第十六話 翔 髭親父

 武器屋の中には多くの人がいて、俺様が待たされる事になった。

『朝は、前日に武器の修理や手入れを頼んだ人達が武器を受け取りに来ているのです』

『ちっ!てめーも手入れを頼んでおけよ!』

『だって…手入れにはお金がかかりますし…』

『だったら、武器の手入れくらい自分でやるしかねーだろ!』

『はい…』

『まぁいい、手入れする道具は売ってるんだろ?』

『たぶん、武器屋の親父さんに聞けば売ってくれるかと…』

『そうかよ!』

 十分ほど待たされ、やっと俺様の番が回って来たので、カウンターにいる髭親父に剣を差し出した。


「急ぎで手入れをしてくれ」

「今からか?」

「そうだ」

「普通、昨日のうちに出しておくもんだぜ」

 髭親父は文句を言いつつも剣を受け取り、店の奥に声を掛けると、奥から小学生くらいの男の子が出て来て俺様の剣を両手で受け取った。

「あのガキが手入れをするのか?」

「文句あんのか?」

「いや、てっきり親父がやってくれるものだと思っただけだ」

「そうしてもらいたいのなら昨日のうちに出しておくんだな。おら、あっちの椅子に座って待ってろ」

「ちっ、仕方ねーな」

 ガキの手入れに不満はあったが、無理を言ってるのはこっちなので大人しく引き下がった。

 酷い仕上がりだったら、文句を言って値段を下げさせてやるぜ。

 俺様が髭親父に言われた椅子に座ると、ディルクが話しかけてきやがった。


『ねぇ、どうして武器の手入れにこだわるの?』

『あぁん?んな事も分かんねーのか?』

『はい、すみません…』

『ちっ、仕方ねーな、教えてやるからよく聞け!

 道具ってもんは手入れをしっかりしておかねーと、いざ使う時に役に立たなくなるし、道具を大事にしねー奴は技術の上達もしねーんだよ!

 てめーが使っている剣は命を預けるもんだろ!

 手入れが行き届いて無くて敵が斬れなかったでは済まされねー。

 わかったか!』

『はい、良く分かりました!』

 まっ、じーさんの受け売りだが、間違ってねーはずだ。


 俺様のじーさんは大工だったんだが、今は小さな工務店の社長をしている。

 両親もそこで働き、俺様も卒業後はそこで働く予定だ。

 俺様は子供の頃から夏休みとか、じーさんには無理やり現場に連れて行かされてた。

 そこで、色々な事をじーさんから教わった。

 その中に、職人を見る時の注意事項として、先ず道具を見ろと言われた。

 きちと道具の手入れをし、整理整頓されていつでも使える状態にしている奴は使えると。

 そうじゃねー奴は大抵使えねーから、俺様もそうなるなよと口を酸っぱくして言われたもんだ。

 だから俺様は、道具だけは大事に扱うよう気を付けている。


『僕、カケルは悪い人だと勘違いしていました』

『あぁん?俺様は善か悪かと問われれば、間違いなく悪だぜ!』

『いいえ、そんな事はありません!』

 自分を善人だと思った事はねーし、自信をもって悪人だと言えるぜ。

 だがしかし、ディルクには善人だと思わせておいた方が何かと便利だろう。

 一応、俺様が悪人だとは伝えたし、勘違いしてるのはディルクだから放っておこう。


「おら、出来上がったぞ!」

 髭親父が大声で俺様を呼びやがった。

 うるせーなと文句を言いかけるが、大事な剣を髭親父が持っているのでぐっと我慢し、立ち上がって髭親父の所に行った。

「確認させてもらうぞ!」

「ふん、その前に代金千ユピス支払え!」

 俺様が剣を取ろうとすると、髭親父は俺様の剣を引っ込めて金を要求して来た。

 そういや、金を持ってねーな。

 宿屋での朝食は宿泊料に入っていたみてーだから、金を使ってなかった。

 着替えた時に、財布なんかも見なかった。


『おい、金は何処にあるんだ?』

『あっ、お金は首から下げているチェーンを引っ張り上げてください』

 ディルクに言われた通り首に手を伸ばし、金属製のチェーンを引っ張り上げて、チェーンに付いている物を取り出した。

『緑色のプレートが出てきたが、これか?』

『それです。それをカウンターの上にある黒い箱の上においてください』

 ディルクに言われた通り緑色のプレートを千ユピスと白い文字が表示された黒い箱の上に置くと、黒い箱の千ユピスが消え、支払い完了の文字が表示された。

 異世界に来たのに、カードで支払った感じだな。

 まぁ、便利なので細かい事は気にはしねーが。

 支払いが完了すると髭親父が剣を差し出して来たので、俺様は剣を受け取り確認して行った。


「ガキがやったにしてはいい出来だ」

 受け取った剣はピカピカに磨き上げられ、鞘も同様に綺麗になってた。

「俺が鍛えてやってるから当然だ!切れ味も新品の時とまではいかないが良くなっているはずだ」

「そうか、それと親父、手入れの道具はねーのか?」

「あるぞ」

 髭親父はカウンターの下から、 長い穴の開いた棒と瓶を一本だけ俺の前に置いた。

「砥石はねーのか?」

「砥石は高いし、素人が砥ぐと切れ味が悪くなったりするからおすすめしない。必要な時はここに持って来るんだな」

「分かった、そっちの使い方を教えろ」

 髭親父は長い穴の開いた棒の使い方と、瓶に入ったのが錆止めの油だと教えてくれた。

 こっちは三千五百ユピスとちょっと値が張ったので文句を言ったが、油が非常に高価で安くしてはくれなかった。

 金を支払い、長い棒と瓶を受け取って武器屋を出た。


『うぅ、お金が…』

『なんだ、そんなに金がねーのか?』

『まだ余裕はあるけれど…良い剣を買うために貯めていたんです…』

『そんな事か、金なんて稼げばいいじゃねーか!』

『そ、そうですね…』

 ディルクは金が減ったと泣き言を言っているが、勇者なら金なんてすぐ手に入るだろう。

 そういや、金の価値が分からねーな。

 武器屋で合計四千五百ユピス支払ったが、その金が高いのか安いのか分からねー。

 ディルクの反応を見るに、意外と高かったのかも知れねーな。


『おい、宿屋に一泊する料金を教えろ』

『えっと、宿屋は夕食と朝食付きで、一日五千ユピスです。でも、あの宿は高い方になります。

 安宿だと、一泊食事なしで二千ユピス程度です。でもそこは、本当に寝るだけの場所で、寝ている時に物を盗まれたりしますので、お勧めできません』

『そうか、食堂とかに行って飯を食えば、いくらくらいかかるんだ?』

『そうですね。今朝食べた朝食なら、四百ユピスもあれば十分かと思います』

『なるほど』

 俺様の感覚だと、朝食が五百円から高くても六百円くらいだ。

 ちょっと安めに考えても、一ユピス一円でも問題なさそうだな。

 だとしたら、武器の手入れ代金は千円で、意外と安いじゃねーか。

 千円で泣き言を言ってるなら、ディルクの稼ぎが少ないのか?

 だが、宿屋に泊まる金はケチってねーな。

 まーいい。俺様が張り切って稼いでやろーじゃねーか!

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