第三十四話 智哉 序列決定戦 その一
俺は聖騎士としての仕事に従事し、充実した毎日を過ごしていた。
そして、このルワース聖国と周辺国の事も色々勉強した。
俺が居るルワース聖国だが、ルワース聖教会が国の統治も行っている。
名目上は聖女が頂点となっているが、聖女に政治を行う権限はない。
誰が行っているかというと、六人の神官長に連なる組織が統治している。
六つの組織は色によって分けられており、聖女と教会の管理をしているのが白。
予算の管理をしているのが緑。
街や村を管理しているのが紫。
俺が所属している騎士団の管理をしているのは青。
軍を管理しているのが赤。
異端審問の管理をしているのが黒。
神官達は、所属している色の服を着ているので判断しやすくて非常に助かる。
今の所、俺が直接神官とやり取りする事は無いが、聖翼騎士になれれば関わり合いになる可能性は高い。
セルムの目的を達成するためには、神官の事も知っておく必要があるが、今の地位では得られる情報は少ない。
今後、少しずつ調べて行く必要がある。
次に周辺国についてだが、ルワース聖国は全ての国と領土が繋がっており、経済的にも豊かで便利な反面、敵も多い。
一番の敵国は、亜人の国ヴィルムーム国。
これは、ルワース聖国が亜人を穢れた存在だとして、国内で亜人を見つけては殺害したり、奴隷にして強制労働させたりしている。
セルムの話によると、軍や異端審問がヴィルムーム国に潜入し、亜人を奴隷にする為に捕まえていると言う噂もあるそうだ。
ここ数十年、ヴィルムーム国と軍事的な衝突は無かった様だが、何時戦争が起きても不思議ではない状況が続いている。
ヴィルムーム国と友好国のロンランス王国も、ルワース聖国の敵国とされている。
過去にルワース聖国がヴィルムーム国に侵攻した際に、ロンランス王国はヴィルムーム国に協力してルワース聖国と戦っている。
それと、ロンランス王国は亜人を受け入れ共存しているので、ヴィルムーム国と同じく敵国とされている。
ロンランス王国は女王が統治する国で、女王と言えばクラスメイトの藤崎 優華が、俺と同じように女王の体に憑依しているはず。
ロンランス王国と戦争になった所で、聖騎士の俺が直接戦う様な事にはならないと思うが、出来れば戦争という事態にならない事を願いたい。
ルピオン帝国とは、両国とも人類の敵、魔王と魔族が住むガルガロンド魔王国に隣接している為、敵対はしていない。
しかし、両国とも隙さえあれば、領土を奪い取ろうと考えている。
過去に、ルワース聖国とルピオン帝国が協力し、ガルガロンド魔王国に侵攻して魔王を倒した際に、ルワース聖国がルピオン帝国を出し抜き、魔王討伐に成功している。
その事に激怒したルピオン帝国は、そのままルワース聖国に侵攻しようと試みたが、魔王を倒されたガルガロンド魔王国の反撃に合い、それは実現しなかった。
今も、ルピオン帝国はその事を根に持っており、油断できない状況が続いている。
ガルガロンド魔王国だが、ルワース聖国で魔王や魔族は凶暴で残忍、常に人々に害をなす存在だと言われている。
しかし、セルムから話を聞き、俺が調べた限りでは、ガルガロンド魔王国からルワース聖国やルピオン帝国に侵攻した歴史は見つからなかった。
いや、あるにはあった。
でもそれは、こちら側から侵攻し、その反撃として多くの人命が失われたのだと推察する。
その理由としてあげられるのが、五百年前に魔王が倒され、その百年後に魔王が復活してから今日まで、ガルガロンド魔王国が報復として攻め込んで来た事が一度も無いからだ。
魔王や魔族は、領土が脅かされない限り争わないのでは無いのかと思う。
ルワース聖国は、魔王討伐を目論んでいる様子だが、セルムの事を考えればそれは阻止したい。
セルムは聖女としての使命を邪魔するつもりはなく、あくまで傍で守りたいだけの様だが、それは本音ではないだろう。
俺が思うに、聖女の使命を果たして聖女が亡くなれば、セルムは聖女の後を追ってしまうに違いない。
そのくらい強い想いを、セルムから感じ取れた。
セルムを助ける為にいち早く聖翼騎士になり、聖女を何としても守らなくてはならないと覚悟を決めた。
俺がセルムの体に憑依してから一ヶ月が経過した。
そして今日は、序列決定戦が行われる。
この一ヶ月、俺が戦いやすい様に、セルムの体を改良して来た。
勿論、セルムの了解は取ってあるし、セルムも戦いやすくなったと喜んでいた。
序列決定戦は聖翼騎士を除いた百八十名で行われ、百八十名を六つのグループに分けてトーナメントを行い、勝ち上がった六名で総当たり戦を行い、上位二名を決める。
トーナメントの試合時間は約十分と短い。
十分で決着がつかなければ、審判をしている聖翼騎士が勝者を決める。
セルムの話では、これが特に問題という事だった。
聖翼騎士は公正な判断を下すのでは無く、自分達に都合の悪い相手、つまり自分達の地位を脅かすような強者はその場で落とされる。
勝ち上がるためには、何としても十分以内に勝敗を決めなくてはならない。
お互いに目指す所は同じで、当然戦いは激しいものになる。
大怪我をしたとしても、時間はかかるが魔法で治療出来るのが、戦闘を激化させる原因だともいえる。
そして、序列決定戦で命を落とす者もいる。
命を落としてしまえば生き返る魔法は無い。
俺がここで命を落とせば、セルムを俺が殺した事になる。
そして俺も、セルムが花子先生と交わした契約を反故にしたとして、日本に帰れる事無く死んでしまう。
父親の敷いたレールから逃げ出した俺に、日本での未練があるかは正直分からないが、まだ死にたくは無いので全力で頑張るしかない。
グループ分けも終わり、序列決定戦が始まった。
俺の一番最初の相手は序列二十五位で、訓練で戦った事が無い相手だ。
俺の序列が百八十七位、相手との力量は明らかだ。
相手も俺が下位だから舐めているのか、余裕の表情を見せている。
厳しい相手だが、この試合は引き分ければ審判が俺の勝利を宣言してくれる可能性が高い。
いいや、そんな甘えは無くして行かなくては、この先勝ち上がって行く事は出来ない。
気を引き締めて、勝負に挑む事にした。
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