第四十三話 日向 お腹空いたにゃぁ
「ニャニャニャニャッ!」
ティゼは逃げながら、空を飛んで追いかけて来ている人達が撃ち込んでくる魔法を躱したり、剣で魔法を撃ち払ったりしている。
それはとても凄い事で、ひなにはとても真似できそうにないけれど、一方的に攻撃を受けていれば、ティゼもそのうち疲れて来ていつかは魔法が当たってしまうと思う。
昨日から何も食べてないので、ティゼも辛そうにしている。
『力が出ないニャ…』
『頑張って!とりあえず上空からの攻撃を躱すために、あそこにある森の中に入った方が良いんじゃない?』
『そうするニャ!』
走りやすい道を逃げていたティゼは、近くにあった森の中に逃げ込んでくれた。
追手の方は高度を落として森の中まで追いかけて来たけれど、木々が邪魔で速度が出せず、ティゼに離されて行っている。
このまま逃げ切れる!そう思った所で、ティゼが反転した。
『ティゼ、なぜ反転するの!?』
『敵を倒すニャ!』
『えっ!大丈夫?』
『任せるニャ!』
四人の敵は森の中に入ったとはいえ、手が届かない所を飛んでいるのには変わりはない。
ティゼも、魔法で攻撃するのかと思ったのだけれど違った…。
「獣神瞬極流、瞬脚殺ニャ!」
ティゼは驚くほど加速し、木々の間を左右にボールの様に跳ねまわり、向かって来た四人の敵の間をすり抜けながら、瞬く間に斬り殺して行った。
「仲間の仇ニャ!」
ティゼは、地面に落ちた四人の敵に止めを刺していた。
ひなは、初めて人が殺されるのを目撃したのはショックが大きいけれど、ティゼの仲間が五人殺されている。
ティゼの声からも、恨みのこもった感情が伝わって来るし、これは仕方のない事だと思う。
『ヒナ、町に戻れないし、また追手が来るかもしれないから遠くに逃げるニャ』
『うん、そうだね』
それに対して、ひなも反対する事は無い。
だけど、ご飯が食べられなかった事は非常に残念に思う。
ひなはティゼと交代し、戦いでさらにお腹の減った体に鞭を打って歩き始めた。
気を紛らわそうと、先程の事をティゼに聞いて見る事にした。
『ティゼを追ってきた人達の服装がちょっと変わっていたけれど、あの人達って町を守っている人達では無かったの?』
『そうニャ、あれはティゼ達の敵、ルワース聖国の異端審問官ニャ!』
異端審問官?
ひなは、勉強が嫌いだから良く分からないけれど、確か、自分達と違う教えを信じる人達を裁く人だったかな?
どちらにしても、ティゼの敵だって事だけ分かればいいかな。
『ティゼが逃げ出したから、網を張っていたんだと思うニャ』
『そうだね…』
つまり、この先ずっと町に立ち寄ることは出来ない。
ご飯どうしようと考えたら、くぅーっとお腹が鳴ってしまった。
『お腹空いたニャ』
『うん…』
『食べ物を探すニャ!』
『わかった、探してみる…』
ティゼに教えて貰いながら、食べられそうな野草や木の実を集める事にした。
最初に、食べ物を集めるために必要な
自然が豊かだったのだろう、一時間もしないうちに結構な量を集めることが出来た。
だけど、生で野草を食べるのはちょっとね…。
実は、集めている時に採った葉っぱを口に入れて見たのだけれど、苦くてとても食べられたものでは無かった…。
『煮ないと食べられないニャ』
生で食べるのではなかったみたい…。
だけど、木の実はそのまま食べられたし、結構甘くて美味しかった。
でも、木の実だけではお腹は全然膨れないし、集めた野草を煮て食べるしかなさそう。
どうやって煮るんだろう?
火は魔法で出すのだとしても、鍋が無いよね?
『ひな、あれを採るニャ』
ティゼが採るように言ったのは、大きさがまちまちだけれど、茶色くて丸い実だった。
大きい実は両手で抱えるくらいあるけれど、小さい実は手の中に納まるくらい。
その中から、中くらいの大きさの実と、少し小ぶりの実を採った。
それを蔦で結んで背負った。
『後は肉ニャ!』
『肉は食べたいけれど…動物を捕まえる自信はないよ?』
『ティゼと代わるニャ』
『分かった』
ティゼと交代すると、ティゼは変身を解除し、猫耳をぴくぴくさせながら周囲の音を聞いていた。
『こっちかニャ』
ひなには分からなかったけれど、ティゼは何かの音を拾ったみたいで、身をかがめて音のする方角に慎重に進んで行った。
『いたニャ!』
『えっ!大きいけど、大丈夫?』
『大丈夫ニャ!』
ティゼが見つけたのは、五十メートルほど先にいる大きな獣だった。
エサを探しているのか、それとも巣穴を掘っているのかは分からないけれど、前足で土を掘り返していてこちらに気付いていない。
ティゼは剣を抜き、木の陰に隠れながら獣との距離を詰めて行った。
『行くニャ!』
獣との距離が十五メートル程まで近づいた時、これ以上は気付かれると思ったのか、ティゼは駆けだして獣に迫って行った!
獣はティゼに気付き、逃げるどころかティゼに向けて突進して来た。
「獣神瞬極流、零突ニャ!」
間合いに入ったと思った瞬間、ティゼの剣が獣に突き刺さっていた!
何が起こったのか、全く見えなかった…。
状況から判断すると、ティゼが獣に突きを放ったのだ。
ひなはティゼの目を通して見ていたのだけれど、剣が消えたように見えた…。
ひなは、小学校に入学してから中学校を卒業するまで、剣道を習っていた。
自慢ではないけれど、全国大会に行った事もある。
全国大会では、全部一回戦負けで帰って来たから、本当に自慢できない…。
だから、ティゼの使う剣技にも興味が少しあって、注意深く見ていたのだけれど…。
「肉ゲットできたニャ!」
『うん、良かったね…』
ひなは、やっぱり剣道の才能は無いのだと落ち込み、ティゼは倒した獣を慣れた手つきで解体し始めていた。
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