第10話 天災
「ナスティーユ!頼むからもっと防壁張ってくれ!」
「これでも結構、張ってるっての!こんのっ、いい加減しつこいぞ!」
ドガガガガ!!
と後ろで障壁が凄い音を立てながら何枚か割れる。
すぐさまにナスティーユが周りのマナを使い防御障壁を貼り直せば、機械の様な正確さで先程まで障壁が無かった場所に銃型魔具の貫通の概念が付与された魔弾が連続で襲った。
イリウを連れたヌアザ達一行は西区へと続くガイスト通りを外で待機していた王国騎士団に捕捉され激しい追撃に遭っていた。
そうして騎士団も魔具の効果がないと見るや火球の魔法陣が展開される。
点ではなく面での制圧に切り替えたと言う事…
"相変わらず対応が早い"そう歯噛みするヌアザ達に火球が降り注ぎ、炎の熱を肌で感じる程に火球が迫る。
ナスティーユが炎に特化した防壁を貼ろうと試みるも僅かに着弾の方が早いか…
しかし極限の中で遭ってヌアザはシャランと風になびく鈴の音を聞いた。
「水よ我が前に」
直後、強烈な蒸発が発生し周りは湯気に覆われる。
短い詠唱の後、火球の前に突如として水が集まり水壁が現れたのだ。
「遅い!ティア!」
「ごめんなさい、王都のマナってゴチャゴチャしてて〜でも、もう大丈夫最適化は済ませたから…」
そう言い争っている最中でも急速に沸騰し気化した蒸気の中から甲冑に身を包んだ騎士が躍り出る。
その騎士の甲冑は印刻された強化魔術の文様に光り、自身の強化との併用にて驚くべき速さを手に入れていた。
何の躊躇もなくイリウに迫る横薙ぎの剣閃、その威力は容易に子供一人を切断するであろうソレを…
しかし見えざる壁がが凶刃を半ばまで喰い込ませながらも止めた。
甲冑で表情は分からなくとも驚愕で身を固めたであろう騎士…その隙を見過ごすほどティアは甘くは無かった。
ティアが言葉を切り錫杖を騎士へ向ける。
そしてまた、シャランと錫杖の先に付いた鈴が揺れた。
「水流は矛になりて…」
錫杖の先から発生する激流。
騎士も反射的に剣で防御するも受け流し切れず、そのまま家屋に突っ込みその水流の勢いは2棟を突き抜けて隣の街頭に達する程であった。
だが蒸気の隠れ蓑を走り抜けた先、彼女等が見た景色は…
建屋の屋上から蒸気を避け追いかけてきた騎士団20人以上の様々な魔法陣であった。
「これは相殺出来ない…」
先程までの緩い雰囲気を無くし冷静な結論を口にするティア。
「流石に真っ直ぐは無理だ、細い路地を蛇行しながら西区へ入るしか…」
「待って!エトはそのまま真っ直ぐ進めって言っていたの、だからっ…!」
リーダーとして方針を口にしたヌアザを咎める声ソレは腕の中のイリウから。
「しかし…」
「お願い、エトを信じて…」
その青く何物の穢れを知らぬ真っ直ぐな目にヌアザは射貫かれ何も言えなくなる。
「ヌアザ!!早くッ……!」
しかし遅い。結論を出す前に既に魔法陣から様々な現象が殺意を持ってイリウ達に放たれた。
その殺意に少しでも被害を抑えるためにナスティーユは二つ名にも謳われた障壁魔法を更に展開、ティアはできるだけ多くの水弾を発射しナスティーユが対応しきれない魔術のフォローを、だが結果は無傷では行かないだろうヌアザ達の逃走劇は此処で終わる。
だが、災いは人の俗世など鑑みない
直後、爆撃が騎士団の居た建屋を破壊した。その唐突さは人に痛みを感じさせぬ程であった…
「きゃあ!」
「くっ……!!」
その衝撃はイリウ達も例外なく襲い狂い、吹き飛ばされる身を、固め耐えるしか無い。
体全身をヌアザに包まれたイリウは一番立ち直りが早くさっきまで騎士団達が方へ目線を向けそして…
ひどく世界が色鮮やかに見えた…
私は…
ゆっくり流れる時の流れで…
私は…
空には笑う白く金色の妖精が居て…
私は…
今まさに振られる絶刀が遭って…
私は…
ソレは、私の死だった…
「がぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!」
だが私をまさに両断しようとした刃は、私の死は、黒く巨大なナニカの突貫に遮られた。
知覚能力が極限に高まった私にはソレが私を守ってくれる…
「エト!!!」
自分の声に引き伸ばされた時間の流れが戻る。
そして突撃を受けたユースティティアとエトランゼの、建屋を何棟をも突き抜けていく強烈な衝突音が響いていく。
その後、連続した爆発音やら建物をそのまま地面に叩きつける様な衝撃が地面を揺らし、空には切られ、衝撃で吹き飛んだ建屋が流れていく。
「一体何が起こってるんだ!!」
「エトが戦ってるんだ!私達を守るために!」
先程から飛んでくる破片に頭とイリウを守りながら叫ぶヌアザにイリウが叫ぶ。
「おい、早く立て!消し飛んでる騎士団と同じ死体になりてぇのか!」
一同に喝を入れながらナスティーユが立ち上がりヌアザを先頭にまた走り出す。
真っ直ぐ、結界の外を目指して…
そして先程の場所が縦に割れ、斬撃が通り過ぎる。
少しでも判断が遅れていれば私達は彼処で輪切りになっていた。その事実にヌアザは喉を鳴らすことしか出来ない。
だからすぐ横で彼女が剣を振り下ろそうとしている事に一瞬遅れた。
だが目の端に捉えたと思った白き妖精は次の瞬間には攻撃から迎撃に移行し飛んでくる剣を切り落とし、人に向けるには大きすぎる
「アッハハ、こんな戦闘いつ以来だ?なぁエトランゼ!!」
当然の様にユースティティアは無傷。逆に建物に押し付けているエトランゼには喋る余裕も無い。損傷も大きく傷だらけだった。
そうして見たこともないような武器達がエトランゼから出現し次々にユースティティアに殺到する。
ソレは巨大な砲身。
エトランゼの背後から連なって現れた砲身は容易に眼の前の町一面を穴だらけにした。
だがユースティティアはそんな地獄には既に居らずどう言う原理か空中に五体を投げ出し浮かんでいた。まるで世界の中心で生を謳歌するように…
いや、エルフたちの目には見えていた。ユースティティアの髪から伸びる
「
ユースティティアの詠唱、それだけで魔力糸が触れた瓦礫が天を覆う様に浮き上がる。まるで人間が手足を上げるように瓦礫は重力を超克する…いや、その様に設定されている。
そして天を覆う瓦礫が一つの巨大な塊となりイリウたちを叩き潰そうと落下する。
まるで古に存在した
しかしその拳の前にキラキラと舞う光を見た。
「
エトランゼの周りを旋回する白い剣から溢れ空中に舞い散る幾つもの何か…
硝子のようで…しかしそこから見える景色は硝子と言うには余りにも歪んで見えた。そしてエトランゼの口から言葉が…
「
ガラスが一斉に瞬く…そして瓦礫は幾億の光に分断された。
断面は高温で赤く光り見るものが見れば綺麗だと口走るだろう。
「おいっオイオイオイオイ!」
確かに瓦礫の塊はイリウ達には当たらないように切られている…しかし物質が無くなった訳では無い。
「ふざけんな!化け物共!」
「走れ!はしれ!走れ!」
だから、イリウたちの場所以外に隕石のように降り注いだ。
堕ちる、堕ちる、落ちる。
雨の様に降り注ぐ瓦礫に街は爆撃を受けたかのように倒壊し、地面は揺れ、破片は飛び、周りは劫火に包まれる。
イリウ達はただ走った。
ナスティーユは死ぬ気で障壁を貼り、ティアも水壁で熱波を受け止める。
そして後ろで数え切れない剣戟が聞こえ始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます