第十七話 翔 ボッチ
稼いでやると粋がってはみたが、俺様はこの世界での稼ぎ方を知らねー。
そもそも、ディルクの仲間はどうしているのか聞いて見た。
『おい、お前の仲間は何処にいる?』
『えっ、仲間なんていませんよ?』
ディルクは意外そうに答えやがった。
いや、普通勇者だったら、勇者を癒してくれる可愛いねーちゃんがいるだろ!
それか、何でもやってくれる小間使い的な野郎とかいるはず。
俺様の知識がこの世界の常識とは懸け離れているかも知れねーが、それでも一人なんてことはねーはずだ。
『何でいねーんだよ!』
『だって、勇者は昔から一人で戦わないといけないと言う伝統があるんですよ…』
『そんな、くそみたいな伝統守る必要ねーじゃねーか!』
『ぼ、僕だって最初は勇者と言うのを隠して他の人と組んでいたんだ!
だけど、僕が勇者だと分かると皆離れて行ったんだ…。
なぜなら、勇者は最終的に魔王と戦う運命にあるから、皆そんな危険な所には行きたくないんだよ…』
ディルクが少し寂しそうに言った…。
なるほど、理由は分かった…。
つー事は、俺様も一人で魔王と戦わないといけねーのか…。
宮下だけなら余裕で勝てるが、魔王を守る者達が当然いるよな?
まー、今はそんな事を考えるより、金を稼ぐついでに、俺様も戦い方を覚えないといけねーな。
俺様は喧嘩なら自信がある。
だがしかし、武術は一度も習った事がねー。
高校に入学する前は、空手や剣道をやってる連中にも負けはしなかったが、高校に入学してあいつに手も足も出ずに負け、武術の強さを知った。
悔しいが、あいつと喧嘩して、度胸と勢いだけでは勝てねー事を知れたのは、今思えば良かったのかも知れねーな。
『分かった、とにかく金を稼ぎにいこーぜ!』
『は、はい!』
俺様はディルクの案内で歩いて街から出た。
街から延びる街道には、多くの人達が行き交っている。
だがしかし、空を飛んでいる奴がいねーな。
『おい、この世界の人はみんな魔法が使えるんだよな?』
『はい、得手不得手はありますが、使えない人はいません』
『なら、誰も空を飛んでねーが、空を飛ぶ魔法はねーのか?』
『いいえ、ありますけれど、空を飛ぶ魔法は高度な魔法なので使える人は少ないです。
それと、空を飛ぶのは危険なんですよ。
空を見上げてください』
俺様は上空を見上げると、少し雲が漂う空に少し大きめの鳥が一羽飛んでいるのが見えた。
『あれはコールホークと言って、空を飛ぶ者に襲い掛かって来ますが強くはありません』
『強くねーなら倒せばいいじゃねーか!』
『ですが、コールホークは大量の仲間を呼び寄せます。
そしてその仲間は街道を行き交う人達にも襲い掛かるので、迷惑を掛けない様に街道沿いでは出来るだけ飛ばない、もしくは、コールホークを全滅させる必要が出てきます』
『なるほど、それで、勇者のお前なら倒せるんだろ?』
『倒せますけど、大規模な魔法を使わないといけなくなるので、やはり周囲に迷惑を掛けてしまいます…』
『ちっ!じゃぁ俺様も歩きかよ!』
『いいえ、僕は空を飛ぶ魔法が使えますので、街から少し離れた場所に行けば飛ぶ事は可能です』
『おっ、いいじゃねーか!早速空を飛ぶ魔法を教えろ!』
『えっ!今ですか?』
『当然だ!歩きたくねーからよ!』
『僕の話を聞いてましたよね!?』
『あぁ、コールホークが襲い掛かって来るんだろ?全部倒せば金になるんじゃねーのか?』
『多少お金にはなりますが、街から迷惑料を取られてしまいます…』
『通行人じゃなくて、街が金をとるのかよ!』
『はい…』
『ちっ!仕方ねーな』
この場で金を稼げるなら楽だと思ったが、そんな楽な方法があればみんなやってるか…。
仕方なく歩き、暫く進んだ所でディルクが森の中に入るように言って来たので、俺様は少し薄暗い森の中へと入って行った。
『カケル、僕と代わって下さい』
『あぁん?なんでだ?』
『空を飛んで移動するからです。
空を飛ぶのは難しいので、最初は僕がお手本を見せます』
『俺様が飛ぶから、魔法を教えろ!』
『絶対に怪我をするから駄目です!それから、帰りは使わせてあげますので、今は我慢してください!』
『……ちっ、仕方ねー』
ここで俺様が何を言おうとも、ディルクの声には絶対に譲らないと言う気迫がこもっていやがった。
魔法を使って見たかったが、金を稼ぐ前に怪我をする訳にもいかねーな。
仕方なく、ディルクと代わってやった。
「これから呪文を唱えて空を飛びますので、しっかりと覚えてくださいね」
『おう』
言われずともしっかり覚えるぜ。
ディルクはゆっくりと息を吐きだし、大きく息を吸い込んでから呪文を唱えた。
「コリドム ガウレ リムラデュ オムース」
『おぉ!すげーぜ!』
花ちゃんが作り出した魔法陣よりちいせーが、ディルクの足元に淡い光を放つ魔法陣が現れ、ディルクの体が少しだけ浮かび上がった!
「飛行魔法が行使されている状態です。
これから自分の思うままに飛ぶのですが、かなりの慣れが必要です。
カケルは僕が飛ぶのをよく見て覚えてください』
『任せろ、感覚で動くのは得意だ!』
「行きます!」
ディルクは気合を入れると前に進み、木々の間をすり抜けて飛んで行った。
『はえーな!』
「上空に上がればまだまだ早く飛べますが、コールホークと戦うのは面倒ですので暫くはこの速度です」
十分はえーが、ディルクはまだまだ速度は出ると言う。
確かにこれは、俺様が飛んでいれば間違いなく木にぶつかっているな。
だがしかし、何となく感覚は分かって来たぜ。
左右に避ける時には体重移動でかわし、上下に動く時は頭や手で重心を移動させているな。
速度の変化は、体から出ている何かの量の増減だ。
恐らくこれが魔力と呼ばれる物だろうが、初めての感覚に正直違和感を覚えているぜ。
その魔力が、空を飛んでいる間にどんどん消費されて行っている。
ディルクはそんな事を気にしていねーし、勇者だから魔力量も半端なく多いんだろうぜ!
「上空に出ます!」
ディルクが森から抜け出し、森の上を速度を上げて飛び始めた。
『はえーが、場所は分かってるんだろうな?』
「はい、毎日通っている場所ですから迷いません!」
『それなら構わねーがよ』
ディルクは迷うことなく森の上を飛びぬけ、山を二つ越えた所にある河原へと降り立った。
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