第五話 彩 アリーヌになる
「五十嵐 彩さん、聞こえますか?」
「…花先生?」
花先生に呼ばれたので目を開いて見ると、そこは何も無い真っ白な場所で、花先生の姿は見えない。
そうだ、魔法陣の光に包まれて…それから私はどうなったのだろう…。
不安になるけど、今は花先生から話を聞くしかない。
「花先生、ここは何処なのでしょうか?」
「この場所は空間の狭間に私が作り出した場所で、これから五十嵐さんにはカーディアナの世界へと行って貰います」
「カーディアナって、ここはパソコンの中なのですか?」
「いいえ、違います。詳しく話すと大変なので簡単に説明します。
五十嵐さんは現在魂だけの存在となっています。
これから地球とは違う世界、カーディアナに五十嵐さんの魂を送り、アリーヌと言う名の少女に五十嵐さんの魂を同居させます。
同居ですのでアリーヌの意識もありますし、五十嵐さんの職業体験が終われば、五十嵐さんも日本に帰れます。
アリーヌさんも元の状態に戻りますので、安心してください」
「えっ!えっ!?」
私は誰かの体に入るの!?
そんな事出来るの!?
色んな疑問が湧き出て来るけれど、混乱して上手く言葉に出来ない…。
「直ぐに理解するのは難しいでしょうけれど、アリーヌの体に入ってしまえば嫌でも理解できると思います。
ルールを説明します。
五十嵐さんは、アリーヌの体を借りてメイドの仕事をして貰います。
期限は特に無く、五十嵐さんが自信を持てた時に日本に帰れます。
そして、カーディアナで何年過ごそうとも、日本に戻るのは授業が終わった時間、日本時間で三十分くらいしか進んでいませんので、安心してカーディアナの世界を楽しんでください。
最後に、一日に最低一時間、最長二時間まではアリーヌさんに体を使わせてください。
寝ている時は駄目ですので、起きている時間に代わってあげてください。
それを怠ると、五十嵐さんの魂がアリーヌの体に縛り付けられてしまい、日本に帰れなくなりますので注意してください。
何か質問はありますか?」
「えーっと…少し考えさせてください」
「はい、いいですよ」
花先生に言われた事を頭の中を整理する。
出来るかどうかは考えないとして、私はアリーヌと言う少女の体の中に入り込む。
アリーヌの体を借りて、メイドとして働く。
私は働いた事は無いし、メイドという仕事がどういったものなのか良く分からないけど、仕事を通して私が自信を持てれば帰れる。
曖昧で良く分からない条件だけれど、とにかく仕事を頑張ればいいって事だよね?
気になる事があり、花先生に質問してみた。
「花先生、アリーヌさんは私が体を使う事にを同意しているのでしょうか?」
「はい、していますし、アリーヌにもメリットがある事ですので、そこは心配しなくていいですよ」
「そうですか。それともう一つ、万が一、私がアリーヌさんの体に入っている時に事故とかで死んだ場合はどうなりますか?」
お父さんは、青信号を渡っていても事故で亡くなった。
だから、普通に生活をしていたとしても、死ぬ可能性はゼロでは無い。
「そうですね。五十嵐さんの不注意、もしくは故意で亡くなった場合は、残念ですが五十嵐さんもそこで死んでしまいます。
しかし、予期せぬ事態で亡くなった場合は、五十嵐さんとアリーヌは私が責任をもって生き返らせます」
「えっ!生き返る事が出来るのですか?」
一瞬、お母さんの為にお父さんを生き返らせて欲しいと思ったけれど、十年以上前の事だし花先生に迷惑はかけられない。
それに、お父さんが生き返って来れば大騒ぎになるに違いない。
そんな事を花先生がするとは思えないので、その考えを頭の隅に追いやった。
「出来ますけど、余程の事でない限りは生き返らせませんので、注意してください」
「わ、分かりました…」
交通事故は、予期せぬ事態に含まれるよね?
でも、ファンタジーの世界に車は無いのかな?
とにかく、注意して行こうと思う。
「質問は以上ですか?」
「はい」
「どうしても困った時は、頭の中で強く私を呼んでください、一度だけ助けに行きます。では、アリーヌの体に送りますね」
「お願いします…」
目の前が再び眩い光で覆われ、次に意識を取り戻したのはアリーヌの体に入った時だった。
『来たのかな?』
「あれ、頭の中で声が聞こえる」
『私はアリーヌ、貴方はアヤですよね?』
「はい、私は五十嵐 彩です」
そうか、私は花先生が言った通りアリーヌの体に入ってしまったんだ。
私は周囲を見渡し、状況を確認する。
アリーヌはベッドに横になっている状態で、私が来るのを待っていたみたい。
立っていれば私は転んでいたかも知れないので、アリーヌの判断に助けられたみたい。
『それで、頭の中で聞こえる声はアリーヌさんの声なんだね?』
『そうです』
『あっ、アリーヌさんは、私の考えている事も分かるんだ?』
『いいえ、アヤが強く考えた事だけ分かるみたいです』
『そうなんだ、これからよろしくお願いします』
『こちらこそお願いします』
考えている事が全部筒抜けになったら恥ずかしいし、嫌だと思うので良かった。
今は夜だと言う事で、少しだけアリーヌと話して寝る事にした。
そして翌朝から、アリーヌの体を借りてメイドとして働く事になった。
『アヤは窓拭きが上手ですね…私は二年も窓拭きをやっているのに…全然上手くなりません…』
『私が上手かどうかは分からないけれど、家の掃除は毎日やっているし、窓拭きも定期的にやっていて慣れてるからかな?
それと、この魔法で作った水が綺麗だからだと思う』
窓拭きで大変なのは、水垢を残さない事だとお母さんに教えて貰った。
普通の水道水には色んな成分が含まれているので、拭き残すとそれが汚れになる。
だから家で窓を拭く時には、不純物が含まれない蒸留水を使っていた。
多分魔法で作った水も不純物を含んでいないから、乾拭きをした後に汚れが残っていないんだと思う。
『一応最後の仕上げとして、私が持っている、汚れが見えるスキルを使ってみてください』
『えっ、どうやって使うの?』
『えっと、汚れが見えろーって念じる感じです!』
『そ、そうなんだ、やって見る…』
スキルと言うのは、魔法とはまた違うのかな?
取り合えず言われた通り、汚れが見えろと念じて見た。
すると、綺麗に見えた窓ガラスの所々に、汚れが付いているのがはっきりと見えた。
『これ凄い!』
『えへへ、凄いでしょう!私はこのスキルがあるから、お城で働けるようになったのです!』
『そうなんだ』
アリーは自慢げに話しているし、本当に凄くて便利なスキルだと思う。
私は早速汚れが残っている所を綺麗に拭いて行った。
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