第二十八話 睦月 ビッチの祈り
自分ひとりで身支度を整え、飾り気の少ない純白の衣装に身を包んだジスレーヌの姿を鏡で確認したわ。
こういうのを修道服と言うのかしら?
ジスレーヌは、金髪の髪がキラキラと光っていて美しいし、透き通るような白い肌に少し幼さが残っていて可愛らしいわね。
でも、その姿は清楚な感じがして、私の心も清らかにされていく様な感じがしたわ…。
『問題無いわよね?』
『はい、大丈夫です』
ジスレーヌに確認をして貰い、問題が無いと言う事なので仕事に向かう事にしたわ。
その前に、ジスレーヌの部屋を見渡してみたわ。
家具類は白で統一されていて、とても清潔な感じがするわね。
これと言って豪華な装飾品は無く、贅沢な生活を送っている訳ではなさそうね。
さてと、私はジスレーヌの部屋から出て、見慣れぬ廊下を一人で歩いているわ。
廊下の柱には彫刻が施されていて、壁には絵画なんかが飾られてあるわ。
絵画は歴代の聖女が
どうして悲しいのか、この時聞く事は出来なかったわ…。
歴代の聖女の絵に見守られながら廊下を歩いて行き、
『ここは礼拝堂です。女神クーリスに朝の祈りを捧げなくてはなりません』
『そう…』
私には信仰心の欠片も無いのだけれど、ジスレーヌの代わりとして祈りを捧げなくてはならないわね。
気を引き締めて礼拝堂の扉を開け、中に入って行ったわ。
礼拝堂の一番奥には天使の翼が生え、両手を胸の前で組んでいる女神像が、何かを訴える様な目で見下ろしていたわ。
私は女神像の前まで行き、ジスレーヌに言われた通り両ひざを突いて両手を胸の前で組み、目を瞑って祈る仕草をしたわ。
私は聖女では無いし、女神像に何を祈ればいいかなんて分からないわ。
それに、ビッチの私が祈った所で効果は無いでしょうからね。
仕草をしているだけでは時間が勿体ないので、ジスレーヌと話をする事にしたわ。
『ジスレーヌは、普段何を祈っているのかしら?』
『その時々ですけれど、大抵はルワース聖国に住む人々の安寧を女神クーリスに願っています』
『そう、聖女は人々を守る存在だったわね?』
『はい、聖女は聖痕を通して女神クーリスの力をその身に宿し、その力を使って魔族から人々を守るのです』
『それは…私もやらないといけないのかしら?』
『いいえ、その様な事態になった場合は、私が代わって実行します』
『そう、お願するわ』
聖女の力の使い方なんてわからないし、教えられても使いたいとは思わないわね。
女神クーリスも、信仰心の欠片も無い私に力を貸してはくれないでしょうしね。
と、一安心したのだけれど、ジスレーヌが辛そうに重大な事を言って来たわ。
『ムツキ、女神クーリスの力は強力で、五百年前の聖女エルミヌク・ルワース様はその力を使い、魔王を倒したと伝えられています。
ですが、その力の代償として、聖女は…命を落としてしまいます…』
『えっ!?それって…』
私は言葉を無くしてしまったわ。
だって、ジスレーヌは聖女を辞めたくて花先生と契約したのよ!
死んでしまったら、意味が無いわよ!
それに、ジスレーヌが死ねば、私が死ぬ可能性もあるわ…。
弟と妹が私の帰りを待っているのだから、こんな所で死ぬ訳にはいかないわ!
これは一刻も早く私が聖女としての仕事をやり終えたと花先生に認めて貰い、花先生の力でジスレーヌを聖女の地位から解放して貰わなくてはならないわね。
私は祈りのポーズをしているのだし、この際誰でも構わないからと、ジスレーヌが無事に聖女を辞められるようにと願ったわ。
どれくらいの時間祈りのポーズをしていたは分からないけれど、少なくとも膝が痛くなるくらいの時間は過ぎているわ。
私は痛みをこらえながら、ゆっくりと立ち上がったわ。
『お勤めご苦労様です』
『えぇ、疲れたわ…。この後はどうするのかしら?』
『朝食を頂きに行きます』
『そう…』
異世界の食事に興味があったけれど、ジスレーヌと私が死ぬ可能性があると教えられて、あまり食欲は無かったわ。
でも、食べておかないと体が持たないかも知れないわね。
そう思って振り向くと、ジスレーヌと同じ純白のローブみたいな服を着た男性が、少し離れた所に立っていたわ。
ジスレーヌと話をしていて、誰かが近づいて来ていた事に気が付かなかったわね…。
その男性は、私の祈りが終わるのを待っていたのか、ゆっくりと近づいて来たわ。
『あの方は白衣神官長のセレスラン様です』
『そう、あの人が…』
ジスレーヌから聖女の上司に当たる人として教えられていたのだけれど、見るのは初めてね。
先程、私がお世話係の三人を追い出したから、その事で何か言われるのかもしれないわね。
悪いのは嫌がらせをしてきた三人なのだし、堂々としていればいいはずだわ。
私は微笑を浮かべ、白衣神官長に挨拶をしたわ。
「セレスラン神官長、おはようございます」
「聖女様、おはようございます」
白衣神官長は高身長で顔は細長く、年齢は四十歳位かしら?
ちょっと渋めなおじさんって感じだけれど、私を見下ろしている細い目は嫌らしいと言う感じはしないけれど、ちょっと不気味ね。
出来れば近寄りたくは無いのだけれど、聖女になっている以上それは出来ないのでしょうね…。
「聖女様、今日は珍しくお機嫌が優れないご様子」
「いいえ、いつもと変わりありません。女神クーリス様への祈りも滞りなく行えました」
「それはよろしゅうございました。
…ですが、周囲に気を配るのも聖女としての大切な責務です。
聖女の慈愛は、ルワース聖国に住む全ての者に降り注がなければなりません。
この事を肝に銘じて、聖女としての職務に励んでください」
「はい、心得ました」
白衣神官長は言いたい事を言って満足したのか、さっさと去って行ったわ。
あの三人は、素直に白衣神官長に抗議しに行ったのね。
でも、それは受け入れられなかったみたいで、私はまたあの三人にお世話されるかしら?
地味な嫌がらせを受けたくは無いから、三人が来たらしっかりと断らないといけないわね。
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