第二十五話 祐樹 手紙
漆黒の盾を作り出せるようにはなったけれど、それでエリニアの攻撃を受け止められる技量が僕には無かった…。
高速で飛び回るエリニアは、全方位から攻撃を仕掛けて来る。
散々エリニアの攻撃を受け続けた僕はボロボロになり、地面に倒れこんでしまった…。
「エリニア、そこまでです」
「えー、まだまだやれるよね?」
リリアンテーラがエリニアを止めてくれなかったら、僕は本当に死んでいたと思う…。
魔王様の体は、エリニアの攻撃を受けても暫くすれば元通りになっていた。
だけど、痛みを受け続けた僕の心がもう限界…。
立ち上がる気力すら、なくなってしまっている。
だけど、今までいじめられ続けていた僕としては、防戦一方だったけれど、途中から逃げなかった事を褒めて貰いたいと思う…。
『今日はこの程度が限界であろう。ユウキ、ワレと交代せよ』
「はい…」
やっとこの苦痛から解放される…喜んで魔王様と交代した。
魔王様は、ふわりと浮かび上がって立ち上がった。
そんな事も出来るんだと思うと同時に、僕でも魔法らしきものを使えたのだから、浮き上がるくらいできて当然だとも思う。
僕が駄目なだけで、魔王様はとても強い事を実感した。
何故なら、魔王様が立ち上がると、七魔天の六人が魔王様の前に来て跪いたのだから…。
「魔王様、お体は大丈夫でございましょうか?」
「服は見ての通りだが、体に支障はない」
リリアンテーラが六人を代表して、魔王様の体を心配している。
僕がエリニアの攻撃を受け続けたおかげで、魔王様の高そうな衣装は穴だらけでボロボロだ。
だけど、魔王様の体は僕が攻撃を受け続けていた時もすぐに傷は治っていたし、大丈夫なのは間違いないと思う。
「それに、エリニアも手加減が上手くなっておったぞ」
「えへへ、そうだよね!結構苦労したんだよ!」
魔王様がエリニアを褒めると、エリニアは飛び回って喜んでいた。
手加減していたって、嘘…だよね…。
僕は何度も死にかけたと言うのに…。
後で聞いた話だけれど、七魔天の六人の中で魔王様が一番苦手とする相手は、光魔法が使えるエリニアだったそうです…。
僕はよりにもよって、一番相性の悪い相手を選んだんだとか…。
逆に、魔王様が一番戦いやすい相手が、同系統の魔法を使う悪魔のキュバラスだそうです。
それでも、僕が戦えば同じ結果になっていたんだと思う…。
「ユウキがワレの体を使う事を認めるか?」
「「「「「「仰せのままに」」」」」」
魔王様が問いかけると、六人とも認めてくれた。
これで僕は魔王様の体から追い出されず、死ぬことも無くなった。
ほっと一安心した途端疲れが押し寄せて来て、僕はそのまま意識を失ってしまった…。
『ここは…』
『ユウキ、目覚めたか』
『魔王様…』
そうだ…僕は魔王様の体を使ってエリニアと戦ったんだ…。
結果は手も足も出ずぼろ負けだったけれど、それでも、僕が初めて戦ったと言う事実を思い出し、少しだけ嬉しく思った。
だけど、また戦いたいとは思わない。
思わないけれど…魔王様の体に入っている以上は、生きるために戦わなくてはならないのだろう…。
そう思うと、嬉しい気持ちも一瞬で吹き飛んでしまった。
僕の気持ちとは関係なく、魔王様は書類に目を通していた。
書類に書かれている文字は、花先生のお陰で読むことが出来る。
魔王様が目にしている書類は手紙みたいで、差出人はロンランス王国と言う国の女王様。
どうやら、魔王様に助けを求めているみたいだ。
魔王様は手紙を読み終えると、僕に話しかけて来た。
『ユウキ、お前宛の手紙も来ておる』
『えっ!?どうして僕に手紙が?』
『交代してやるから、この手紙を読んで見よ』
『はい…分かりました』
この世界にいる僕に手紙を送る人なんて、花先生くらいしかいないと思いつつ、体の主導権を得て手紙を開いた。
手紙には、少し丸みを帯びた女の子が書くような文字が日本語で書かれていて、僕は手紙を読み進めて行った。
(宮下はカーディアナの世界に来て、元気でやってるかな?
うちは女王になってしまって、結構大変なんだよね。(-_-;)
まぁ、宮下も魔王になっているのだろうから、うちより大変なのかもしれないけれど、お互い王様になったんだし、協力し合って行かないかな?(・・?
宮下は、このまま行けば勇者の小松と戦う事になるでしょ。(・・)/~~~
一人で戦うのは大変だと思うんだよね。
うちがいるロンランス王国から、宮下がいるガルガロンド魔王国まではかなり遠いし、直接的な手助けは出来ないけれど、小松がいるルピオン帝国の邪魔をするくらいできると思う。(/・ω・)/
正直な話、まだ具体的にどんなことが出来るのかとは、うちもカーディアナに来たばかりでわかんないんだけどね。
小松は間違いなく宮下を倒しに行くだろうし、ここでガツンとやり返さないと男じゃないよ!(>_<)
うちも出来るだけ協力するし、日本に帰った後、小松から報復を受けるようなら、うちが助けてやってもいい。
どうかな?
花ちゃんがくれた機会を有効に活用して、小松をやっつけてしまおう!( ̄ー ̄)
追伸 小松を倒せば、宮下を好きになってくれる女子が出て来るかも知れないよ?(*‘ω‘ *)
藤崎 優華)
…。
藤崎さんからの手紙は、顔文字が入っていて女の子らしい可愛い手紙だったけれど、内容は僕に現実を知らせてくれる非情な物だった…。
あいつが僕を倒しに来るのは間違いない!
毎日いじめられ続けて来た事を思い出し、体が震えて来た…。
『ユウキ、ワレには読めぬから手紙の内容を教えぬか!』
「はい…」
僕はもう一度、声に出して手紙を読んだ。
『この記号は暗号かなにかか?』
「いいえ、顔文字と言って、表情を表したものです」
『なるほど、面白い!』
魔王様は顔文字に興味を示していたけれど、魔王様が書いた手紙に顔文字が付いていたら、威厳が失われそうだと思った。
『それで、ユウキはどのような返事をするのだ?』
「えっと…僕はこの世界の事を知りませんので、いきなり協力と言われても困ります…。
魔王様は、どう思っているのでしょうか?」
『そうだな、ルピオン帝国はワレのガルガロンド魔王国に侵攻しようと準備を進めておる。
準備が整い次第、勇者と共に攻め込んでくるのは間違いない。
だが、勇者がいようとも所詮人族、ワレらの敵ではない。
その事は、ロンランス王国の女王も知っておろう。
その上で協力を求めて来ると言う事は、ロンランス王国もルピオン帝国の脅威にさらされておると言う事だ。
ワレはどちらでもよい。
ユウキの判断に任せる、好きに返事を書くとよい』
魔王様はそう言って、僕に手紙の返事を書くようにと催促した。
僕はかなり考えて、迷った末に、協力すると言う内容の手紙を書いた…。
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