第二十六話 祐樹 苦難

「ミヤシタ様、五日間の遅れを取り戻すために、今日から毎日戦って貰います!」

「は…はい…」

 僕はエリニアと戦った後、五日間も気を失っていた…。

 目覚めた後、藤崎さんからの手紙(女子から初めてもらった手紙)には、あいつが僕を倒しに来ると言う内容が書かれていた。

 あいつは来るのは間違いない。

 逃げ出したいけれど、花先生の契約に縛られていて逃げ出す事は出来ない…。

 それと、魔王様からも逃げられない。

 魔王様は、僕が表に出ている時にでも体を自由に使う事が出来る。

 手紙を書いた後、僕が逃げ出そうとしても体の自由を奪われてしまい、逃げ出す事は出来なかった…。

 往生際が悪いと自分でも思うのだけれど、怖いものは怖いんだ。

 そして恐怖に打ち勝ち、魔王様の力を使いこなせるようになる為にも、毎日戦闘訓練を行う事となってしまった…。


「くくくっ、今日は俺が戦ってやるぜ!ぶっ殺してやるから死ぬ気でかかってこい!」

「よ…よろしく…お願いします…」

 今日は、悪魔キュバラスが相手をしてくれる事になってしまった。

 キュバラスの大きく裂けた口から赤く長い舌がぺろりと出て来て、舌なめずりをしながらニヤリと笑っていた…。

 僕はその仕草だけで恐怖に怯え、逃げ出したいと思うけれど、魔王様がそれを許してはくれない。

 そしてキュバラスとの戦いとは言えない、一方的ないじめが開始された…。


「ほらほらどうした?俺の攻撃は魔王様には殆ど効かないんだぜ!」

 エリニアと戦った時の様に、漆黒の盾を出して魔法を防ごうとしているのだけれど…。

 キュバラスの魔法は変幻自在で、漆黒の盾を迂回して僕の体に当たって来る。

 確かに、エリニアの魔法よりは痛みは少ない。

 だけど、痛いのには変わりが無いので、僕は体をすくめてしまい動きが止まってしまう。

 そこに容赦なく、キュバラスから追撃が入って来る。


『恐怖から逃げるでない。逃げれば死ぬのだぞ!』

「は、はい!」

 そうだ…耐えていればいずれ終わるいじめとは違い、攻撃を食らい続ければ死んでしまう!

 僕はエリニアとの戦いの後、五日間も意識を取り戻さなかった。

 魔王様が言うには、僕の魂も傷付き、危ない状況だったらしい。

 あのまま意識を取り戻せなかったら、そのまま僕の魂の傷も癒える事無く消えて…つまり死んでいた。

 魔王様の体だったから、どんな攻撃にも耐えるづけられる。

 だけど、その痛みを直接受ける僕の魂が耐えきれない…。

 キュバラスの攻撃が魔王様に効きにくいとしても、普通の人である僕には致命的な痛みを与えて来る。

 生きるために、僕は何としてもキュバラスの攻撃を躱さなければならない!

 僕は勇気を出してキュバラスを見る。

 キュバラスはニヤニヤと笑いながらも、遠慮なく魔法で攻撃し続けて来ている。


『キュバラスの魔法の軌道は一見すると不規則に見えるが、実はそうではない。よく見て軌道を読み取れば、簡単に防げるものだ』

「分かりました、やって見ます」

 魔王様に言われた通り、魔魔法をよく見てその軌道を追って行った。

 何発かは受けてしまったけれど、軌道を読む事は出来た。


「ここだ!」

 僕は漆黒の盾で、キュバラスの魔法を防ぐ事に成功した!

 歓喜したい所だけれど、喜べば相手が意地になる事は僕は知っている。

 表情を崩さず、次々とくる魔法を漆黒の盾で受け止め続けた。


「くくくっ、そろそろ本気を出すぜ!」

「えっ!うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 漆黒の盾で防ぐ?

 僕の周囲が漆黒の炎で埋め尽くされては、そんな事は出来る筈もない…。


『作り出していた盾を、自身の体を覆うように作り変えよ』

 体中が燃えていて、激しい痛みと息苦しさを感じる中、魔法様が守り方を教えてくれた。

 僕は痛みから逃げる為に、必死に魔王様に言われた通りになる様に頑張ってみた!

 すると漆黒の盾がどろどろと崩れ去り、僕の体を覆って行った。


『それが守りの基本、もう痛みは感じぬであろう?』

「は、はい!」

『それを維持しつつ、今度は攻撃に転じよ。やり方は守りと同じ、体内から絞り出した魔力を敵に撃ち出せばよい』

「や、やって見ます…」

 右手を突き出し、キュバラスに向けて魔法が飛んで行けと念じると、漆黒の塊が飛んで行った。

 飛んで行った漆黒の塊の速度は遅く、簡単に避けられてしまった…。

 でも、攻撃は出来た!

 内心で喜び、調子に乗って撃ち出して行ったのだけれど…。


『防御が疎かになっておる』

「はい…」

 攻撃をすると防御が疎かになってしまい、防御に専念すると攻撃が出来ない…。

 結局この日は、攻撃と防御を両立をする事が出来ずに終わった…。

 だけど、毎日いじめられ続けて逃げ続けてきた僕が、最後まで戦えたことは褒めた貰いたいと思う。


 次の日からも、日替わりで七魔天と戦い続けさせられた…。

 キュバラスが、魔王様と相性が悪いと言うのは良く分かった…。

 だって、他の七魔天と戦えば、僕は最後まで意識を保って戦う事が出来なかったから…。

 意識を失う…つまり死に近づいていると同義だから、僕は毎日死線を彷徨っている事になる。

 最近思う…最初に魔王様から追い出されて死んでいれば楽で良かったと…。

 …。

 駄目だ、やっぱり僕は生きていたい!

 ここまで頑張って来たんだから…。

 それに、少しずつだけど、攻撃と防御を同時に出来るようになってきている。

 まだまだ、魔王様の力の全てを使いこなす事は出来ないし、七魔天にも勝つ事は出来ないけれど、あいつが来るまでに強くなっていないと本当に殺されてしまう!

 だから、僕は死にかけながらも、必死に強くなろうと努力を続けて行く事にした。

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