第四十一話 日向 猫になったにゃぁ

「むーーー!むぐーーーー!」

 なになになに!?

 ひな、猿ぐつわされてるんですけど!

 ジャラッ!

 猿ぐつわを外そうと手を動かしたら、両手両足が鎖で繫がれてた!


『静かにするニャ!』

 突然大きな声が頭の中に響いて来て、ビクッとして動きを止めた。

 花ちゃんから話を聞いていたけれど、ひなは本当に他人の体の中に入ったみたい。

 それは良いとしても、どうして猿ぐつわされて動けない状況になっているのかを説明して欲しい。

 と言うか、目の前には鉄格子が見えるし、牢屋に入れられて捕まっている状況だよね…。

 花ちゃん、最初から詰んでるんですけど!!

 花ちゃんに文句を言いたかったけれど、猿ぐつわをされているし、牢屋に入れられている状況で騒ぐのは得策ではないよね。

 とにかく、この体の持ち主と話をして、早くここから抜け出さないと!

 確か、頭の中で話せるんだったよね…。

 花ちゃんに言われた事を思い出しながら、体の持ち主に話しかけて見た。


『初めまして…松永まつなが 日向ひなたです…』

『ニャ、初めましてニャ、ティゼはティルローゼニャ!ティゼって呼んで欲しいニャ』

『はい、ティゼ、ひなはひなって呼んでほしいです』

『分かったニャ、ヒナ、よろしくニャ』

『よろしくお願いします』

 ティゼは語尾に「ニャ」をつけてるんだ…。

 ひなも、男の子に可愛く思って貰おうと、高校に入ってから語尾に「にゃぁ」をつけたんだけれど…。

 寄って来たのは、「可愛い子ぶってんじゃねーぞ」って脅して来る上級生の怖いお姉さん方だけだったんだよね…。

 って、今はそんな事はどうでもよくて、早くここから抜け出す事を相談しないと!


『ティゼ、この状況はヤバいんじゃない?』

『そうニャ!でも、魔女が助けてくれるはずニャ!』

『そうなんだ…』

 花ちゃんが助けに来てくれるんだ!

 そうだよね…。

 せっかく異世界に来たのに、このままではいきなりゲームオーバーだよ…。

 そう思っていると、目の前にここに来る前に見た魔法陣が現れ、そこから花ちゃんが出て来た。


「むーーーーー!!」

『魔女が来てくれたニャ!』

 魔女姿では無かったけれど、花ちゃんが来てくれた事が嬉しくて、思わず声を上げてしまった。

 猿ぐつわをされているので声にはならなかったし、花ちゃんは口の前で指を立てて静かにするようにという仕草をした。

 慌てて口を閉じ、助けてくれるのを待つ事にした。

 花ちゃんが小声で呪文を唱えると、私を繋いでいた鎖が弾け飛んだ!

 ひなは自由になった手で猿ぐつわを外し、花ちゃんに小声でお礼を言った。


「花ちゃん、助けてくれて、ありがとうにゃぁ」

「いえいえ、ここから出ますので、手を繋いでください」

 ひなは、花ちゃんに言われるがままに手を繋ぐと、花ちゃんは呪文を唱えた。

 次の瞬間景色が一転して、暗い森の中に立っていた。


「花ちゃん、ここは何処にゃぁ?」

「町の外の森の中です。魔物も近くにいませんので、一晩くらいは安全に過ごせます」

「そうなのにゃぁ…って魔物って何!?」

 思わず素に戻って聞いてしまった。


「カーディアナは、人を襲う魔物が沢山いますので注意してください。襲われた場合は頑張って倒してください』

「えっ!?倒せって言われてもにゃぁ…」

 ひなは普通の女子高生だったんだよ!

 魔物と戦えるはずないよ!

 そう訴えようとしたら、ティゼから声が掛った。


『魔物なんて簡単に倒せるニャ。だけど、ティゼの大切な剣が奪われてしまったニャ。魔女にそれを取り返して貰うニャ!』

『分かった、伝えて見るね』

「花ちゃん、ティルローゼが剣を取られたと言ってるんだけれど、取り返して来て貰えないかにゃぁ?」

「そうですね、少々お待ちください」

 花ちゃんはそう言うと、目の前から消えて行ってしまった。

 そして、暫くするとまた現れて、花ちゃんはひなに一本の剣を差し出して来た。


『ティゼの愛剣ニャ!』

「これでよろしいでしょうか?」

「はい、それにゃぁ」

 ティゼも喜んでいるみたいだし、私はなんの飾り立ても無い一本の剣を花ちゃんから受け取った。

 少し重みのある剣は、何となくだけれどこの手に良く馴染んでいるように感じた。


「では、頑張って下さい」

「あっ!」

 花ちゃんに色々聞きたかった事があったのだけれど、花ちゃんは目の前から消えていなくなってしまった…。

 途方に暮れていると、ティゼが話しかけて来た。


『明日から大変だから、早く寝た方が良いニャ』

『えっ、寝るってどこで?』

『ここでニャ!』

『森の中なんだけれど…もしかして野宿しろというの?』

『そうニャ、ティゼはもう寝るニャ、おやすみニャ』

『ま、待って!』

 ティゼを呼び止めたけれど、もう反応が無くなってしまった…。

 どうしよう…。

 野宿なんてした事無いよ…。

 でも、眠気は急速に襲って来ている。

 どういった経緯でティゼが捕まっていたのかも分からないし、ティゼの体からは疲労を感じる…。

 仕方なく大きな木の根元に座り、そこで目を瞑って眠る努力をしてみた…。

 周囲からは、虫の鳴き声が耳に響いて来る。

 うるさいと思い、耳を塞ごうと手を伸ばしたら耳が無かった…。

 えっ!?

 不思議に思い、手で耳を探すと…。

 これって猫耳!?

 頭の上に猫耳のような感触が伝わって来た…。

 触ると、がさがさと触る音が聞こえてくるから間違いない!

 もしかして…あった!

 お尻の方に手を伸ばして見ると、長い尻尾が付いているのが確認出来た。


「本物だにゃぁ」

 ちょっと嬉しい気持ちになり、もふもふの尻尾の感触を堪能していると、いつの間にか眠くなり、そのまま眠ってしまっていた。

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