「ここが月島くんの部屋か〜、本がいっぱいある。エロ本あるかな?」

 と前川さんはいう。


 エロ本なんか今の時代、俺ぐらいの歳の男子で買うやつなんているのだろうか……と俺は思う。

 わざわざお金を払わなくたって、インターネットを使えば無料視聴なんて簡単にできるのだから。


 それこそ、履歴を見られる方が男としては嫌なのではないだろうか。

 そこまでわかっている俺は、履歴にすら残らないプライベートモードでそう言ったサイトを見ているわけです。


 …………話が逸れてしまった。

「そんなのないよ」

 と俺は前川さんに返事をした。





「ほら、月島くんは寝っ転がってなよ」

 と前川さんは俺のベットに腰掛けいう。


 そのまま俺の肩を掴み、寝っ転がりなさいというように押してくる。

 それだけならまだよかった……だが、前川さんも一緒に倒れてきてそのまま俺にキスをする。


 突然のことに色んな意味で驚いたが、熱が出ていて頭がボーっとしていることもあり、これっぽっちも抵抗しようとは思わない。 


 そのまま前川さんは俺のベットの中へと入ってきた。


「本当に移っても知らないよ?」

 と俺はいう。


「もしわたしが移って休むことになったら、看病してもうからいいの!」

 と前川さんはいい、俺へを抱きしめた。



 本当に移ってもいいと思っているらしく、前川さんは俺にキスをしてきた。

 2人しかいない部屋、前川さんからのキスを俺が断ることはなく、俺たちは熱いキスをする。


 俺が我慢できずに前川さんのことを触ろうとすると、

「月島くんは、触っちゃダメだよ」

 と両手を前川さんに拘束されてしまった。


 解こうと思えば解けるこの拘束を俺はとかない。


「わたしがいっぱい気持ちよくしてあげるからね」

 と前川さんはまた俺にキスをした。


 俺の首筋や頬、耳など顔のいたる所をキスし始める前川さん。

 キスされる毎に前川さんの柔らかい体が当たる。

 当たるたびに俺の体温は上がって行く。


「月島くん……大好き」

 大好き……大好き……と独り言の様に呟きながら、俺の胸に顔をすりすりしてくる。


 そしてまた俺にキスをした。



 そのタイミングで前川さんは体を起こす。

 どうしたのだろうかと思っていたら、「今日はこれでおしまい!」と前川さんはいう。


 俺はなぜか、前川さんの言い方に疑問を持った。

 そして、その疑問はすぐに晴れることとなる。


「やっぱり、こういう時ぐらいはおとなしく寝てないとダメだとわたしは思うんだ」


 前川さんからなんだよな〜と俺は心の中で呟く。


「わたしだってもっと月島くんとくっついていたいけどさ、今日は風邪を引いてるんだよ月島くんは」


 だから、前川さんからなんだよな〜と俺は顔に力が入るのがわかった。


「まぁ、寂しそうだったから?仕方なく、本当にほ〜〜〜んとうに仕方なく、キスしてあげただけなんだよ」


 はぁ〜わかった。これはもうツッコンで欲しいということなんだな。


「全て前川さんからなんだよな〜」

 と先程からなん度も頭の中で言っていた言葉を、棒読みで俺は口にする。


「えへへ、その返しを待ってたの!」

 と俺の棒読みを気にせず前川さんは喜んだ。


 わざとらしい演技ではあったが、前川さんの可愛い、えへへが見れたことだし良しとしよう――と俺は自分自身を納得させる。


 そんなお互いが可笑しくて、俺たちは笑い合った。


 前川さんとこんな日常を過ごせるなんてと思っていると、唐突にインターホンがなる。


 俺たち2人の笑顔は一瞬で驚きと戸惑いに変わった。

 嫌な予感が頭を埋め尽くす。


 俺はリビングに行きインターホン越しに映るカメラを確認する。

 そこには、制服姿の楠さんの姿があった。



 と同時に俺のスマホの音がなる。


 菅原からLINEが来ていた。

「楠さんが早退したぞ、そっち行ったんじゃないか」

 という内容だった。


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