第8話 始まりの鐘
所変わり、大通り、"バーボイド"にて先程から左から右へ駆け抜けて行く完全武装の騎士団達に王都に長く住んでいる者ほどそれが如何に異常なのかを感じ取っているのか、酒場にて酒を飲みながらもその視線は鋭い。
逆に観光客などはそんな事も気づかずに走り抜ける騎士達を見ては何かのイベントかと勘違いして歓声を上げている。
「あれ……?」
だから先程から鐘がなり始めてからと言うもの何故か周りが異様に静かな事に少し遅れて気づいた。
周りを見渡せばさっきまで鼓膜が破れるまで煩かった筋骨隆々な呼子も、くだらないことで喧嘩していた冒険者も酒に酔い潰れ眠っていた浮浪者も皆が上を見ていた。
正確には北区ギルドハウスを中心に展開され始めた結界を…
ギルドハウスは今、建設されて以来初めてではなかろうかと言うほどの静寂と、ザワザワとした冒険者の動揺に包まれている。
そんな中、さっきまで王国騎士団と言い争っていた冒険者の一団からヌアザ達が抜け出し此方に走り寄ってくる。
その行動に注目する人間は居ない。
それ程までに今、ここにいる人間には余裕がない。ザワザワと周りと事の成り行き、状況を整理しようと努めているからだろうか。
「おい、エトランゼこれは一体どう言う状況何だ?イリウ様を渡せと奴等は…」
小声で問われる問いにエトランゼは答えない。ユースティティアから目線を切らずにただその視線は険しい。
代わりにモナークが純粋に疑問に思った事を口に出す。
「お前が出張って来るなんてどう言う風の吹き回しだぁ?ユースティティア」
「此方も此方で王国にも多少は借りがある。それにこれまでの借りを全てチャラにすると言われてはな…」
奴は確か…数々の文化的遺産物、場所その他諸々を破壊している。
それは奴の戦闘規模が大き過ぎるのもあるが、周りを見ない奴の性格にも起因している。
その件には王国もかなり怒って居たはずだが…
その全てを許すと言うのならば、今回の件にそれ程本気なのだろう。
「それにモナークギルド長には困ったものだ。もう少し時間を稼いでくれませんと、逸った団員が冒険者に狼藉を働いてしまった。果てには裏口から逃がそう等とは…会長の座が惜しくないのか?」
ギルド長室の会話が聞かれていた…?俺が気づかねーって事はエスカトーレか…
「ふん、随分趣味が悪いな。こんなおっさんの部屋を覗こうなんてよぉ…前から言っているが俺は何時でも後任が現れたのならさっさとソイツに席を譲ると公言してる、俺にはあの椅子は小さ過ぎるのでな」
"確かにそんな玉では無いか"とユースティティアが笑っている、しかしそんな会話もよく通る声に遮られる。
会話を切り裂くのは
初代冒険者シュヴァルツァーの血を継ぐ末裔である。
「ユースティティア殿、任務に関係ない私語は謹んで頂きたい」
そんな言葉に肩を竦めるユースティティア。
「改めて、ギルド及びその冒険者エトランゼ殿に通告する。此方はその銀髪のエルフの保護を命令されている。大人しくそちらのエルフを此方に引き渡してほしい」
そんな余りにも馴れていない命令にユースティティアはクスクスと鈴が鳴るような声で笑っている。
「…何か、可笑しな事がありましたか?ユースティティア殿」
「流石にっ…ククッ、嘘がヘタだと思ってね。素直に言えば良いのに、此れは保護とは名ばかりの殺害命令だと…」
「なっ…お言葉ですが」
「それに向こうはもう気づいてる」
そんな団長の抗議の声に被せるようにユースティティアが口を開く。
その言葉にセインスもエトランゼを見れば人の機微に疎いと言われる自分でも既に交渉の余地が無いことが分かった。
「……再度、聞いておくエトランゼ殿そのエルフの少女を此方に渡してはくれないだろうか?」
その言葉にエトランゼは当然の様に無言。
「…貴様っ団長が話しかけて居るのが分からないのか!」
「おい!」
しかしそんな態度に声からして若い騎士団員が飛び出し、団長の静止も振り切り騎士団員に配給されている銃型の魔具を取り出してエトランゼに銃口を向ける。
「団長殿に対してその無礼、万死に値する!…団長の手を煩わせる事もない、私がその悪魔つきに鉄槌を…」
っと銃口をイリウに移した瞬間。
「えっ」
銃型魔具と共に指二本がボトリと落ちた。
銃型魔具は指諸共半ばから切断されている。
「下がれ、身の程知らず。今回はシュヴァルツァーの顔を立てて攻撃を逸らしてやった。だが次は無い」
"ギャァァァァアアアア"
一拍遅れて叫び声を上げ蹲る騎士団員。そんな騎士団員を何時の間にか現れたカーテナを手に、ユースティティアがひどく冷めた目で見下ろしている。
未だに叫んている騎士団員の下の床は余りにも綺麗な切断面がパックリと割れていた。恐らく、エトランゼの攻撃をユースティティアが逸らさなければ団員は体が切断されていただろう。
その明確な決裂は言葉にされるよりも余程わかりやすい。そしてこれから訪れるであろう惨状にシュヴァルツァーは目を伏せた。
だか、それも一瞬のこと…次に目を開けた彼は何時もの任務を忠実に熟す栄えある王国騎士団長のソレであった。
「ではここに再度、ギルドに対し王国は通達する!!国賊エトランゼが引き連れる銀髪のエルフの殺害又は捕獲をここに依頼する!これは、王国から発令されたワールドクエストである!!」
「はぁ!?」
「うっそ…」
「おいおい、本当に存在するのかワールドクエスト…!?」
そのシュヴァルツァーの宣告にギルドハウスの冒険者はどよめきを通り越し騒然となる。
それもそうだろうワールドクエストなど何百年ぶりの事、ましてやそれがこれまで五人だけが達成し紫位を越えた冒険者の最高位…冠位になる条件だと言うワールドクエストそしてその報酬額は5つの国が買えるほど膨大だと言う。
その団長の宣言と同時に鐘の音がなる。
ゴーン…ゴーン…ゴーン…
その音で冒険者の顔から色が抜けた。そしてその鐘の音が意味する事は一つである。
「交戦規定だと…!?シュヴァルツァーお前は!王国は!これが何を意味しているのか分かっているのか!?」
モナークが吠えるがシュヴァルツァーの顔に動揺は無い。
周りの浮足立っていた冒険者、それも赤色と呼ばれた冒険者の行動は早かった。皆が最低限の荷物を持って瞬時にギルドの外へ出ていく。
そんな中、黒位の男やそのパーティーなど状況が飲み込めていない者などがいる。
どれ等も皆同じ王都に来て間もない者達。
「おい、どうしたんだよいきなりそんな急いで何処に…」
その一人が脇を走って通り抜ける赤色に問いかけ…
「バカか!?てめぇは死にてーのか!?今からここに臨界爆弾がぶち込まれるって事だ!!」
その言葉で状況が上手く飲み込めないでいたルーキー達も臨界爆弾と言う言葉に血の気が引くのを感じた。
そうそれが鐘の音の意味する所。
結界内に臨界爆弾を落とす…死の鐘の音。それは、これから起こる如何なる破壊行為、殺害行為も王国が容認すると言っている事に等しい。
生き残れるのは鎧に王国の刻印がある王国騎士団か…それらを歯止めにも掛けない化け物だけだろう。
決して人間が耐えれる代物では無いと言うことだけ…
それは、特例中の特例、交戦規定第四条の発令である。
先程とは打って変わり血相を変えて我先にと出口へと走る冒険者達、ワールドクエスト何処の話ではない。
生きてなんぼの物種だ、この事態は余りにも規模が違いすぎている。
赤位まで至った勘の良いスカウトはギルドハウスから外に出る。
そして、外は既に王都の住人達も最低限の物だけを持って続々と北区から離れて行っているのが解る。そして観光客もその異常な血相に釣られて一緒の方向に走る者と店主の居なくなった魔法具屋や酒屋に堂々と泥棒を働く者などで混乱の渦であった。
そして皆一様にギルドから離れているようであった。
スカウトは嫌な予感に従い上を向く、すると既に結界はその帳をおろし始めている。"幾ら何でも速すぎる…"それは初めから決まっていたかのような段取りの良さを男は感じた。
そして名も知れぬスカウトは一刻も速くここから離れる為に全力の身体強化にて屋根を伝いながら移動していく。
こういう悪い勘に限ってを男は外したことが無かったから。
下は住人の怒声と子供の鳴き声でごった返しているそれは今から起こる世界の混乱を予見しているかのように…
そして騎士団団長の、王国のワールドクエスト受注はすぐさまに東西南北全てのギルドハウスへと通達される。
その出来事に驚愕する者、笑い飛ばす者、興味の無い者と千差万別の反応を見せる。
しかしどの冒険者にも、この降って湧いた栄光への道を無視できないのは共通していることであった。
そんな何処かのギルドハウス。
他の冒険者などは遠目から北区に降りていく結界と鐘の音を聞きながら"初めて聞いたな"やら"スゲーな、おい!"と酒の宛に楽しんでいる様であった。
流石にあの結界に飛び込んでいくバカな奴はいないのだろう。
そんな中、冒険者の一人でもある男がギルドに併設された酒場から立ち上がる。
「あれリーダー何処に行くんだよ?」
「おい、"撃鉄"流石にあの結界には入らんよな?」
「此処では奴は仕留めきれん、場所を変える」
「場所って何処だよ?」
撃鉄と呼ばれた褐色の大男は集中しているのかパーティーメンバーに一別もくれずそう一言行って出ていく。そんな男の態度に慣れているのかまた始まったとばかりに目線を合わせため息を吐きながら男に続いていくパーティー達。
そしてとあるギルドハウスでも青いと言うより蒼い髪の女が如何にもな、堅苦しい男に呼び止められていた。
「あー、今ちょっと忙しいんだ。依頼ならまた今度にしてくれないか?エトランゼに今回の経緯を聞きに行きたいし、彼奴が国賊何て笑わせるだろ」
そう言って槍を身の丈もある長い槍を担ぎ外に出ようとする女に男は尚も礼儀正しく口を開いた。
「その件にて依頼をお願いしたくギルドを通さず貴方様に声をかけて頂きました。」
「なに…?」
その言葉に怪訝に振り返る女に男は名刺を渡すと女は少し目を開く…ならまぁ少しは聞いてやるかと男に"ギルドの外へ"っとジェスチャーをしガヤガヤと喧騒に包まれた街頭へと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます