第二十七話 睦月 ビッチと聖女
私は
子供の頃から、自分の容姿が優れているのは自覚していたわ。
なぜなら、母がそうであり、私もまたその母によく似ていたから。
だから私は、この顔が大嫌いよ!
「水谷さん、好きです!僕と付き合って下さい!」
小学生の頃から、何度も告白され続けて来たわ。
男が嫌いだなんて事は無いのだけれど、自分の容姿目当てで告白されても断るしか無いわ。
そして中学生になった時、いい加減断るのが面倒になって、私は告白して来た相手に対して、付き合う条件を提示したわ。
「ひと月五千円で、付き合ってあげてもいいわ」
「えっ!?」
男の子はそう言われて困惑していたわね…。
中学生でひと月五千円を払えるはずもなく、男の子は諦めてくれたわ。
でも、告白してきた中に、五千円を支払ってくれる男の子が現れたわ。
当然私は条件を満たしてくれたのだから、その男の子と付き合う事にしたわよ。
「デートは一回に付き三千円よ。デートに掛かるお金は全て貴方が支払ってよね」
デートに誘われた時にそう返事をしたら、その男の子は怒って別れる事になったわ。
それ以降も、交際を求められればお金を要求して行ったわ。
だから私は陰で、ビッチとかバイタとか言われるようになったわ。
その事に対しては何も思わない…いいえ、当たっていると思うわ。
だって、私の母がそうなのだから。
私の母は、若い頃から複数の男性と付き合い、その中の一人との間に赤ちゃん、つまり私が産まれたそうよ。
母は私の養育費として、その人から大金をせしめたそうよ。
だけど、本当にその人が私の父なのかも怪しいのよね。
会った事も無いし、父の事はどうでもいいわ。
母は私が生まれた後も、複数の男性と付き合っていたらしいわ。
そして、私が小学校に入学した時、母は初めて結婚して二人の子供を産んだわ。
義父はゼネコン勤めで全国を飛び回っていて、たまにしか家に帰って来なかったわ。
だから母も、義父と結婚したのでしょう。
母は相変わらず義父の不在を利用して、他の男と遊び回っていたわ。
義父は優しい人で、連れ子の私にも愛情を注いでくれたわ。
だけど、その優しい義父も母に愛想を尽かし、私が中学に入学する直前に離婚したわ。
私としては、義父はよく我慢していたと思うわ。
二人の子供は義父が親権を主張したのだけれど、母が譲らなかったわ。
お金目当てなだけで、子供に愛情なんて無いくせにね…。
義父もそれは理解していて、養育費の振り込み先として、私名義にした通帳を渡してくれたわ。
私は母が用意したボロアパートに弟と妹の三人で暮らす事になり、母は殆どアパートに帰って来なくなったわ。
私としては、そんな母が居なくなって清々したのだけれど、小学校に入学する弟と幼稚園に通う妹は寂しそうにしていて可哀そうだったわ。
義父からお金を貰っているし、弟と妹の面倒は私が責任をもって面倒見る事にしたわ。
そんなビッチな母と同じように、付き合う男の子からお金を取っている私もビッチなのよ…。
そんな私が、今は花先生…いいえ、魔女キャロリシアだったかしら?
まぁ、どちらでもいいわね…。
花先生の魔法によって異世界に連れて来られて、聖女の体に入ってしまっているわ。
ビッチが聖女って、花先生も冗談きついと思うわ…。
『初めまして、聖女ジスレーヌ・ルワースです』
この体の持ち主の聖女が、透き通るような美しい声で私に挨拶して来たわ。
たしか、頭の中で声を掛ければいいんだったわよね。
『初めまして、私は水谷 睦月よ。私が元の世界に戻れるまで、よろしくお願いするわ』
『はい、よろしくお願いします』
私が元の世界に戻るには、ジスレーヌの代わりにしっかりと聖女の役目を努めないといけないわ。
私に聖女が務まるのかは置いておくとして、私が帰れなければ弟と妹が生活できなくなってしまうわ。
だから、一日でも早く帰れる様に努力しなくてはね。
取り合えず、聖女としての役目をジスレーヌから聞き出す事にしたわ。
『このような感じです』
『出来るだけ頑張ってみるわ!』
そして、私の聖女としての生活が始まったわ。
「「「聖女様、おはようございます」」」
「おはようございます」
朝、聖女のお世話係の三人、エネット、アメリーヌ、ロイーズが部屋に入って来て、私の体を清めてくれたり、着替えさせたりしてくれたわ。
正直、女子とは言え、他人に体を触られるのには抵抗があったのだけれど、これも聖女としての務めだと思い、されるがままになっていたわ。
しかし、ワザとかしら?
髪を
『三人共聖女候補でしたので…』
『そう、ジスレーヌを
『はい…』
私も容姿が優れているので、女子から妬まれたり嫌がらせを受けたりもしたわ。
だけど、毎日やられるのはむかつくし、対処方法はクラスメイトの藤崎が教えてくれたわ。
ジスレーヌの為にも、止めさせないといけないわ。
「貴方達、地味な嫌がらせは止めてください。言いたい事があるのなら、はっきりと私に言って下さい」
語気を強めず、でもはっきりとした口調で、彼女達に正面から言ってやったわ。
三人は驚いていたけれど、すぐに怒りに燃えた表情をして言い返して来たわ。
「だったら言わせて貰います!私より劣っているくせに、何で貴方が聖女に選ばれたのか納得していません!」
「そうよ!私の方が可愛いし家柄も高いわ!農家生まれの貴方が聖女に選ばれた事自体、何かの間違いなのよ!」
「私もそう思います!」
三人共、聖女になりたいと言う気持ちが良く伝わって来たわ。
でも、選ばれたのはジスレーヌなのよ。
今から変更できるのかどうかは知らないけれど、そう簡単には代われないはずよね。
「納得しようとしまいと、間違いであろうとなかろうと、私が聖女なのは間違いありません。
ご自身が聖女に相応しいと思うのであれば、
「えぇ、そうさせて貰います!」
「私が聖女に相応しいと訴えて来るわ!」
「失礼します!」
三人は私のお世話を放り出して、部屋から出て行ったわ。
『やり過ぎなのでは無いでしょうか?』
『これくらい言ってやらないと、毎日嫌がらせを続けられるわ。私はそんなの嫌よ!』
『お気持ちは分かりますが、三人も悪い人では無いのです…』
『でも、これで聖女が代わる事になれば、ジスレーヌの望みどうりよね?』
『そうですけれど…』
ジスレーヌが花先生と交わした契約は、ジスレーヌを聖女から解放する事だったわ。
これがうまく行けば、ジスレーヌの望み通り聖女の地位から離れる事が出来るし、私も元の世界に帰る事が出来るわ。
まぁ、そんな簡単に行くとは思っていないのだけれどね…。
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