第四十九話 彩 ゆーちゃんと再会
朝、いつもの様にメイド長ジスレアさんに仕事を貰おうと挨拶をした所、私の指導係のクレマさんを待つように言われた。
少し待つとクレマさんがやって来て、ジスレアさんが今日の仕事を教えてくれた。
「アリーヌには今日から廊下の掃除を行ってもらいます。クレマ、しっかりと指導をお願いします」
「「はい、承知しました」」
私の仕事は、窓拭きから廊下の掃除に変わった。
やっと慣れて来た所だったのだけれど、仕方ないよね。
クレマさんから掃除の仕方を教わりながら、廊下の掃除を行っていく。
私がやっていた窓拭きは他のメイドの人がやっていて、定期的に交代して行って、最終的には全ての箇所の掃除が出来るようにならなくてはいけないらしい。
アリーは私が来るまで、窓拭きを上手く出来ていなかったから、ずっと窓拭きのままだった。
アリーは少し要領が悪いだけで、私は掃除が下手だとは思わない。
だって、アリーは私と代わった時一生懸命掃除をするし、私の助言を聞いてしっかりと掃除が出来ている。
もう少しすれば、私が居なくてもアリーは与えられた仕事をしっかりと出来るようになると思う。
そうなれば、私も日本に帰れるのかな?
ここでの生活も結構気に入っているし、アリーと友達になれたのでこの世界に居たいと言う気持ちもある。
でも、私が帰らないとお母さんが悲しむだろうし、その時が来れば日本に帰らなくてはならない。
一日一日の生活を大事にしていこうと思う。
私のメイドとしての仕事は順調に行えているし、アリーも仕事を覚えて来ているので何も問題無いように思える。
でも、私が働いているティリメーヌ城では不穏な噂話が飛び交っていて、メイド以外の人達も忙しそうにしていた。
『アリー、本当に戦争になるのかな?』
『うーん、私には難しい話は分からないかな…』
『そうですよね…』
不穏な噂話と言うのは、私とアリーが住むロンランス王国が戦争に巻き込まれると言う事だった。
お城の中でメイドとして働いている分には、戦争に関わる事は一切無いと思う。
敵がお城まで攻め込んでくれば逃げるしかないだろうけれど、それまでは安全だと思う。
でも問題は、ロンランス王国の女王様がゆーちゃんかも知れないと言う事。
ゆーちゃんは頭もいいし、男の子と喧嘩しても負けないくらい強い。
ゆーちゃんなら、戦争も上手く回避してくれるかもしれないし、もし戦争になったとしても負けないんじゃないかと思いたい。
でも、ゆーちゃんの事が心配になって来た。
出来れば会って話したいと思うのだけれど、アリーは普通のメイドだから女王様に会いに行くことは出来ない。
それに、女王様がゆーちゃんだと決まった訳でもないのだけれど…。
クレマさんに仕事を教わりながら聞いた話では、他の国に女王様が治めている国は無いとの事だった。
だから、ゆーちゃんがロンランス王国の女王様の可能性は高い。
どうにかして、話す機会を得られないかなと思っていた…。
「アリーヌ、少しよろしいでしょうか?」
私が洗濯物を干していると、見た事の無いメイドさんに声を掛けられた。
『アヤ、あのメイド服は女王様お側仕えのメイド様です。とても偉い方ですから、失礼の無いようにお願いします』
『わ、分かりました』
メイド服のデザインは同じだけれど、私が着ているメイド服よりフリルが多めに付けられていたりして、より可愛らしいメイド服だった。
アリーに指摘されなければ、同じメイド服だと思ったのかもしれない。
それに、女王様のお側付きと言う事で、メイド長のジスレアさんより偉い立場の人達だから失礼の無いようにしなくてはならない。
「はい、何か御用でございますか?」
「女王様がお越しですので、よろしければお話して頂けないでしょうか?」
「えっ、私とでしょうか?」
「はい、こう言えば納得するでしょうか?女王様はアリーヌの中に入っている方と話をしたいと」
「っ!わ、分かりました」
お側仕えのメイド様は、私の耳元で
中に入っている方と言われて一瞬驚きましたが、女王様がゆーちゃんなら知っていて当然の事ですし、お側仕えなら女王様の中にゆーちゃんが入っている事を知っていても不思議ではありません。
「ですが、洗濯物を干し終えてからで、よろしいでしょうか?」
「いいえ、そちらは私が干しておきますので、すぐに女王様の所に行ってください」
「あっ、はい、お願いします」
お側仕えのメイド様は私から洗濯物を取り上げて、私の代わりに干してくれました。
私は言われた通り、美しいドレス姿で優雅に立っていらっしゃる女王様の所に向かって行きました。
女王様の前に立つと、その威厳ある姿に圧倒されそうになります。
雰囲気も、ゆーちゃんとはまるで違います。
今はゆーちゃんでは無く女王様が表に出ているんだと思い、気を引き締めて話しかけた。
「エルネット女王様、私に御用との事でしたが…」
「はい、貴方に用があるのはわたくしでは無いのですが、分かっていますよね?」
「はい…」
やっぱり今は女王様で、ゆーちゃんは女王様の中に居るみたい。
そして、女王様の雰囲気が少しだけ変わり、ゆーちゃんが表に出て来たんだと思う。
「あーちゃん…だよね…」
「はい、ゆーちゃん」
顔も声も違うけれど、私にはゆーちゃんだとすぐに分かった。
朝の挨拶を欠かさずやって来たからかな?
声は違うのに、久しぶりにゆーちゃんの声を聞いた感じがして、とても安心できた。
ゆーちゃんとは、この世界に来てからの事を少しだけ話してから、私は仕事に戻って行った。
『女王様も私と同じように、アヤの知り合いの人が入っていたのですね』
『そうみたいです。予想はしていましたけれど、こちらから話しかけられなかったですからね…』
『そうだよね。私も女王様を間近で見たのは初めてで、とても美しかったですね~』
『そうだね、ちょっとうらやましいよね』
『うんうん』
女王様は美しかったし、ユーちゃんにはやっぱりよく似合っていると思った。
しかし、会いに行っていいと言われたけれど、アリーの事を考えれば、そう簡単にはいけないよね。
今も同僚のメイド達から、女王様と何を話したのか聞かれているし…。
「ほらそこ、話している暇はありませんよ!」
「「「はい!ごめんなさい!」」」
仕事をさぼっていたわけではないけれど、上司のメイドに怒られてしまった…。
ゆーちゃんとは話したいけれど、女王様の所には行けないよね。
でも、ゆーちゃんも大変そうだし、私が力になれるか分からないけれど手伝ってあげたいとも思った。
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