第四十五話 日向 ロンランス王国についたにゃぁ

 一か月ほど訓練をし、ひなは獣を簡単に倒せるようになっていた。

 ひなは獣だと思っていたのだけれど、あれは魔物だったとティゼが教えてくれた。

 どちらにしても、ティゼの体を使って普通に戦えるほどには強く成ったんだと思う。

 だた、ティゼを追っている異端審問官とは戦えないだろうなとは思っている。

 やっぱり人を斬るのは怖いから…。

 いくらティゼの命を狙っている人とは言え、ひなは人を殺したいとは思わない。

 花ちゃんも、人殺しを許してはくれないだろう。

 だから、どうしても異端審問官と戦わないといけない場合になったら、ティゼと交代して貰う事にしている。


 ひなも戦えるようになったし、やっとロンランス王国に向けて旅立つ事となった。

 もう追手がいないと良いのだけれど…。

『あいつらしつこいから、まだ諦めてないと思うニャ』

『そう…』

 ロンランス王国に入るまで、町に入ることは出来ないみたい。

 せっかく異世界に来たのに、ひなは人里離れた所で独りぼっちだったから、人恋しいよ…。

 ティゼと話しているのは楽しいんだけれど、向き合って話せないからね。

 今頃皆、楽しくやってるんだろうな…。


 ゆーかは女王だったし、ひなと違って優雅な生活を送っていそう…。

 ももは治癒士だったから、もしかしたら患者と仲良くなっているのかもしれないね。

 そう言えば、今向かっているロンランス王国は女王が支配している国なんだよね。

 ゆーかに会いに行けるかもしれない。

 でもなぁ、ティゼの姿をしたひなでは、女王に会うことは出来ないよね。

 それは、ロンランス王国についてから考えればいいか…。


 ひなは追っ手に見つかる事を避けるために道を使わず、森や草原や山を歩き続けた。

 ティゼは獣人で体力があるから、一日中歩いても全く疲れる事は無い。

 ティゼなら、一日中走って移動する事も可能だと言う事だったけれど、ひなは野山を走って移動する事は危険だと判断した。

 だって移動中、様々な魔物に襲われるんだよ。

 走っていて不意打ちを食らえば、ひなは魔物に食べられてしまう。

 そんな事にはなりたくないので、猫耳を立てて音を聞きながら慎重に歩いて行く。

 当然、歩く速度は遅くなってしまう。

 出来るだけ早くルワース聖国から抜け出したいので、時折ティゼに代わって走って貰う。

 移動を開始してから一か月後、やっとロンランス王国に入ることが出来た。


『町に入れるんだよね?』

『入れるニャ!でも、お金は持ってないニャ…』

『えっ!?』

『捕まった時に全部取られたニャ…』

『そうなんだ…』

 町に入れば美味しい食事を食べて、柔らかいベッドで寝られると思ったのに…。

 お金が無いんじゃ仕方ないよね…。

 サバイバル生活を続けなくてはならないのかと思うと、気持ちがかなり落ち込んでしまった…。

 でも、道を歩けるのはいいよね。

 道を歩いていたり、馬車に乗っている人の中には、ティゼと似たような獣人の人や耳の長いエルフや背の低いドワーフなんかも見かけるようになった。

 本当にこの国は、亜人にとって安全な国だと言う事なのだろう。

 道を歩けるようになり、魔物との戦いは食料調達の時だけになったので、かなり移動速度は上がっていた。

 ひなも道なら走って行けるし、ティゼの体は本当に疲れないから一日中走っていられる。

 その分、食事をいっぱい食べないといけないのだけどね。


 ロンランス王国に入ってから十日後、ロンランス王国の王都ウォルシーに到着した。

 ひなの服は長旅でボロボロになっていたけれど、門番に止められることなく、王都ウォルシーに入ることが出来た。

『亜人に優しい国なんだね』

『そうニャ、ご飯も美味しいし、ティゼも気に入ってるニャ』

 ご飯、美味しいんだ…。

 今日まで味気ない食事が続いて来たから、早く美味しい食事を食べたいと思う…。

 それと、柔らかなベッドでゆっくりと眠りたい…。

 そう思って、歩く速度も速くなっていく。

 そして辿り着いた場所は大きなお店で、看板にはルシャー商会と書かれていた。


『ティゼ、代わるね』

『分かったニャ』

 ひなでは対応できないので、ティゼと交代した。


「ただいまニャ!」

 ティゼがお店の中に入って行くと、店員達が驚き、慌てて奥に誰かを呼びに行った。

 暫くして、店の奥から美しく若いエルフの女性が出て来て、ティゼを抱きしめた。


「ティゼ、無事だったのですね!」

「何とか逃げ帰って来られたニャ。でも、他の皆は殺されてしまって、ごめんニャ…」

「仲間の事は残念でしたけれど、ティゼだけでも戻って来れたのは良かったです!」

 美しく若いエルフの女性は、涙を流してティゼの帰りを喜んでいた。

 店の中でやっていては他の客に迷惑が掛かると店員に言われ、ティゼは美しく若いエルフの女性に連れられて店の奥に入って行った。


「先ずは、体を綺麗にしないといけませんね」

「先にご飯を食べたいニャ!」

「駄目です!さぁ、私が洗ってあげますから、一緒にお風呂に入りましょうね」

「嫌ニャァ!」

 美しく若いエルフの女性は意外と力が強く、嫌がるティゼを引きずってお風呂に連れて行った。

 ティゼはお風呂が嫌いだと言うのでひなと代わり、ひなが美しく若いエルフの女性から体を洗われる事になった。

 ひなは黙って体を洗われながら、ティゼからこの人の事を聞く事にした。


『この人はメロディアと言って、ルシャー商会の店主をやってるニャ。

 ルシャー商会は、ヴィルムーム国から仕入れてきた商品を販売してるニャ。

 そしてルシャー商会は、裏でルワース聖国に捕らわれた亜人の救出も行ってるニャ。

 ティゼは、救出の部署に所属してるニャ』

『そうだったんだね』

 ルシャー商会は手広くやっていて、ルワース聖国にも支店があるのだと言う事だった。

 ルワース聖国にある支店は店名も違い直接的な取引も無いけれど、捕らえられた亜人の情報収集するのが主な目的らしい。

 そして今回も、支店が集めた情報を元にティゼ達が救出に向かったのだけれど、情報は偽物で罠だった。

 メロディアは、ティゼ達に偽の情報を与えてしまった事を、ティゼの体を洗いながら何度も謝罪していた。


「ごめんなさいね…」

「失敗は誰にでもあるし、無事に帰って来れたから気にしないで良いと思うにゃぁ」

「そうね…本当にティゼが戻って来てくれて嬉しいわ」

 メロディアはまた涙を流し、ひなはメロディアが泣き止むまで慰め続けた…。

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