第三十二話 智哉 聖騎士の仕事

 俺はセルムの体を借りて、聖騎士として仕事に従事する。

 聖騎士の仕事は主に二つ。

 一つ目は、ルワース聖教会の建物とルワース聖教会関係者の警護。

 二つ目は、訓練。

 この二つを、時間毎に交代で行っていく。

 先ず俺が受けた仕事は、ルワース聖教会正面玄関の警護だ。

 交代するまでの約二時間、鎧を着たままずっと立ちっぱなしだ。

 この炎天下の中、蒸れる鎧を着ている状態で立っているのは非常に辛い。

 この仕事は聖騎士の中で下っ端が担うもので、序列が上がって行けば楽な仕事に変わっていくそうだ。

 ちなみに、セルムの序列は二百名いる聖騎士の中で百八十七位。

 セルムが聖翼騎士の二十名の中に入るのは、現状では絶望的だ。

 三か月毎にある序列決定戦において、上位の成績を上げれば序列は上がって行く。

 上位の成績を上げたからと言って、いきなり聖翼騎士に成れるわけではない。

 上位者二名と、聖翼騎士序列最下位の二名、つまり序列十九位と二十位と入れ替わり戦を行い、勝てば晴れて聖翼騎士と成る。

 俺は様々な武道を習っていて、そこそこ自信はあったが、魔法があるこの世界で通用するとは思ってもいない。

 だから、魔法を使った戦いに慣れる所から始めなくてはならない。


 警護の仕事が終わると、休む間もなく訓練場に移動して訓練を開始する。

 先ずはセルムと交代し、お手本として何時もやっている訓練を実践して貰う事にした。

 セルムは体を温めるために、軽く素振りをしていく。

 ある程度温まった所で、空いている者と実戦さながらの訓練を行っていく。

 剣は刃の付いた物を使用している。

 鎧を着て、頭にも兜を被っているとはいえ、一つ間違えれば命を落としかねない。

 そんな訓練を対戦相手を変えながら、次々と行っていた。


「はぁはぁはぁ…」

 十人と対戦した所で、やっと休憩となった。

 セルムは肩で大きく息をしているが、倒れこむほど疲弊している訳では無い。

 相当鍛えているのは分かるが、剣の腕前は基本を押さえている程度と言った所だ。


『セルム、今ので大体分かった。交代しよう』

『はい、お願いします』

 セルムと交代し、俺が体の主導権を得た。

 俺は初めて持つ剣の感触をつかむために、軽く素振りをしてみる。

 セルムの剣は両手剣と言われる物で、諸刃の剣だ。

 刀とは違い、斬り返すのが楽だという利点はあるが、注意しなければ自分を傷つけてしまう。

 木刀は使っていたが、刃の付いた剣を扱うのは初めての事だ。

 怪我をしないように注意を払って、剣を振るわなくてはならないだろう。


 俺は相手を見つけ、訓練を始めた。

 慣れるために、先ずは相手の攻撃を受け流すところから始める事にした。

 戦い方はセルムのを体験していたので、何となく理解している。

 実際に体を動かしても、違和感はそこまで無い。

 攻撃を受け続け、相手が疲れた所で次の相手と交代となった。

 そして、次々と相手を替えながら、俺はひたすら攻撃を受け続けて行った。

 相手も、俺が反撃しない事で調子に乗り、次々と攻撃してくれる。

 その様子を見て、セルムが驚愕していた。


『凄いです!かなり強い相手もいたのに、全て受け流すとは驚きました!』

『今のはセルムの動きをまねた。防御に徹していれば、セルムも同じことが出来るはずだ』

『そうなんですか?』

『そうだ、セルムの悪い所は攻撃の際に隙が大きい所だ』

『あぁ~、よく言われます…』

『だから、攻撃をしなければ、この位の事は出来る』

『なるほど…』

 俺が攻撃しなかった理由は、慣れていない両手剣で攻撃をして、相手を傷つけてしまわないかと思ったからだ。

 だから今日は、両手剣に慣れるためにずっと防御に徹した。

 だが、もう慣れて来たし、セルムの為にも少しだけ攻撃して見る事にした。


「ま、参った…」

 三撃目で、やっと相手の隙を突いて急所に寸止めすることが出来た。

 まだ、両手剣に慣れていないなと反省する。

 しかし、セルムは大喜びしていた。


『あの人、序列百五十二位です!訓練とは言え勝ってしまうとは流石です!』

『そうでもない。まだまだ剣に慣れてない所があるから、訓練を続けなくてはいけない。

 それに、目指す所は序列二十位だろう。この程度に勝ったくらいで喜んではいられない』

『それはそうですが…』

 セルムには厳しく言ってしまったが、俺も内心喜んでいた。

 それは、戦いに勝ったからではなく、この世界に来た事に対してだ。

 友達もいない高校生活は退屈な毎日だったが、ここは退屈とは無縁になりそうだ。

 その事を喜び、時間の許す限り訓練を続けて行った。


 午後はまた正面玄関の警護になり、それが終わればまた訓練だ。

 しかし、午後は剣の訓練では無く、魔法の訓練となる。


『セルム、魔法の訓練と言う事だが、剣の訓練の時に使わなかったのはどうしてだ?』

 俺は疑問に思った事を、セルムに尋ねた。

『人に向けて魔法を撃つのは危険ですし、剣を振りながら呪文を唱えるのは困難です』

『危険なのは理解したが、剣を振りながら魔法を使う訓練も必要なのではないか?』

『それはそうなのですが、実戦では呪文を唱える必要が無い魔剣を使用します』

『なるほど、理解した』

 魔剣とは、事前に魔力を込めていれば魔法を発動してくれる剣だと言う事だった。

 その様な便利な物があるのであれば、無理に剣を振りながら呪文を唱える必要はない。

 俺は、魔法の訓練を始める事にした。

 セルムに教えられた呪文を唱えると、呪文に則した魔法が的めがけて飛んで行く。

 魔法は楽しくて素晴らしい!

 俺はセルムから様々な呪文を教えて貰いながら、魔法を使い続けて行った…。


『体が急速に重くなった…』

『だから言ったじゃないですか、魔法の使い過ぎで魔力が無くなってしまったんです』

『そうか…すまない』

 俺は調子に乗りすぎたみたいで、体内にある魔力を殆ど使い果たしたらしい…。

 力が入らずその場で座り込むと、近くにいた者達に助けられ、屋根のある所で横にしてもらった。

 暫く横になっていれば、魔力が回復して動けるようになるらしい。

 俺は反省しつつ、魔法についてセルムから話を聞いていく事にした。

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