第2話 約束の大地へ

「おお!凄い爆発ですねぇ!」


月翳ぬ国ヘカトスにて近衛二番隊、副団長の肩書きを持つうっすらと紫に近い銀髪を靡かす軽薄そうなエルフがそう呟く。


「いやッー!お父さん!お母さん!」


そのエルフの男の周りには、黒装束の様々な種族が男の命令を待つかのように待機しており。

人質なのか村娘が一人、黒装束に手を後ろに縛られ捕まっていた。


「いや~これが音に聞こえし反発式爆弾。プロトンですか」


村長の家は見るも無惨に爆発四散しており、されど業火は貪欲に残骸を焼き尽くす。


「ですが良かったのですか諸とも爆発してしまって」


黒装束の一人がエルフに問う。


「いいんですよ門は1つじゃありません...それにどうせ死んでいませんよ。そうですよね!」


そうエルフが広場に声をかけるとそこには人間二人とエルフ一人を抱えて男が何時そこに移動したのか、不気味に佇んでいた。


抱えている三人は無傷。


しかし男の顔や体は爛れてボロボロだったがその傷も時間が巻き戻るように治っていく。

過剰なオドの身体強化は体の回復機能すら驚異的に上昇させる。

その回復力も脅威だが、何よりも黒装束達は先程の致命傷に悲鳴も涙も無いこの男の精神性が恐ろしかった。


「化物ですねこれは...君、取り敢えずに連絡を。門の生存を確認とその対象はと行動を共にしていると」


"ギルドの連中めっ"と悪態をつきそうになった口をぐっとエルフの男は抑えた。

因りにもよってあの『エトランゼ』がでばってくるとは思っても居なかった。

そうしてエルフの言葉に獣人の黒装束は小さく肯定をし、報告の為瞬時に離脱しようとしたとき...


大きく揺れる大地。

その場に居た誰もが動きを拘束される。


地に足を着くそれらを嘲笑う振動、それは男が放った震脚であった。

男はこの者達を逃すつもりは無いのか気絶した村長らを無造作に置き此方を殲滅せんと迫る。

だがその驚異的な猛追を止めたのもそれは大地の楔たる大樹であった。

左右から突如生えてきた二本の大樹に男は顔を僅かにそらすだけで回避。


「それ避けるんですか!」


エルフは呆れたように更に地面から生えてきた木々を男へ殺到させるも男は拳打で迎撃。

それだけで木々は大きく凹み、曲がり、歪んでいく。


「それ以上動けば村長の娘を殺す!」


黒装束の言葉に男は止まることも無く娘の首筋にナイフ当てている男に向け指を弾いたかと思うとそれだけで男の上顎から上が無くなった。


信じられない事にこの男は小石を飛ばして人間の頭を破裂させたのだ。


「殺せ」


約定は違えられた。

為らば此方も宣告通り殺さねば 人質が人質足り得ない。

故に冷徹に下された命令に黒装束達も娘に殺到する。


常人であれば覆せぬ結果。

距離にして4m、娘の死は確定するであろうその絶望的な距離にてエルフの男アンバーナインは確かに聞いたのだ男の呟きを...


付与アサイン


その男の宣告に現象はすぐさま追い付いた。

突如として娘の下に土が魔方陣の形に隆起する。


それは見るものが見ればすぐにわかるような土壁の魔方陣であった。


男の手にはいつの間にか魔方陣がかかれている紙切れが。

紙は役割を終えるかの様に燃え尽きる。


エルフ渦中には驚愕があって...どんな理屈かは知らないがしたように見えていた。



瞬間、娘の周りに壁が迫り上がる。

黒装束達を完全に止めるにはとても頼りない土壁。

それは事実、娘を殺す時間を数秒遅らせるだけの代物であろう。


だが男にはその数秒こそが何より必要であった。


直後、駆け出す男に殺意が込められた樹木が男を串刺しにしようと迫り狂う。


しかし男は木に手を添えるだけでそれらをいなす。


この程度の攻撃、男にとって何の障害になろうか。




黒装束達が壁を壊した時、娘の正面の黒装束二人の前には既に男は到達していて...


考えるより先に振るった暗器が男に迫る。

もはや回避など間に合う筈もない。

早さを優先され、極限まで削られた短刀が男の頭に迫る。

黒装束が男の頭を切断する感触さえ夢想し、頬を歪めたとき...


その予想に反し手は空を切るばかりであった。


混乱の極みの最中、黒装束は男の手に自分が先程まで握っていた暗器が握られている事に気が付いて...


"無刀取り..."余りの光景を黒装束は認めることが出来ずに...


「おぉぉおぉおぉお!!!」


その雄叫びは理不尽へのせめてもの抵抗であった。

同じく約束の地へ共に旅立たんとした仲間の為に一秒でも稼ぐために黒装束は体ごと突貫し...


だが死神の鎌は無慈悲に振るわれる。


男が短刀を目にも止まらぬ早さで振るえばそれだけで正面の黒装束二人は上半身と下半身に泣き別れた。


「うっ!」


そうして後ろの娘を強引に抱き抱え体の位置を入れ換え後ろの黒装束と相対する。

体の回転を利用しそのまま一番接近していた黒装束の、振り下ろそうとしていた撲殺型の暗器ごと叩き斬る。

その体に隠れ突きを放とうとする黒装束の剣を短刀で上に弾きそのまま頸動脈を切れば黒装束は首を抑え数歩歩いて事切れた。


残る後続の一人に向かって短刀を投擲。

反応も出来ずにこめかみに吸い込まれ走っていた体が崩れ落ちる。

流れるように上に弾いた剣を手に取り最後の一人に向かって斬撃を飛ばし鎖骨を断った。

この間、僅か3秒にも満たない出来事である。


為らば娘を離脱させようと男が足に力を入れた所で...


抱えている娘の背中に発生するのを男は見た。

考える暇も無く娘と己の位置を入れ換える。


「...っ!」


ギャリギャリギャリと凡そ人から鳴る筈もない耳障りな音が響く。

それは強化された男の体に何かが擦れる音であった。


咄嗟に男はエルフの方に目をやる。

エルフが手にしていたのは両刃の酷く美しい槍であった。


その両刃は星々を切り取ったかのように煌めいていて...


人為らざる者達の武具アン・クリエイト...!



それは迷宮や遺跡、魔物の体内から稀に出土する人が到底創造することができないと認められた武具達の総称。


どんな能力が有るのかはわからないが には距離制限が在るはず...


そう思い娘を投げ飛ばそうとして、ガクンっと膝が崩れる。


男は突然の出来事に驚愕し...


先程の槍に毒が塗られていることを看破した。


そしてエルフはその隙を決して逃しはしない。


『木々は巨人を模し、彼らに鉄槌は振り下ろされる』


即座に詠唱される二節に木々は巨人を形取り体制の崩れた男にへとその巨拳を振り下ろす。


付与アサイン


男も娘に自分のオドを付与し強制的に強化、後ろに10m蹴り飛ばす。


「きゃぁぁぁ!」


「しぃっ!」


激突する両者。

その衝撃で地面から呆気なくひび割れ陥没する。

男の膂力は驚異的であるだが素の力でましてや毒に犯されている状態では分が悪い。


「さっきの毒は一滴で死ぬような代物なんですがね」


エルフが呆れたように口にし更にゴーレムは左腕を男へと振りかぶる素振りをみせる。


男も娘に付与したオドを戻し反撃しようと息を溜めたときに...


「先程の爆弾は各、住居に仕掛けています」


そのエルフの言葉に数秒、男は体を止めてしまっていた。




故に二撃目が振り下ろされる



直後、男の体が地面にめり込む。


更に間髪入れずに巨人の拳が振るわれ、その度に沈んで行く体と男の口から舞う鮮血。


男は確かに住居にある爆弾の発する微弱なオドに気がついていて...



ならば後は覚悟だけが男を支配していく。


「そんな生き方を続けていれば何時か君の友人が...何より君が不幸になることになる」



豪打の嵐の中、朦朧とする意識の端で男はいけすかない男の声を聞いた気がした...



捧げるテイクオーバー




男の周囲に紫電が舞う...






決着はついた。


保険の為の人質もには無駄には為らなかった様だ。


今もゴーレムに殴られ続けているエトランゼからはオドが感じられない。


これでようやくを回収できると一歩踏み出した瞬間...


強烈なエネルギーが現象として顕れる...


それがエトランゼからの発される過剰なオドの奔流と気づいた瞬間にはアンバーナインは反発式爆弾プロトンを起動していた。


されど予想していた事象は起きずエトランゼから27


「何!?」


余りの爆発に10mはあるゴーレムも原形を留めることは出来ない。


だか何より不可解なのは住居に仕掛けた爆弾が住民では無く奴に集中したこと!


そんな爆心地の只中にあって超然とそこに佇み。

過剰なオドは周りのマナを奴のオドへと変容していきその反応熱により蜃気楼のように空間は歪んで行く。


その余りの光景にアンバーナインは...


無傷での退却を諦めた。












































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