第十一話 優華 ロンランス王国の状況 その一

『女王の朝食はもっと豪華な物だと想像していたのだけれど、普通ですね…』

『わたくしが質素にするようにと言いつけていますからね。ユーカがお願いすれば豪華な食事に変更する事は可能ですけれど?』

『いいえ、この方がうちに合っています』

 朝食のメニューは、焼きたてのパンとサラダに牛乳みたいな飲み物と綺麗に切られた果物が一個だけだった。

 量は十分あるし、お腹がすくような事は無いとは思うのだけれど、物語に出て来るような豪華な食事を想像していただけにちょっと残念に思った。


 朝食を終えたうちは、ノーラに連れられて別の部屋に連れて来られた。

 そこでは、二十人くらいの女性達がそれぞれの机に座って仕事をしていた。

「「「「「エルネット様、おはようございます」」」」」

「おはよう」

 女性達が一斉に立ち上がり挨拶をしてきたので、うちも挨拶をしながらノーラに着いて行き部屋の一番奥にある豪華な机に座った。

「エネット様、こちらの書類からお願い致します」

「ありがとう」

 ノーラが机の上に積み上げられた書類に目を通し、うちの前に差し出して来た。

 日本語とは違った文字だけれど、何故か読めてしまう。

 話す言葉も違うのだけれど、花ちゃんの魔法で自動的に日本語が変換されているから、文字も日本語として読めてしまう。

 でも、書類に書かれている内容はさっぱり理解できない…。

 目を通せばエネットが理解して、うちは了承のサインをするだけでいいから楽なんだけどね。

 女子高生に、女王としての仕事を理解しろと言うのが無理な話だと思う。

 午前中は内容が理解できない書類のサインをし、質素な昼食を食べた後はエネットの自室に戻って来て、朝と同じようにノーラと二人でテーブルの席に着いていた。


「まず初めに、ロンランス王国と周辺国の状況をご説明します」

 ノーラはそう言いながら、テーブルに地図を広げた。

(※地図は近況ノートに張り付けていますので、そちらを確認してください)

 ノーラは地図を指差しながら、うちに説明してくれた。


「大陸の右上にある、この一番小さな国がエネット様が治めるロンランス王国です。

 そして、ロンランス王国の西にあるのが、人族最大の国ルピオン帝国です。

 ロンランス王国の南側にあるのが、我が国と対立関係にあるルワース聖国です。

 ロンランス王奥の東南にあるのが、友好国の亜人の国ヴィルムーム国です。

 そして、ルピオン帝国の南にあるのが、魔王が治め魔族達が暮らしているガルガロンド魔王国です」


 うちは、ロンランス王国がガルガロンド魔王国と離れている事に安堵した。

 魔王と言えば、小松からいじめられていた宮下の事を思い出した。

 うち以外のみんなも、カーディアナの世界に連れて来られている。

 男子がどうなろうと、うちには関係ない事だけれど、クラスメイトと争いになる事は避けたかった。


「ノーラ、重要な事を伝えるのを忘れていました。

 花ちゃん…静寂の魔女だっけ?

 うちの様に、静寂の魔女に連れて来られたのは二十人。

 どの国に行っているのかは分からないけれど、職業なら分かるので今から話します」

「はい、よろしくお願いします」

 うちは思い出しながら、花ちゃんから与えられたクラス全員の職業をノーラに伝えていった。

 ノーラはうちの話を聞いているうちに、だんだんと表情が悪くなっていった。


「何と言う事でしょう…静寂の魔女は戦争を起こさせるつもりなのかもしれません…」

 ノーラは頭を抱えて悩みこんでしまった…。

 うちはどう声を掛けて良いのか分からず、エネットに聞いて見る事にした。

『エネット、ノーラが戦争と言っていたのだけれど…』

『その可能性は高くなったでしょうけれど、今はわたくしと話すより、ノーラと話してください』

『分かりました』

 頭の中でエネットと話していてはノーラが参加できないので、ノーラと話してからエネットの意見を聞く事にした。


「花ちゃんじゃなくて静寂の魔女は悪い人では無いから、うちらに戦争をさせようとこの世界に送り込んだのではないと思う」

「静寂の魔女が悪い人では無いと言うのは違うと思います。

 では、なぜ静寂の魔女と呼ばれているのかを説明します。

 静寂の魔女は今から約七百年前、数多くの国を滅ぼしました。

 その際魔女は全ての物を焼き尽くし、残された地は静寂に包まれていたのだそうです。

 故に、人々は彼女の事を恐れて静寂の魔女と呼ぶようになりました」

 えっ、なに!?花ちゃん七百年以上生きているってこと?

 そっちも信じられないけれど、うちには花ちゃんが国を滅ぼすような事をしたとは思えない…。

 でも、この世界と日本では状況も違うだろうし、うちらをこの世界に送り届けるような凄い魔女だから、国を滅ぼすくらい簡単にできそう。

 うちらが住む町を滅ぼされたくは無いので、帰ったら花ちゃんを怒らせないように心がけようと思った…。


「静寂の魔女の事は分かりましたけれど、一部を除いてクラスメイトの仲は悪くないので、戦争になる事は無いと思う」

 うちがそう言うと、ノーラは首を振ってうちの意見を否定し話を続けた。


「現在ルピオン帝国は勇者の出現により、ガルガロンド魔王国に大侵攻をかける準備を進めています。

 その事はユーカ達が訪れる前の事ですので関係ありませんし、ガルガロンド魔王国は強国ですのでルピオン帝国を相手にしていませんでした。

 ですが、勇者と魔王に、ユーカの様に誰かが入り込んだともなれば、話は変わってきます。

 ユーカの説明で、その二人は対立していたと言う事でしたよね?」

「はい、対立というか、一方的にいじめていただけでしたけど…」

「いじめていたのであればなおさらでしょう」

「そうですね…」

 勇者に入った小松は間違いなく、魔王の宮下を倒しに行くだろう。

 宮下は小林にやり返す機会を与えられたけれど…その根性は無いかな?

 でも、魔王は強そうだし、何とかやり返すのかも知れない。

 花ちゃんもそれを期待して、宮下を魔王にしたのだろう。

 よく考えて見れば、宮下が勇者なら絶対に魔王を倒しに行ったりはしなかっただろう。

 最初は逆の方が良いと思ったけれど、花ちゃんの判断は間違っていなかった。


「ガルガロンド魔王国は、本格的にルピオン帝国と戦争をする可能性が高くなってきました。

 そして、両国が戦争をすれば、その隙を突いてルワース聖国もどちらかに侵攻する可能性があります。

 もしかすると、ルワース聖国はヴィルムーム国か我がロンランス王国に攻め込んでくるかもしれません」

「そうなんですね…」

「あくまで現段階では可能性の話ですので、より多くの情報を集めて行かなくてはならないでしょう」

 ノーラはそこまで話すと「一息つきましょう」と言って、紅茶を用意しに行ってくれた。

 うちは無い頭を必死に回転させて、今までの事をまとめて行った。

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