第四十七話 優華 戦争の準備
魔族ヴァレオンの仕事ぶりは早く、魔王と宮下 祐樹からの返事を一週間で持って来てくれた。
ヴァレオンの話によれば、もっと早く終わらせてエネットの顔を見に来たかったらしいけれど、宮下が手紙を書ける状態になるまで待っていたとの事だった。
宮下は相当苦労しているみたいだけれど、うちも同じだから同情はしない。
それよりも、手紙の内容が重要。
宮下からは、こちらに協力する旨の内容が書かれていた。
魔王からは、協力するが期待はするなという内容だった。
『どう言う意味なのかな?』
『魔王は一度たりとも、自分から戦争を仕掛けた事が無いのです。故に、今回はルピオン帝国側に魔王軍を配置するけれど、ルピオン帝国が反応するかは分からないと言う事でしょう』
『つまり、ルピオン帝国は魔王軍を無視して、こちらに攻め込んでくる可能性があると言う事ですか?』
『その通りです』
『なるほど、当てにならないのですね…』
『はい、ですが、ロンランス王国に選択肢はありません。
ルピオン帝国にお金を支払わないと通告し、戦争の準備を始めましょう』
『それしかないんですね…』
普通の高校生だったうちに、戦争とか言われても実感がわかない。
でも、今はエネットの代わりの女王として、しっかりしていなくてはならない。
うちはエネットに代わり、戦争の準備をするように指示を出した。
それは、ルピオン帝国側だけではなく、ルワース聖国側の守りも固めなくてはならない。
かなり厳しい状況で、両方いっぺんに攻めて来られたら守り切れる保証は何処にも無い。
しかし、敵が攻め込んで来てからでは遅い。
それに、事前に守りを固める事で、侵攻を諦めてくれないかという期待も僅かだがある。
今は、僅かな希望を願うしかない。
「ノーラ、エネットが言うにはうちも出撃しなくてはならないらしいんだけれど…」
「絶対に駄目です!」
ですよね…。
エネットも、ノーラには断られると分かっていても、言わなくてはならない。
うちとしては、本音を言えば危険な戦争なんかに参加したくはない。
だけど、他の人に任せて、自分だけ安全な場所にいるのも我慢できない。
女王が最前線に出る事で軍の士気も高揚するし、エネットが持つスキルを有効に使える。
エネットのスキルは味方の戦力を向上させ、敵を委縮させるのだそうで、このスキルが代々の女王に受け継がれて来ていたため、ロンランス王国はルピオン帝国とルワース聖国の脅威に立ち迎えて来たのだと言う。
だから、エネットが前線に出るのは当然の事なのだけれど、ノーラは危険な戦場にエネットを送り出したくない為に反対している。
でも、敵が攻めてきたらエネットはノーラの反対を押し切ってでも、女王としての責務を果たすべく戦場に向かうつもりのようだし、うちも賛成している。
その時は、ノーラも折れてくれるのは分かっている。
ただ…ノーラの気持ちを考えると、反対するのは良く分かる。
「ノーラ、まだ敵が攻めて来たのではないし、準備だけでもしておいてくれないかな?」
「…はぁ、私も分かってはいるのです。そうならないように色々動いておりますが、最悪の事態には備えておかなくてはなりません。
エネット様の出撃準備は整えておきます」
「うん、お願いします」
ノーラは諦めた感じで納得し、うちとエネットが出撃できるように手配をしてくれた。
ふぅ、女王になってから忙しい日々を過ごしているけれど、ひなやもこは上手くやっているのだろうか?
ひなは、しっかりしていそうで抜けてるところがあるけれど、度胸は意外とあるから上手くやっていそう。
もこは優しすぎるから、この世界では苦労していそう…。
助けてあげたいけれど、もこは治癒士だったんだよね。
ノーラに聞いたところでは、治癒士と呼ばれる人は各町にいて、人々の怪我や病気の治療を行っているそうで、もこを探し出すのは難しいと言われた。
そもそも、ロンランス王国にいるかも不明だからね。
他の国にいては探しようも無い。
ひなの剣士も同じで、そこら中にいる剣士に聞いて回ることは出来ない。
一番良いのは、女王のうちを訪ねてきてくれればいいのだけれど…。
「見ず知らずの人に、エネット様の謁見を許可することは出来ません!」
当然だよね…。
女王の命を狙って来る者がいないとも限らないし、ひなともこの外見が違っているので、いくら本人がうちの知り合いだと言っても会うことは出来ない。
一応、うちを訪ねて来た人がいたら、話を聞くようにお願いをしているけれど、会うことは出来ないかもしれないね…。
二人の事も心配だけれど、うち自身の事を頑張らなくてはならない…。
「はぁ~」
「またため息ですか?そんなに気になるのでしたら、お会いに行けばよろしいでしょうに」
女王の仕事はエネットが指示してくれるので、あまり考えずに済む。
だから、ついついあーちゃんの事を考えてしまうんだよね…。
あーちゃんの仕事ぶりは毎日ノーラから報告を受けているし、頑張っているのは分かっている。
その姿を見に行きたいと思うのだけれど、女王が仕事ぶりを見に行けば間違いなく迷惑をかけてしまうし、邪魔をしたくはない。
でも、うちが戦争に行く事になれば会えなくなるし、ノーラの言う通り少しだけでもあーちゃんを見に行きたいとは思っている。
『ユーカ、ちょっとわたくしと代わって貰えませんか?』
『うん、いいけど、仕事間違えたのかな?』
『いいえ、間違っていませんけれど、効率が落ちています』
『ごめんなさい…』
エネットと交代すると、エネットは残っていた仕事を早々を終わらせてしまった。
やっぱり、うちはエネットに迷惑をかけているのだなと思い、次からはしっかりと仕事を頑張ろうと思った。
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