第四十四話 日向 修行にゃぁ
「出来たニャ」
『美味しそうだね!』
目の前には、ティゼが作った鍋料理がぐつぐつと煮えていた。
鍋は、茶色い大きな木の実を半分に切った物を使用し、その中に魔法で作り出した水を入れ、ひなが集めた野草とティゼが狩った獣の肉を入れた。
その後、ティゼが近くにある石を火の魔法で熱して温め、高温になった石を木の枝で上手く挟んで鍋の中に入れた。
原始的だけれど、鉄の鍋を使わずとも鍋料理が出来上がってしまった。
ティゼは手のひらほどの大きさの木の実を半分に切り、それを器として鍋の中から料理をすくって食べ始めた。
「ちょっと熱いけれど、美味しいニャ!」
ティゼは美味しそうに食べていて、ひなも少し代わって貰って食べて見たけれど、出汁を入れ忘れた鍋って感じで、あんまり美味しくなかった…。
調味料も何もない状態だし、食べられただけでもありがたいと思わないといけないね。
残っていた獣の肉は、ティゼが魔法でこんがりと焼いて細かく切り分けていた。
これで数日は食べられるのだとティゼは喜んでいたけれど、お腹壊さないか心配…。
ティゼと交代し、肉や鍋に使った木の実を蔦で結んで背負い、移動を開始した。
お腹も膨れたし、元気よく歩き続ける。
早く逃げないと、追手が来るかもしれない。
ティゼが表に出られる時間は一日最大二時間までで、今日は残り三十分くらいしかない。
追手が来たら、ひなが相手をしないといけなくなる可能性もある…。
そうなったら、ひなも捕まりたくないので全力で戦ってみるけれど、勝つことは出来ないと思う。
そう考えると、ひなも戦えるよになる必要がある。
『ティゼ、ひなにも戦い方を教えて貰えないかな?』
『お安い御用ニャ!でも、ここは危ないから安全な場所に移動してからにするニャ!』
『うん、お願いします』
この日は町から出来るだけ離れた場所に移動し、休むのに丁度よさそうな木のほこらがあったので、そこで一夜を明かす事になった。
そして次の日から数日の間、この場所でティゼに指導して貰って剣の訓練をする事になった。
『先ずは素振りからニャ!』
『はい!』
高校に入学するまで剣道は続けていて、竹刀は振り続けてきた。
だけど、実際の剣を持つのも振るのも初めてで、最初は戸惑ってしまった。
ティゼの体を使っているから、剣が重いと言う事は全くない。
むしろ、竹刀の様に軽々と振り回せて驚いたくらい。
だから余計に、刃が付いている剣を振り回すのに恐怖を覚えた。
一つ間違えれば大怪我をしてしまうので、慎重にならざるを得ない。
『遅いニャ!もっと素早く踏み込んで剣を振るニャ!』
『は、はい!』
ひなが慎重になっていると、ティゼが思いっきりやれと言って来る…。
怪我はしたくないけれど、ティゼの言う通りやらないと上達はしないはず。
だから、怪我をしないように注意しながら、出来る限りティゼの言う通り体を動かして剣を振り続けた。
訓練を始めてから五日後、何となく剣を自由自在に振れるようになって気がしてきた。
だからだろうか、ティゼがひなに獣を狩りに行こうと提案して来た。
『お肉が無くなったニャ!』
ティゼが狩って保存していたお肉が、昨日の食事で無くなってしまっていた。
だから、新たにお肉を確保しに行くのに、ひなにやらせると言った。
自信は無いのだけれど、何時かはやらなくてはいけない事だし、追手と戦うために訓練をしているのだから、獣くらい倒せないといけないよね。
初めての狩りに少し興奮しながら、木のほこらから少し離れた草原へとやって来た。
『耳を澄ませて、周囲の音を探るニャ!』
『やってみる!』
耳に神経を集中し、周囲の音を聞いて行く。
猫耳は良く聞こえ、風になびく草の音や、虫の鳴き声も大きく聞こえてくる。
色々の音が聞こえる中、遠くでガサガサと枯草の擦れる音が聞こえてきた。
『あっちに何かいるみたい』
『剣を抜いて、姿を見られないように体を低くして近づくニャ!』
『はい!』
ひなはゆっくりと慎重に音のする方へと進んで行くと、やがて獣の背中なのか黒い毛玉が見えた。
『一気に近寄って剣を突き刺すニャ!』
『やって見る!』
ティゼの言う通り、先に攻撃してしまえば獣に反撃されずに済む!
ひなは剣を握りなおし、一気に駆け出して獣とも間合いを詰め、剣を突き出した!
「やぁっ!!」
やれた!そう思ったのに、獣は俊敏に移動して躱されてしまった。
『横に飛んで避けるニャ!』
ティゼに言われて咄嗟に横に飛んだ!
ドスドスドス!
ひながさっきまでいた地面に、針が何本も刺さっていた。
『あいつは、毛を針のようにして飛ばして来るニャ!針を避けながら、力一杯剣を叩きつけるニャ!』
『分かった、やってみる』
幸いな事に、獣は足を止めて針を飛ばす事に専念している。
動かなければ、ひなでも剣を当てる事は出来るだろう。
問題は、針を避けるのが大変なんだけどね…。
獣は、次から次へと針をひなに向けて飛ばして来ている。
ひなは針を避けたり、剣で撃ち落としたりしながら間合いを詰め、獣のに向けて剣を力いっぱい振り下ろした!
ザシュッ!
剣が獣の体に突き刺さる感触が手に伝わって来た!
『やったよ!』
『まだニャ!!』
獣はまだ死んでおらず、獣が飛ばした針が足に刺さった!
「このー、死ねー!」
痛いけど、今はそんな事は気にしていられない!
ひなは、剣を何度も獣に振り下ろし、息の根を止めた。
『やりすぎニャ…』
『ご、ごめん…』
獣に剣を打ち下し過ぎて、ちょっと食べられる状況ではなくなっていた…。
でも、何とか一人で獣を倒すことは出来たし、次は上手くやれるんじゃないかと思う。
「いたーい!!」
ふぅーっと息を吐き出した所で、足に突き刺さっていた針の痛みに気が付いた。
『針を抜いてから、治癒魔法をかけるニャ』
『わ、分かった…』
針と言っても十センチくらいの長さがあり、それが深々と突き刺さっている。
ひなは痛みを我慢し、針を握って一気に引き抜いた!
涙が出るほど痛いけど…ひなが犯した失態だし、ティゼの体を傷つけたことには申し訳なく思う。
でも、教えられた治癒魔法をかけると傷口も塞がり、痛みもすぐに治まってしまった。
『魔法ってすごいね…』
『そうかニャ?』
魔法が無かった世界から来たひなにとって、魔法は本当に不思議で素晴らしいものだと思う。
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