第二十九話 睦月 ビッチの意地悪
ジスレーヌの自室に戻ると、三人が待ち構えていたわ。
三人は白衣神官長に怒られたのか、不機嫌なのを隠さず、ぶすっとしていたわ。
ざまぁ!
ちょっと笑いそうになったけれど、ここで笑うと三人は怒り狂うだろうから、平静を保ちながら三人の前に進んで行ったわ。
「皆様、私のお世話は金輪際やらなくて結構です。
ですが、皆様は仕事をしないと怒られる事になるでしょう。
皆様がお嫌でなければ私の側にいて、お世話をしている
「なっ!」
三人は私の言葉を聞いて、表情が怒りに変わって行っていたわ。
聖女として、上から物を言ったのだから当然よね。
さて、また私に文句を言って、部屋から出て行くのかしらね?
何を言って来るのか、ちょっとだけ楽しみよね。
「それはこちらとしてもありがたい事です!えぇ、出来るのなら、一人で何でもやってください!」
「そうね!貴方が何も出来ずに困る姿が今から楽しみよね!」
「恥をかくと良いと思います!」
三人はそう言って、私のベッドに腰かけたわ。
『大丈夫なのでしょうか?』
ジスレーヌが心配して声を掛けて来たわ。
優しいジスレーヌは、両方の心配をしているのでしょうね。
でも、私はあえて三人の事を無視して返事をしたわ。
『大丈夫よ。これでも家事は得意だし、身の回りの事は何でもできるわよ。初めて着た服も、きちんと着れていたでしょう?
それと、ジスレーヌも一人で出来るのよね?』
『はい、できますけれど…』
『それなら問題無いわね!』
『はい…』
嫌がらせをしてきた三人がどうなろうと、私の知った事では無いわ。
反省して謝って来るなら考えてあげなくも無いけれど、それまでは無視して行こうと思うわ。
さて、私の朝食は三人が運んで来たのか、ワゴンに用意されていたわ。
ワゴンから朝食をテーブルの上に運んで、頂く事にしたわ。
「私達がこの糧を頂けるのは、天より守りし女神クーリス様の御威光の賜物。女神クーリス様に感謝の祈りを捧げ、この糧を頂きます」
祈りの言葉を捧げ、朝食を頂く事にしたわ。
手の平に収まるくらいのパンに、温かだったと思われる冷めたスープ…。
後はドレッシングも何もかかっていないサラダに、牛乳らしき飲み物だけの質素な朝食だったわ…。
はっきり言ってまずいわ!
それと、三人に見張られながら無言の朝食は、更にまずさを増していると思うのよ。
ジスレーヌは、この朝食を毎日食べていたのかと思うと、可愛そうになって来るわね。
でもそれは、私が美味しい朝食を毎日食べていたからでしょうけれどね。
私は義父から弟と妹の養育費としてお金を貰っているけれど、三人で何とか生活していけるほどしか貰ってないわ。
だから、贅沢な食生活では無かったけれど、この朝食より美味しいのは間違いないわね。
なにせ、私が毎日弟と妹のために美味しい食事を作っているのですからね。
こんなまずい朝食を食べさせられるのであれば、私が自ら用意したいくらいだわ。
聖女と言う立場上、それは許されないのでしょうけれどね。
食器をワゴンに戻し、ワゴンを手で押して部屋から出て行こうとすると、エネットがベッドから慌てて立ち上がって来て、私からワゴンを奪い取ったわ。
「これは私達の仕事です!貴方もしかして、私達が仕事をしていないと周囲に見せつけたいのですか!」
「いいえ、そんな事は思っていません。ただ、自分の事は自分でやろうとしているだけです」
えぇ、当然そう思って行動に移したのだけれど、気付かれてしまって残念だわ。
他の二人も、慌ててエネットに着いて行ったわ。
ワゴンくらい一人で運んで行けるから、着いて行く必要は無いと思うのだけれど、少しでも仕事をしようと思ったのかもしれないわね。
邪魔者もいなくなった事だし、次の行動に移ろうと思うわ。
『ジスレーヌ、この後は何をすればいいのかしら?』
『そうですね。朝は比較的自由ですので、散歩したり、魔法の訓練をしたりしています』
『聖女でも魔法の訓練をするものなのね?』
『はい、魔族との戦いに備えなければなりませんので…』
『そう…だったわね…』
聖女は命がけで魔王を倒さないといけないのだったわ。
それを思い出し、二人共ちょっと暗い雰囲気になってしまったわ…。
だから、出来るだけ明るくなるように、元気よくお願いして見たわ。
『せっかくだし、私も魔法と言うのを使ってみたいわ!いいかしら?』
『はい、訓練場に向かいましょう』
ジスレーヌの声も少しだけ明るくなったし、今は嫌な事を忘れて、魔法を楽しんでみようと思ったわ。
少し動きやすい服…と言っても、ローブみたいな服からあまり変わって無いのだけれど、祈りを捧げる服を汚さない為にも着替えなくてはいけなかったのよね。
自室から出て廊下を歩いていると、三人が私を見つけて慌てて駆け寄って来たわ。
見つからないうちに行きたかったのだけれど、着替えに手間取ってしまったのが失敗だったわ。
「聖女様、どちらに行かれるのですか?」
「魔法の訓練に向かいます」
「では、私達もお供させて頂きます。
聖女様には私が付き添いますので、アメリーヌとロイーズは急いで準備をして来て下さい!」
「「分かりました!」」
出掛けるのに準備が必要だったみたいで、二人は急いでどこかに行ってしまったわ。
二人を待ってあげるか迷ったのだけれど、エネットは残っているし、そのまま行く事にしたわ。
「聖女様、おはようございます」
「おはようございます」
すれ違う人達と挨拶を交わしながら、建物から出て行ったわ。
外は朝だと言うのに、結構暑いわね。
季節は夏と言った所なのかしら?
午後に、外出する用事がない事を願いたいわね…。
私が居た建物から、屋根が付いた石畳の道を歩いて行っているのだけれど、見えるのは建物ばかりで、一向に訓練場らしきき場所に辿り着かないわ…。
ちょっと失敗したかなと思いつつも、アメリーヌとロイーズも追い付いて来たし、途中で行くのを止めるとは言えないわね…。
ジスレーヌと話して気を紛らわす事にしたわ。
『ジスレーヌは、魔法で空を飛んだりできないのかしら?』
『私は飛べません。飛んで行ければ楽なのですけれど、街中は飛行禁止になっていますし、仮に私が飛べたとしても危険だと言われて飛ばしては貰えないと思います』
『そうかも知れないわね』
今もお世話役の三人が付いているのに、空を飛んだりしたら護衛が複数人ついてしまいそうだわ。
そんな窮屈な状況にはなりたくないわね。
この後も、ジスレーヌから魔法の話を聞きながら歩き続けたわ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます