第三十五話 智哉 序列決定戦 その二
勝負の時間は、審判の聖翼騎士が持っている時計の様な魔道具で計測されていて、実際に戦っている両者には終了の時間は分からない。
だから、聖翼騎士の気分次第で試合が早く終わったりする事もある。
セルムの話によると、開始から五分間までは時間切れにする事は無いらしい。
なので、五分以内に勝利する事を目指す。
序列二十五位の相手との試合が始まり、俺は余裕を見せて油断をしている相手に対して先制攻撃を仕掛けた。
相手に息もつかせぬ連撃を放ち、一分以内で勝利を勝ち取った!
「ふぅ~」
俺は勝利した事に安堵し、大きく息を吐きだした。
試合時間は十分だが、聖翼騎士が五分を過ぎれば時間切れで試合を止める理由は分かる。
体を鍛えているとは言え、鎧を着た状態で訓練とは違う真剣勝負を十分間も続けられるはずもない。
短時間で試合を終えたとはいえ、俺は肩で大きく息をし、体中から汗が噴き出して来ている。
聖翼騎士は、悪意があって試合を短時間で止めているのでは無いのだろう。
とにかく、一勝する事が出来た。
『トモヤ、序列二十五位の人に勝つなんて凄いです!』
『何度も言っているが、セルムも同じ事が出来る。俺がいなくなっても同じ様に戦える為に、俺から技術を盗んでくれ』
『はい!』
トーナメントは始まったばかりだ。
次の試合に向け、水分と塩分を補給し、少しでも体を休めた。
そして二戦目は序列六十三位の相手で、俺と考える事は同じで、短期決戦で勝負を決めに来ている。
だが、それはこちらの思うつぼだ。
俺はただ防御に専念しているだけで、相手が疲弊して行ってくれる。
相手が疲れ切った時に反撃をすれば、簡単に勝利を収める事が出来る。
敗北した相手は、涙を流して悔しそうに地面を叩きつけていた。
聖騎士達は全員、聖翼騎士に成る為に日々努力を続けている。
負けて悔しい気持ちは分かるが、俺も負けられない。
相手の事は考えず、ただひたすら勝つ事に集中した。
俺はトーナメントを勝ち抜き、勝ち残った六人での総当たり戦へと進んだ。
総当たり戦は勝利すると二点、引き分けだと一点、敗北すると零点となり、より多くの点数が取れた上位二名が聖翼騎士と戦う権利を得る。
同点の場合は、その者達で再び戦い、二名に絞る事になる。
俺は当然全勝を目指す。
トーナメントを勝ち抜いて来た猛者たちばかりなので、簡単にはいかないだろうが、ここで負ける様なら聖翼騎士に成れるはずもない。
俺を含めた六人全員が、かなり疲弊をしている。
だが、全員闘志をむき出しにして、戦う前から相手を威嚇していた。
俺は戦いに置いて冷静な判断が出来る様に、気持を落ち着かせていた。
そして、総当たり戦が始まった。
俺は苦戦しつつも全勝し、聖翼騎士の挑戦権を得た。
『トモヤ、次はいよいよ聖翼騎士との戦いです!ここまで来たのですから、絶対に勝って下さい!』
『そうだな…』
俺としても、ここまで勝ち上がって来たので、聖翼騎士に勝利したい。
しかし、本当にこれで良いのかとも思う。
聖翼騎士の訓練を観察し、この一ヶ月は聖翼騎士に勝つために努力して来た。
だが、俺が勝って聖翼騎士に成った所で、セルムの為にはならないのかも知れない。
それに、努力してきたとはいえ、たった一ヶ月でセルムの体に劇的な変化が表れて急激に強くなった訳でもない。
聖翼騎士と聖騎士の力量の差は、かなり離れている。
大人と子供と迄は言わないが、それに近い感じがする。
つまり、セルムの体を使った俺では、勝つ事は難しい。
そこで、一つ作戦を考えて来た。
上手く行けば、聖翼騎士に勝利する事が出来るだろう。
俺はセルムに作戦内容を伝えた。
『えっ、おれが戦うんですか?』
『そうだ、セルムが戦い、俺が中から指示を出す。そうする事で、どの様な攻撃にも対応可能だ』
『でも、おれには自信が…』
『大丈夫、セルムの防御は完璧だ。自分を信じ、俺を信じれば必ず勝てる!』
『…分かりました。出来るだけ頑張って見ます!』
セルムは悩んでいたが、最後はしっかりと戦う意思を示してくれた。
セルムとは、訓練の時にも何度か同じ様な事をやって来たし、実力を発揮できれば聖翼騎士に勝利できるはずだ。
「俺は聖翼騎士序列二十位ズワルマーだ。死んでも恨むなよ」
「恨みません。おれは序列百八十七位セルムです。その席を譲って貰います!」
試合前の挨拶が終わると同時に、試合が開始された。
『セルム、無理をせず防御に集中しろ!』
『はい!』
ズワルマーの攻撃は、聖騎士のものと比べて早くて重い。
防御が得意なセルムも、攻撃を受け流して衝撃を緩和させる事が難しい。
だが、こちらの被害は最小限に抑えられている。
『いいぞ!無理に受け流そうとせず、そのまま受け続けろ』
セルムは俺の指示に素直に従ってくれている。
少しでも無理をすれば、こちらに隙が生まれる。
ズワルマーはその隙を見逃さないだろう。
「やるな!そろそろ本気を出させて貰うぜ!」
ズワルマーが本気を出すと言った言葉に嘘は無く、一段階攻撃の速度と威力が上がっていた。
『トモヤ、かなり辛い状況ですが、まだ受け続けるのですか?』
『そうだ。攻撃に転じれば隙が生まれ、あっという間に敗北するのはセルムも分かるだろう?』
『はい…ですけど、このままでは勝てません!』
『焦る気持ちは分かるが、今は我慢だ!』
セルムに防御を続けさせ、俺は攻略の糸口を探る。
ズワルマーの攻撃には二つ癖がある。
それが罠なのか、判断に迷う。
罠であれば、痛い反撃を貰い敗北するが、罠で無ければ勝利につながる。
セルムの体力が尽きる前に、賭けに出るほかないだろう。
『セルム、ズワルマーに気付かれない様に、ズワルマーの右足を見ろ。
連撃が終わる直前に、ズワルマーは右足を僅かに引く。
そのタイミングで、一歩前に踏み出し、突きを入れろ!』
『分かった、やって見ます!』
上手く行くかは賭けだが、セルムは俺の指示通り、ズワルマーが右足を僅かに引いた時点で踏み込み突きを放った!
セルムの突きが、ズワルマーの喉元に襲い掛かるが、ズワルマーは紙一重でセルムの突きを躱した!
「狙いは良かったぜ!」
やはり罠だったか!
ズワルマーは、伸び切ったセルムの腕を狙っている!
『セルム、体当たりしろ!』
『はい!』
ズワルマーの剣が振り下ろされる前に、セルムの体当たりをし、ズワルマーともつれ合うように倒れ込んだ。
「そこまで!」
セルムの突き出していた剣が、倒れ込んだ衝撃でズワルマーの首に傷をつけ、そこから大量の血液が噴き出していた。
審判の聖翼騎士が駆け寄り、ズワルマーの治療を行った事で命はとりとめた。
首を傷つけたのは単なる偶然だが、倒れた後はこちらが有利だったので、勝っていたに違いない。
『セルム、やったな!』
『はい、トモヤ、やりました!』
セルムはズワルマーに勝利し、見事に聖翼騎士に成る事が出来た。
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