第三十三話 智哉 聖騎士と魔法

 三十分ほど横になり、やっと動けるようになった。

 意外と早く回復はしたが、これが戦いの場で起これば敗北は必死。

 いや、戦いの場で無くとも何が起こるか分からないので、不用意に魔力切れを起こさないよう注意しなければならない。

 

 休んでいる間に、セルムから魔法についてあれこれ説明を受けた。

 魔法は全ての生物が使えるが、それぞれ得手不得手がある。

 魔法を使うのに呪文を必要としているのは人と亜人のみで、魔族や魔物は呪文を唱えず魔法の行使が出来る。

 聖女が倒しに行く予定の魔王や魔族が呪文を必要としない事は、魔法で戦うにはかなり不利だと言わざるを得ない。

 その対抗手段として用意されているのが、魔剣と魔道具となる。

 魔剣と魔道具は、あらかじめ魔力を注いでおけば、それに組み込まれている魔法を即座に発動できる優れ物だ。

 欠点としては、組み込まれている魔法しか使えない。

 でも、複数用意する事で、ある程度の戦闘には対応できると言う事だった。

 魔法の種類についてだが、一般的に使われている魔法は魔法書になっており、誰でも読んで使用することが出来る。

 しかし、呪文を唱えたからと言って、その魔法が使えるかは個人の技量による。

 セルムの場合、得意なのは土と風魔法で、苦手なのは火と水魔法。

 得意な土の上位魔法をセルム使うと、他の人より威力が増したりする。

 苦手な火の上位魔法をセルムが使うと、失敗するか威力が小さくなってしまう。

 訓練すればある程度苦手を克服できるみたいだが、それよりも得意な魔法を伸ばす方が良いとされていて、セルムもそうしている。

 魔法については、後で魔法書を読ませてもらい、色々研究したいと思う。


 動けるようになったが、魔力は回復していないので今日の魔法の訓練を終え、宿舎へと戻って来た。

 鎧を脱いで装備の手入れを行い、風呂に入って汗を流し、夕食を食べて一日の終わりとなった。

 翌日、昨日と同じことの繰り返しとなる。

 違っていたのは、剣の訓練で攻撃に転じた事だ。


『凄い…』

 俺が訓練相手を倒し続けていると、セルムが感嘆すると同時に自分にはできない事だと落ち込んでいた。

『俺はセルムの真似をしているだけで、これはセルムの実力だぞ』

『えっ、それは嘘でしょう。おれが勝てなかった相手ばかりなんだけれど…』

『嘘ではない。セルムの体を使っている以上、剣速や剣技は早々に変えることは出来ない。俺に出来る事は足捌きを変えたくらいだ』

『それだけで?』

『そうだ、足の動きを注意して見ていてくれ』

『分かりました』

 俺はセルムに見えるように、やや視線を下に向けながら、訓練相手に攻撃を仕掛けた。

 そして、セルムがやっていた足捌きも、同時に実践して見せた。

 当然隙が生まれ、肩に重い一撃を食らう事になってしまったが、鎧で受けたので大したダメージは無い。


『分かったか?』

『はい、何となくですが…』

『では、交代してやってみろ』

 セルムと交代し、次の対戦相手と戦わせてみた。

 少したどたどしい感じはあったが、セルムの攻撃は見事に相手を捕らえていた。

『トモヤ、出来ました!』

『よくやった。もう少し続けて見ろ』

 時間の許す限りセルムに戦わせ、その後は俺が変わって訓練を続けた。


『所で、聖翼騎士は誰だか分かるか?』

 聖翼騎士が、どのくらいの実力なのか一度手合わせして見たかったのでセルムに聞いて見た。

『えっと、少し離れた左手前で訓練をしている二人がそうです』

『あれか…』

 セルムに言われた場所を見てみると、遠めでも上等だと分かる鎧を着ている二人が、激しく戦っていた。

 なるほど…。

 今のセルムでは、到底太刀打ちできない実力者だと言うのが、二人の戦いを見ていて良く分かった。

 当然、俺の実力でも勝てない。

 剣での戦いにまだ不慣れな所は否めないし、体はセルムの物だ。

 聖翼騎士に勝つためには、セルムの体を鍛え直さなくてはならない。

 しかし、筋力は十分にあるので、体を柔らかくすることに集中した方がよさそうだ。

 聖翼騎士の戦いを十分観察してから、訓練へと戻った。


 セルムが聖翼騎士に成るのとは別に、俺は個人的に魔法の研究を行っていた。

 退屈な高校生活を抜け出してこの世界に来たのだ、俺も楽しまないといけない。

 魔法書に目を通し、分からない所はセルムに聞いたり、書庫へと足を運び、閲覧可能な魔法書を読み漁った。

 その結果、面白い事が分かった。


 魔法を、今の呪文を唱える形態にしたのは、魔女キャロリシア、つまり花子先生だった。

 それが今から七百年前の事で、それ以前は各個人で好きな呪文を唱えて魔法を使っていたそうだ。

 それを統一させたのが魔女キャロリシアで、当時は偉大なる魔女だと人々から賞賛されていた。

 その当時、手書きの魔法書の数が少なく、その魔法書を巡って争いが起きた。

 争いを鎮めるために魔女キャロリシアが自ら出向き、争っている国を滅ぼしたと言う記録が残っていた。

 俺はその当時の花子先生を知らないが、少なくとも俺のクラス担任をしている花子先生が、国を滅ぼすと言う短絡な行動に移るとは思えない。

 余程の事情があったのか、それとも、歴史が歪められて伝えられたかは分からない。

 日本に帰れば直接話を聞けるだろうから、その時に聞いて見る事にする。


 魔法だが、呪文の組み合わせで、様々な魔法が使える事が分かった。

 魔法書に書かれていない組み合わせでも、意味が通っていれば魔法は発動する。

 そして俺は、セルムの知らない魔法を幾つか編み出すことに成功していた。

 例えば、水を出す魔法の呪文に、火球を出す呪文を加えると温水になる。

 これは簡単で直ぐに出来たが、違う属性を混ぜた魔法は使用魔力が倍以上に跳ね上がり、あまり効率は良くない。

 だが、寒い時期に簡単に温水が作れるのは便利だと、セルムは喜んでくれた。

 他にも、色々考えで呪文を作り出したが、試せる場所が無くて困っている。

 危険だからと言う理由では無く、新しい呪文を他人に知られるのは問題だとセルムが言い、俺もその意見に賛同している。

 なので、自室で出来る簡単な魔法しか試せないのだ。

 使用可能かどうかは不明でも、呪文の組み合わせは楽しく、俺は様々な呪文を紙に書き出して行った。

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