第十八話 翔 魔物との戦い その一

「代わりますね」

『おう、頼むぜ!』

 ディルクはあっさりと俺様に体を渡して来た。

 花ちゃんから、一日最低一時間は交代しろと言われているから、もう少しディルクが体を使うと思っていたが違ったみてーだ。

 別の所で代わる必要があり面倒だが、そうしないと日本に帰れなくなるから守らなくてはならねー。

 まー、この世界の方が面白くなったら日本に帰らないと言う手もあるが、今の所その気はねーな。

 魔法は確かに便利で楽しそうだが、それ以外の娯楽がなさそーだ。

 それに、いちいちディルクと話さないといけねーのが面倒すぎる。

 さて、そんなディルクは交代してから、魔物と戦う注意事項を色々言っていてうるせー。


『いいですか、この川沿いを上って行けば、水を飲んでいる魔物を発見できます。

 魔物を発見してもすぐに襲い掛からずに、他に魔物の仲間がいないか注意深く確認します。

 そして、魔物の数が多ければ逃げてください。

 逆に少なければ倒すチャンスですので、遠くから魔法を使って倒してください』

『剣で戦わねーのかよ?』

『剣も使いますが、カケルは剣で戦ったことがあるのですか?』

『ねーな…』

『でしたら、最初は魔法で倒す事をお勧めします』

 …。

 ディルクの言う事は理解できる。

 だがしかし、俺様は剣で戦いてー。

 その為に手入れさせたんだからな!

 まー、様子見だな。

 とりあえず、魔物を見つけねー事には話にならねー。

 俺様は周囲を注意深く見ながら、川を上って行った。


『いました!』

 ディルクの目には魔物が見えているらしーが、俺様は魔物を見つけることが出来てない。

 同じ目で見ているが、経験の差と言うものだろう。

 ディルクは魔王と戦えねー根性なしだが、魔物と戦うのには恐怖はねーみたいだな。

 悔しいが、ディルクに教えて貰るしかねーな。


『どこだ?』

『ほら、川の斜面の土の所です!よーく目を凝らしてみてください!』

 ディルクに言われた土の所を見ると、微かに動いているのが見えた。

 俺様の位置からおよそ五十メートルほど離れていて、動く物が何かははっきりと分からねー。

 分からねーが、あそこに何かいるのだけは分かった。


『あれはポイズントードと言う魔物で、土に擬態して水を飲みに来た魔物を捕食しています。

 なので、近づいたり攻撃しない限り動きませんので、今が狙い時です!』

『そうか…』

 さてどうするか?

 ディルクの言う通り、ここから魔法で攻撃した方が楽なのにはちがいねー。

 ポイズントード、いわゆるカエルだろ?

 カエルくらい楽に倒せなくては、勇者なんて言えねーはずだ。

 だがしかし、一応、ディルクに確認しておくか。


『おい、剣で倒す事は可能か?』

『はい、強い魔物では無いですし、剣で倒す事は可能ですけれど…』

『そうか、では剣で倒すぜ!』

『えっ、ちょっと待って!!』

 俺様はディルクを無視して剣を抜いて構え、ポイズントードに向けて駆け出した!

 っ!なんだ!?

 突然、体の底から力が湧いて来たのを感じた!

 そして、走る速度も常人では考えられないような速度に跳ね上がっている!

 これが、勇者としての力か!!すげーぜ!!!


「あっ!」

 俺様は急激に上がった速度について行けず、つーか、石がゴロゴロある場所で異常な速度で走れば転ぶのは明らかだ…。

 べちゃっ!

 手をつく間もなく顔からもろに石がある地面に倒れ、走った勢いのまま派手に転がって行った…。


「いてぇぇぇぇぇ!」

『だ、大丈夫ですか?』

 体中打ち付けていて、どこもかしこもいてー!

『大丈夫じゃねーよ!』

『でも、今は早く起き上がってください!ポイズントードが襲ってきますよ!』

 そうだ、魔物が近くにいるんだった!

 よし!剣は手放さずに持っているから戦える!

 俺様は慌てて体を起こすと、ぴょん、ぴょんと、俺様の方に跳ねて来るポイズントードが見えた!

 何だあれは!?

 あれがカエル!?

 俺様を一飲みに出来そうなくらい、でかいじゃねーか!!

 あれと剣で戦う!?

 いや、無理だろう!?

 ちっ!あんなでけーのなら、ディルクの言う通り魔法で攻撃しておくんだったぜ!

 後悔しても始まらねーし、ポイズントードは目の前だ!

 戦うしかねー!

 俺様は剣を両手で握りしめ、ポイズントードを斬り殺そうと構えた!


「うわっ!あぶねー!!」

 剣を構えた俺様に、ポイズントードは容赦なく舌を伸ばして来た!

 俺様の反応速度、いや、勇者の反応速度が無ければ躱し切れなかったぜ…。

 俺様は舌を躱した直後に間合いを詰め、ポイズントードに思いっきり剣を振り下ろした!


「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ぽよん…。

 俺様の剣はポイズントードの体に当たったが、ポイズントードの体がプリンの様に沈み込んだかと思うと、反動で俺の剣をはじき返して来た。

 ポイズントードは無傷な上に、俺様にまた舌を伸ばして来た!


「ちっ!」

 俺様は後ろに飛んで距離を離した!

『おい!斬れねーじゃねーか!』

『はい、ポイズントードの体は柔らかくて斬ることが出来ませんので、突き刺すしかありません。

 そして、ポイズントードの弱点は頭ですので、飛び上がって頭に剣を突き刺してください!』

『そういう事は早く言え!』

『だって、言う前に突っ込んで行ったじゃないですか!』

『ちっ!』

 無策に突っ込んだのは俺様だから、ディルクに文句を言えねー。

 まーいい、気を取り直してポイズントードを倒す!

 俺様はポイズントードの舌を避けながら間合いを詰め、華麗にジャンプしてポイズントードの頭に剣を突き刺そうとした!


 パクッ!

「ぎゃぁぁぁ食われたぁぁぁぁぁ!!」

 俺様は空中にいたので、ポイズントードが頭を上に上げて開いた口を躱すことが出来ずに、そのまま食われてしまった。

 ねちょっとした感触と、生臭い息で吐き気がする!

 だが今はそんな事を気にしている余裕はねー。

 早く口から逃れないと、このまま食われて死んでしまう!

 必死に体を動かして逃げ出そうとするが、ポイズントードはパクッパクッっと口を動かして、俺様を腹の中に納めようとしている。

『カケル、早く僕と代わってください!このままでは死んでしまいます!』

『お、おう、た、頼む!』

 情けねーが、この状況はやばい!

 すぐにディルクと交代した!


「ウルメラ ガウレ ホロル イスエス」

 ディルクが呪文を唱えると、俺様を咥えているポイズントードの口が凍り付いた!

 ディルクは力づくて凍っている口を開き外に飛び出し、そしてすぐさま、剣をポイズントードの喉元から頭上に向け突き刺した。

 俺様より素早い動きに驚いたが、これが勇者としての本来の動きだったのだろう。

 少しだけ、ディルクを見直したぜ…。

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