第四十二話 日向 二人で旅にゃぁ

「冷たい!」

 初めて野宿した朝は、最悪の目覚めだった…。

 冷たさを感じて目を覚ますと、雨水が木の葉っぱを伝って落ちて来ていた。

 木の根元に座っていたので、そこまで濡れずに済んだのは幸いだった。

 でも、座って眠ったのは初めての経験で、背中が痛い…。

 立ち上がって、雨に濡れない様に気に寄り添った。


『ティゼ、起きてますか?』

『寝てる…ニャ…』

 ティゼから眠たそうな声が聞こえて来たけれど、頑張って起きて貰わないとどうにもならない。

 頑張って声を掛け続けて、ようやく起きて貰う事が出来た。


『おはニャ』

『おはよう。ティゼ、雨が降ってるんだけど、どうしよう?』

『そうニャ、雨だけれど、移動しないと不味いと思うニャ』

『ですよね…』

 ティゼはどういう理由か分からないけれど、牢屋に入れられていた。

 花ちゃんが助け出してくれたけれど、ここが何処だかも分からない。

 また捕まらない為にも、遠くに逃げた方が良いと思う。

 でも…雨なんだよね…。

 傘は無いし、雨で地面はぬかるんでいて歩きにくそう。

 雨に濡れながら歩くのは嫌だな…。

 そう思っていると、ティゼが雨に濡れない方法を教えてくれた。


『今から教える魔法を使えば、雨に濡れないニャ』

『そんな便利な魔法があるの!教えて!』

 ティゼに呪文を教えて貰い、慎重に唱えてみた。


「ファマ ガウレ リムラキュ イスエス」

 良く分からない呪文だったけれど、私の頭上に半透明の膜が出来た。

 傘みたいなものだなと思いつつ、木の根元から出て雨を受けて見た。


『濡れない!』

『良かったニャ!』

 魔法が使えたことの喜びによって、雨の中を子供のようにはしゃいでしまった。

 でも、誰も見ていないからいいよね。

 それに、ティゼの身体能力の高さが分かったのも良かった。

 羽でも生えているかのように、体が軽い!

 森の中なので全力で走る事は出来ないけれど、全力で走ったら世界記録を軽く塗り替えれそう。

 でも、いつまでもはしゃいでいても仕方がない。


『ティゼ、どっちの方角に行けばいいのかな?』

『北に行けばいいニャ!』

『北ですね』

 私は太陽の位置を確認し、北の方角に向けて森の中を歩き始めた。

 歩いている間に、ティゼがどうして捕まっていたのかを聞いて見た。


 ティゼの話によると、今居る場所はルワース聖国という国で、亜人、つまりティゼの様な獣人やエルフ、ドワーフの様な、人とは少し違う種族を忌み嫌っている国なんだって。

 このルワース聖国は、亜人を見つけ次第捕らえては殺したり奴隷にしたりする。

 ティゼが、なぜ亜人にとって危険な国に居るのかというと、仲間が捕らえられている情報を掴んで助けに来たんだって。

 でも、偽の情報だったらしく、罠にはまってティゼは捕まってしまった。

 ティゼの他にも五人居たそうだけれど、他の五人は殺されてしまったみたい…。

 それで、これからどうするのかというと、ルワース聖国の北にあるロンランス王国に帰るのだと。

 ロンランス王国は人が治めている国だけれど、亜人を受け入れて共存している国なんだって。

 そこに、ルワース聖国から亜人を救出している組織があって、ティゼもそこに所属している。

 なので、一度そこに帰って、仲間が捕まっている情報があれば、再度ルワース聖国に救出に戻って来るらしい。

 危険な仕事だと思うけれど、仲間が捕まってたら助けたいと言う気持ちは分かる。

 でも…ひなは、命を懸けて救出に行ける自信は無いかな…。

 ひなは、何もかもから逃げ出したのだから…。


 森から歩きやすい草原に出る所で、ティゼが別の魔法を使う様に言って来た。

『変身の魔法ニャ。耳と尻尾を見えなくするニャ』

『なるほど…』

 他の人に見つかれば、ティゼの猫耳と尻尾で亜人とすぐ分かってしまう。


「ポリュイ ガウレ オム-オム」

 呪文を唱えると、猫耳と尻尾は見えなくなった。

 鏡が無いので耳は触って確かめたのだけれど、多分大丈夫だと思う。

 草原を歩いていると道が見えて来た。


『街道に出るニャ』

『見つからない?大丈夫?』

『魔法で変身したから大丈夫ニャ』

 ティゼが大丈夫だと言っているし、私も普通の道を歩きたかった。

 ティゼの身体能力が優れていると言っても、森の中や草原を歩くのは疲れる。

 それに、何も食べて無いのでお腹もすいて来た…。

 どこかの町に寄って、何か食べたいと思う。

 街道に出て歩いているけど、行き交う人達はひなの事を怪しむ人はいなかった。

 ちゃんと猫耳と尻尾は隠れていると安心した。

 そして、街道を一時間くらい歩いた所で町が見えて来た。

 やっとご飯が食べられると思い、歩く足も軽やかになって行く。

 だけど、町に入るには門の所で検査を受けないといけないみたい。


『大丈夫だと思うけれど、一応代わっておくニャ』

『お願い』

 ティゼと代わり、私は見ているだけの状態になった。

 見ているだけで、体が勝手に動くのは不思議な感覚だったけれど、慣れると楽なのかもしれない。

 ティゼは、町に入るために並んでいる人の列に並んだ。

 そして、やっと順番が回って来た時に問題が起こった…。

 検査をする人が、ティゼに水晶を向けていた。


『不味い!逃げるニャ!』

『えっ!?』

「ま、待てっ!」

 ティゼは慌てて逃げ出し、それに気付いた人達がも慌ててティゼを追いかけて来た!

 だけど、ティゼの逃げ足の方が速く、ティゼが振り返って確認した時にはかなり離れていた。


『何で逃げたの?』

『あの水晶は、変身を見破る魔道具ニャ!』

『そうなんだ…』

 変身を見破られては捕まってしまうし、ティゼに代わっていた良かったと思う。

 ひなだったら、そのまま捕まっていただろう。

 牢屋に繋がれていた光景を思い出して、ぞっとした。

 ティゼは街道からそれて、必死に逃げ続けている。

 もう追手は来てないみたいだから、そろそろ止まっても良いと思う。


『ティゼ、もう大丈夫なのでは?』

『駄目ニャ、空から追いかけて来てるニャ!』

『あっ!』

 ティゼが上空に視線を向けてくれたので、ひなにも空を飛んで追いかけて来ている人達の姿が見えた。

『四人追いかけて来ているけど…逃げきれそう?』

『ティゼは空を飛べないので、難しいニャ!』

『えぇぇぇぇっ!』

 また捕まって牢屋につながれてしまうのか思い、ひなは恐怖を感じていた…。

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