第十九話 翔 魔物との戦い その二

『助かったぜ…』

 ポイズントードに食いつかれた時は、マジで死ぬかと思った…。

 兎滝川うりょうがわ 智哉ともやに喧嘩を吹っ掛けた時の事を思い出しちまったぜ。

 あの時も死ぬかと思ったからな…。

 あいつにだけは関わり合いになりたくねーぜ。

 そーいや、あいつもこの世界に来てるよな?

 どいつに入ったのか分からねーが、勇者にたてついてきたりはしねーよな。

 魔王の部下になっていない事だけを願いたいぜ…。


「ウルメラ ガウレ ホロル イスエス」

 俺様が思案している最中に、ディルクは倒したポイズントードを凍らせていた。

『何やってんだ?』

「腐らない様に凍らせているんです。そして、これを浮かべて運びますので、よく見て覚えてください」

『おう』

「ベゴアロ リムラキュ オムーラ オムース」

 ディルクが呪文を唱えると、でかいポイズントードがふわりと浮かび上がった。


「これで、僕の後ろを浮いたままついて来ます」

『すげーな!これで何匹でも運べるのか?』

「はい、と言っても十匹が限界です。それ以上になると、飛んで帰るのが難しくなります」

『なるほど、後九匹までは倒せるって事だな!』

「はい、ですが、カケルに任せると命が幾らあっても足り無そうです…」

『心配するな!今ので感覚は掴んだ』

「本当ですか?次は僕の言う通りにしてくれると約束してください!」

『わーってるよ。俺様も死にたくはねーからよ!』

「約束ですからね!」

 ディルクは念には念を入れてから、俺様と代わってくれた。

 体にはまだポイズントードに食われた時のままで、べたついていて気持ちわりー。

 一瞬、川に飛び込んで洗い流すかとも考えたが、汚れを落とす魔法があるかも知れねーからディルクに聞いて見た。


『おい、体を洗い流す魔法なねーのかよ?』

『そんなのはありませんけれど、水を頭からかける事は可能です。

 あっ、川には危険な生物が沢山いますから、入らないで下さいね』

『お、おう…』

 川に飛び込まなくて良かったぜ…。

 俺様は、ディルクに教えられた呪文を間違えない様に唱えた。


「ウルメル オムース ディラメ」

 言いにくい呪文を唱えると頭上に魔法陣が現れて、そこから大量の水が降り注いできやがった。

「うわっぷ、多すぎるんだよ!」

『でも、綺麗に洗い流せたと思いますけど…』

『洗い流せたが、ずぶ濡れじゃねーか!』

『そのうち乾きますよ…』

 気温がたけーから直ぐに乾くのは間違いねーが、ディルクにお仕置きされたみてーで納得いかねー。

 そいうや、ポイズンって言うくらいだから、このカエルは毒を持ってたんじゃねーのか?

 今の所俺様の体に異常はねーが、後から毒が回ってきたりしねーよな?

 毒で倒れす前に、ディルクに確認しておくか。


『おい、このカエルに毒はねーのか?』

『皮膚に触ると麻痺させられますが、勇者のスキルは状態異常を無効化するので効きませんよ』

『流石勇者ってとこだな』

 さて、気を取り直して魔物を狩って稼がないといけねーな!

 ディルクの指示に従うのはいい気分はしねーが、一度派手に失敗したから従わざるをえねー。

 魔物を見つけ、遠くから魔法を撃ち込み、魔物が弱った所で近づいて剣で止めを刺す。

 実に簡単で単純な作業に思えて来るが、初めて自分の力で魔物を倒せたのは自信になった。

 調子に乗らず、慎重に一匹ずつ魔物を倒して行き、気が付けば運べる最大値の十匹に到達していた。


『カケル、お見事でした!最初はどうなる事かと思いましたが、その後の動きは悪く無かったですよ!』

『まーな…』

 ディルクに褒められたが、あまり嬉しくねーな。

 綺麗なねーちゃんならともかく、野郎に褒められてもな…。


『帰りは来た時と同じように飛んで帰りますが、僕が代わりましょうか?』

『そう…だな、任せるぜ…』

『はい、分かりました』

 俺様も空を飛んでみたかったが、十匹のでかい魔物を引き連れて飛ぶとか、どう考えても無理だな。

 ポイズントードの時と同じような結果になるのは目に見えている。

 今日の所は大人しく、ディルクにお手本を見せて貰う事にした。


 ディルクは来た時より速度を落として飛び、無事に街の近くの森の中へと辿り着いた。

 そこで俺様と代わり、そこから徒歩で街の門の所までやって来た。


『カケル、魔物を持って帰って来た時は、左奥の門から入ります』

 ディルクに言われた門に向かうと、俺様と同じように魔物を浮かせて運んでいる者達が順番待ちをしていた。

『あいつらは冒険者か?』

『冒険者?いいえ、ハンターです。この世界で魔物を狩って生計を立てている人達の事を指します。僕も一応ハンターです』

『そうか』

 ハンターね。

 ハンターと言えば某ゲームを思い出す。

 魔物を狩るだけなら、冒険者じゃなくハンターだな。

 そういや、宮下を蹴っている時にハンターという言葉が聞こえて来たな。

 どいつがハンターになったのかは知らねーが、見つけたら俺様の部下にしてやろう!

 勇者の部下なら、喜んでなる奴がいる筈だ!

 あの声は確か…。


「ヒュー!流石は勇者様だぜ!」

「おう、今日もよく稼いで来てるじゃねーか!」

「俺たちにも少し分けてくれよな!」

 俺様が思い出そうとしていたら、数人のハンターが俺様に声をかけてじゃましやがった。

 ハンターたちは、俺様を完全に舐め腐った目で見て来ていやがる!

 ちっ!

 こんなふざけた連中は普段ならぶっ飛ばしている所だが、ディルクの知り合いかもしれねーな。

 ディルクに確認してから、違ったらぶっ飛ばす事にしよう。


『おい、あいつらは知り合いか?』

『え、えーっと、知り合いと言えば知り合いですけど…仲がいいわけではありません…』

『そうか、じゃぁ殴っていいんだな?』

『えっ、ちょっと待ってください!』

『何で止めんだよ!仲は良くねーんだろ!あいつらの目がむかつくんだよ!殴らせろ!』

『駄目ですよ!魔物を二、三匹渡せば絡んできませんので…』

『はぁ?おめー完全に舐められてんじゃねーか!!よし、俺様が奴らをボコボコにしてやる。それから、今まで取られた分を取り返してやるぜ!』

『だ、駄目ですよ!』

 ディルクは止めるが、俺様は問答無用にハンターたちに殴り掛かっていった。


「てめー、何しやがる!」

 一人を殴り倒すと、他の者達が俺様に殴りかかってきやがった!

 魔物との戦いは初心者だったが、喧嘩はちげーぜ!

 ディルクの鍛えられた体に俺様の喧嘩の経験が加わり、一方的に殴り倒せて最高の気分だぜ!


「おい、てめーら!」

「ひ、ひぃぃぃぃ、すいませんでした!」

「謝罪はいらねー。今まで取った分の金を寄こしな!さもなくば、今までの金の分だけ殴り倒してやるぜ!」

「わ、分かりました。お、お、お金を支払いますので、もう殴らないで…」

「わかりゃーいいんだ!」

 俺様はハンターたちを睨みつけ、金を受け取る約束を取り付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る