第十三話 優華 女王としてのお仕事 その一
『こんな物で良いかな?』
『良いと思います。後はわたくしが魔王本人に向けての手紙を書きます』
『そっちはお願いします』
宮下に向けての手紙はうちが書いて、魔王への手紙はエネットに代わって書いて貰った。
「お疲れさまでした。今日のお仕事は終了となります」
「疲れた~」
うちはテーブルに伏して、ノーラに愚痴をこぼす…。
「女王って、一日中何もしないで遊んで暮らしているものだと思っていたのに…」
「大きな国なら、その様な事もあるかも知れませんが、ロンランス王国にはその様な余裕はございません」
「それは残念…」
肉体的には疲れていないけれど、精神的にかなり疲れてしまった。
花ちゃんは十分な経験を積むまでと言い、明確な期限は言わなかった。
一日体験しただけでも大変なのに、これが毎日続くかと思うと、もう帰りたくなってしまった。
でもその前に、うちはやる事がある。
「ノーラ、お城の内部を見て回りたいのだけれど、案内して貰えないかな?」
「はい、それは構いません」
ノーラにお願いして、お城内部の見学させて貰う事にした。
「ティリメーヌ城は今から五百年ほど前に、ロンランス王国初代女王ティアメーヌ様が建城し、この国の守護の象徴として民の生活を見守って来ました。
老朽化が進んでいますが、今から十年前に大規模な改修を施しており、美しい姿を取り戻しております」
ノーラは各部屋を、うちに丁寧に説明してくれた。
うちは見たことも無い美しいし装飾や飾られている美術品に目を奪われながらも、視線をすれ違う人達に向けていた。
「使用人が気になりますか?」
「えっ、あぁ、うん…女性ばかりだなぁと…」
「はい、ティリメーヌ城内で働く者は、すべて女性となっております」
「そうなんだ!」
男性がいないと知り、とても嬉しくなった。
うちは男性が苦手という事では無いのだけれど、あまり好きではない。
どちらかと言えば女性の方が好きだけれど、百合という気持ちは全く無い。
ただ、好きになった人に女性が多いと言うだけ。
それに、うちの高校の男子達は一人を除いて馬鹿ばかりで、付き合う気にもなれない。
それに、ずっとあーちゃんの事が好きだし、余程の事が無い限り男性を好きになる事は無いと思う。
先程から、あーちゃんがどこかにいないか探してはいるのだけれど、うちと同じように他の人の体に入っているから遠くから見ただけでは分からない。
花ちゃんの事だから、きっとあーちゃんもここに居させてくれるに違いないと思うんだけどな…。
「えっと、うちの友…知り合いがメイドとして働いていると思うのだけれど…」
「そうなのですか、ですが、確認する事は難しいと思われます」
「そうですよね…」
ノーラには特別に、エネットがうちが体を使っている事を話したけれど、他の人に話して回る事は出来ない。
異世界から来た人が本人に成り代わっているなんて、口が裂けても言えないし、信じて貰えないと思う。
でも、うちならあーちゃんが入っている人を見分けられる自信がある。
うちの前にメイドを全員呼んで貰えば、あーちゃんを見つけられるけれど、そんな事をすればあーちゃんが困るだろう。
最悪、あーちゃんが成り代わっているのが誰かに知られてしまう。
そんな事は避けなければならないので、時間はありそうなのでこっそりと探してみるしか無さそう。
「もし、ユーカと同じように入り込んだメイドがいれば、直ぐに分かると思います」
「えっ!?そうなの?」
「はい、ユーカがそうであったように、簡単に他人に成りすます事は難しいと思われます。
ですので、以前より行動が変わったメイドがいれば、その人の可能性が高くなります。
私の方で調べてもよろしいでしょうか?」
「はい、お願します…」
うちはナイフを突きつけられた時の事を思い出しつつ、あーちゃんが見つかればいいなと思っていた。
そして翌日、うちは豪華なドレスを着せられ、頭に王冠をかぶせられていた…。
『エネットがやった方が良いんじゃないのかな?』
『いいえ、ユーカがやるべきです。その為にわたくしの体に入って来たのでしょう?』
『それは、うちが望んだわけではないけれど…』
『わたくしの貴重な時間は、全てノーラに甘える為に使います!』
『そ、そう…』
これからうちが何をさせられるかというと、玉座に座って来客の対応をしなくてはならないそうです。
普通の女子高生だったうちに、そんな事は出来ないと抵抗して見たのだけれど、エネットには受け入れて貰えなかった。
女王としてのドレスはとても美しく、エネットのキラキラと輝くプラチナブロンドの髪には花が幾つも飾り立てられていた。
凛とした顔には青い瞳が輝いていて、鏡に映る姿は絶世の美女と言った感じだ。
これが今のうちの姿で、エネットに、いや、女王として恥ずかしい姿を周囲に見せてはいけないと背筋が伸びる。
「お客様がお待ちです」
メイドに呼ばれて、うちはノーラでは無く、銀色に輝く重そうな鎧を着た近衛兵に連れられて謁見の間へと向かって行った。
彼女の名はロディエット、エネットを守護する近衛兵の中で一番強いそうで、エネットも信頼している。
普段のエネットならロディエットにも声を掛ける所だけれど、今は無駄話が出来る雰囲気ではない。
扉の前では他の近衛兵が待機していて、うちが近づくと無言で扉を開けてくれた。
謁見の間に入ると、玉座から五メートルほど離れた場所に、真っ赤な服に身を包んだ一人の男性が片膝を付き頭を下げていた。
他には玉座を守る近衛兵たちしかおらず、謁見の間は静まり返っていた。
うちはエネットの指示どうり優雅に歩き、玉座へと座った。
「面を上げよ」
うちの横に立ったロディエットが男性に声を掛けると、男性はゆっくりと顔を上げてた。
オールバックにした真っ黒な髪に、服と同じ赤い瞳がうちを見ていた。
『凄い美形ですね…』
『良いのは顔だけです…。いいですか、決して表情を変えず冷静に対応してください』
『分かりました』
うちはエネットの指示に従い、男性と話をする事となった。
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