第十五話 翔 俺様勇者様

「ヒャッハーーーーーーー!!俺様が勇者様だぜ!!!」

 難しい事は良く分かんねーが、花ちゃんの魔法によって、異世界勇者の体を乗っ取ったぜ!

 俺様が勇者様になったからには、魔王のブタ(宮下)は簡単に倒せる!

 だがしかし、せっかっく異世界に来たんだから楽しまねーと損だよなー!

『ねぇ?』

 やっぱ、先ずは女だな!

 クラスのブス共は俺様を馬鹿にして相手にしねー。

 特に藤崎、松永、高山の三人は完全に俺様を下に見ていて気にくわねー。

 あの三人は見つけ次第、ぜってー犯してやる!


「ちっ!」

 花ちゃんが他人の職業を確認しろっつってた時に、俺様はブタをいじめて遊んでいた。

 だから、三人がどいつの体に入っているか見当もつかねー。

『ねぇ?』

 仕方ねーな。俺様が勇者様だから、クラスの誰かが近づいてくんだろ。

 その時に聞きだせばいい!


『ねぇ、ねぇ、僕の話聞いてよ?』

『ちっ!さっきからうっせーな!考えがまとまんねーだろう!少し黙ってろ!』

『あっ、ごめんなさい…』

 俺様の頭の中で声を掛けて来てるのは、この体の持ち主、勇者だった奴だ。

 こいつは勇者のくせに魔王と戦いたくねーと、俺様を受け入れたっつー情けねー奴だ。

 だがしかし、こいつのお陰で俺様が勇者様になっただから、話くれーは聞かないとまじーか?

 花ちゃんからも注意されたから、一応話を聞いてやる事にした。


『なんだ、用件があるなら早く言え!』

『は、はい、えーっと、初めまして、僕はディルク・レンドです』

『そうか』

 ちっ、名前を言いたかっただけか。

 下らねー事で邪魔するなと思ったが、今日から俺様の名前でもある。

 ディルク・レンド。ディルクか悪くねーな。

 俺様のダセーかけるよりはるかにましだ。


『えーっと、君の名前は何て言うのかな?』

『あぁん?俺様小松 翔、小松でも翔でも好きに呼んでいいぞ』

『は、はい、じゃぁカケルと呼ばせてもらいます』

 ディルクの事は放置して、俺様が今いる部屋を見渡した。

 部屋の広さは六畳くらいで、ぼろいベッドとテーブルと椅子に収納棚があるだけの見るからに貧しい部屋だ。

 ちっ、勇者だからもっと豪華な部屋に住んでると思ってたが、ぼろすぎて話になんねーな。

 だがしかし、これから俺様が活躍して豪華な部屋と女を複数手に入れればいいだけだ!

 やる気が出て来た所で、またディルクが話しかけて来やがった。


『ねぇ、カケル、出かけないの?』

『今から出かける所だ!何を持っていけばいいのか説明しろ!』

『は、はい!』

 ディルクに説明させながら、収納棚から取り出した灰色で地味な革製の鎧を着こんでいく。


『もっと丈夫でかっけー鎧は無かったのかよ!』

『いいえ、この鎧はオーガの革を使った鎧で軽くて丈夫な上に、魔法も防いでくれる優れた防具なんです。これでもかなり高かったんですよ…』

『自分で買ったのかよ!』

『当然です!』

『勇者っつったら、国から装備を与えられるんじゃねーのか?』

『貰えませんよ…』

『だがしかし、国の為に魔王と戦うんじゃねーのか?』

『それはそうなんですけれど…勇者は自分の力だけでお金を稼いで装備を集め、魔王との戦いに備えなくてはいけないんです。

 それに、装備を国から貰えば、魔王との戦いから逃げられないじゃないですか…』

『逃げるとか考えてる時点で、てめーは勇者じゃねーな!』

『僕もそう思います…。だけど、僕には生まれた時から勇者としてのスキルが与えられていましたので…』

『へぇー、所で勇者のスキルってなんだ?』

『それは、魔物と戦う時は強さが二倍になり、魔族と戦う時は強さが五倍になり、魔王と戦う時は強さが十倍になると言うスキルです』

『チートじゃねぇか、すげーな!』

『チートとは何ですか?』

『あぁ、反則つー事だ』

『まぁ、反則みたいなものではありますけれど、魔族や魔王はそれだけ強いと言う事です。

 それに、その反則みたいな強さをもってしても、歴代の勇者は魔王を倒せていません…』

『燃えて来るな!俺様が魔王を倒した最初の勇者になってやるぜ!』

『是非ともお願いしたい所ですけれど、僕の体ですから無理はしないで貰いたいです…』

『心配するな、俺様はつえーからな、魔王なんて簡単に倒してやるぜ!』


 鎧を苦労しながら着込んだ俺様は、剣を腰に差し鞘から抜き出した。

 剣もぼれーなー。

 使い込まれている剣は汚れていて、美しくもなんともねー。


『おいてめー、剣の手入れをしてねーだろ!』

『い、いいえ、ちゃんと帰って来てから拭いていますよ…』

『ちょっと手入れをするから、道具は何処にある!』

『あ、道具は棚の中にあります』

『これだけか?』

『はい…』

 棚の中にあったのは、血のりを拭きとったと思われる布だけだった。

 こんな布だけでは話にならねー。

『よし!先ずは剣の手入れからだ!武器屋に案内しろ!』

『は、はい、でもその前に、食事をした方が良いんじゃないでしょうか…』

『あぁん、そういや腹が空いているな。飯を食ってから武器屋だ!』


 部屋を出ると木の板で作られた長い廊下があり、俺様の部屋と同じような扉が幾つもあった。

『おい、ここは何処なんだ?』

『ここは白狼の宿と言う名の宿屋で、僕が愛用している宿屋になります』

『宿屋か、金も持ってなさそーだし、家はねーんだろうな?』

『はい…』

 ディルクが少し落ち込んだみてーだが気にはしねー。

 それよりも飯だ。

 宿屋の一階に下り、そこにある食堂に行くと、量だけ多い朝食が出されてそれを食った。

 悪くはねーが、特別に美味いと言う訳でもねーな。

 腹は膨れたから文句はねー。


 宿屋を出て、歩いて武器屋へと向かって行く。

 通りの真ん中は馬車が行き交っていて、人は両端を歩いている。

 花ちゃんが魔法が使えると言ってたが、飛んでいるやつはいねーな。


『おい、魔法が使えるんだよな?』

『誰でも使えますけれど、街中で不用意に使うと警備兵に捕まってしまいます』

『そうなのか、魔法で空を飛べたりしねーのか?』

『飛べる人もいますし、僕も飛べますが、街の上空は飛行禁止になっています』

『つまんねーな』

 ディルクから魔法の事を聞きつつ歩いていると、武器屋に到着したみてーだ。

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